むちゃくちゃやんけとんでもないバケモノを生み出してしまったのではないかと簓は少し弱気になった。
盧笙の話。
というか割といつも簓が考えるのは盧笙のことばかりだ。恐らく己の脳のリソースの50%は盧笙に割いているだろうし、脳のどこかの器官は全て盧笙のことを考えるためだけにあると簓は自分の賢いおつむのことについてそう信じてやまない。
脳内から出るセロトニンとかオキシトシンとかなんかそういうやつは全部盧笙が生み出すんちゃうかな、いやそれは言い過ぎか。あれや、最近DRBのおかげでお顔が売れたせいでお呼び掛かるんは嬉しいけども、ロケ/営業/ひな壇ばっかで小屋に立たせてもらえへんのも悪いな、ウン、事務所も悪い。ドーパミンがドパ〜って出る仕事させてくれへんのが悪いわ。今週は衝撃映像見る仕事ばっかさせよって、最近もう仕事で楽しいの『ラジオでどんだけ盧笙の名前を出さずに盧笙の存在をニオワセ出来るかチキチキチキンレース』ぐらいしかご褒美ないわ、いや、嘘、それは嘘、ヒリつく時はワクワクするわ、オオゴショサマとかよう分からんモデル崩れちゃんとかが場をとんでもない空気にしよる時とか。あの空気をどうするか腕の見せ所、大変ヒリつくけど、あ。でもそれよう考えたら別にめっちゃ楽しい訳ちゃうわ。ンー、俺は俺の笑いってモンを信じとるけど、それはそれとして俺の笑いはコスパが悪い。ちゃんと『オモロい』っていうゴールにみんなでお手々繋いで辿り着くために、事前に入念な下準備ってやつがいるからなあ。番組アンケとかの宿題もやけど演者の予習と傾向対策。はーあ、それを全部自分のおかげとか功績とか勘違いしよる奴らさんはチョロくてええなあ、…と真っ黒な腹ン中で笑うフェーズも俺ん中で過ぎてもうて、なんか一周回ってもう好きにして、って話やねんけどな。まあどっちにしても俺のお腹が真っ暗なことなんておくびにも見せたらへん、〝今日も糸目で元気でにこにこなぬるさらちゃん はーと〟やから、こんな俺のキモチなんてほぼ全人類誰も分からんのやけどね。ええねん、ぬるっと円滑に動いてさらさら〜ってみんなが笑ってくれればそれで。…アカン中二病や、ちゃう、高二病ってやつや…、……──高二といえば、昨日インスタで見た『#今日のロショセン』の図書室で本読んどる盧笙のショットよかったなぁ。いつも情報提供おおきにや、ミカちゃんやナオちゃん…
簓の頭の中はだいたいこんな感じ。23辺りからわりとこんな感じ。で、25辺りで完全に簓の中の何かが逝ってしまい何かが生まれ、そこから盧笙に対する想いと一緒に簓は生きている。
なので26で再会した日から、もうどんな手を使ってもありとあらゆる手段と方法を用いてリアルな盧笙とも生きると決意している今日このごろ。自分の人生を変えていく事はやはりどうあがいても自分自身でしかないので、その辺りは強気なスタンスの簓ではあるが、それはそれとしてリアル盧笙のことはなかなか大変とてもタチが悪いとも思っている。盧笙はいつだって簓の想像を軽々と越えていき簓の心をいつだって掴んで離さない。
JK達と普段戯れとるから発想が柔和なんかな。
バカ正直で素直でピュアなとこもめっちゃあるよなあ。あと性善説を地で行くからなぁ盧笙。
……──と、いうようなことを簓は2秒ぐらいで思った。
口の中はほろにがカラメル味だけが残る。
『ロケで見つけてん、なんやキャンディショップ?ウメダ駅のあっこにもあるやつ。なんかとのコラボでプリン味やって〜』
と盧笙が帰宅したタイミングを見計らって簓はお洒落なパッケージを遠慮なく割き、中の飴を一個 口の中に放り込んだ。
『ふぅん。なんやプリン味の飴なんて聞いたことないなあ。』
『期間限定やって、欲しい?なあ、欲しい?』
簓としては盧笙が今日も元気で居てくれればそれだけで嬉しいし、盧笙が簓のことを認識している、それだけで自分は日本一の幸せ者だと思っている。割と本気で。なので盧笙の声を聞くなんてもうセロトニンをはじめとする脳内物質はガンガン簓の脳内で放出されるし、盧笙との会話のキャッチボールが出来ただけで12時間ぐらいは元気に働ける。だからそれ以上なんてものは、
れ、
と口の中の飴が消えた。
『ちっちゃ。』
いやちっちゃ、…………………………………………やないやろ盧笙…なにが起きてん今…。
『いっつもグダグダやかましいお前が悪いねん。まどろっこしい』
照れながら、とか、はにかみながら、とか?なら分かるわ。
なんでそんな心からめんどくさそうな顔でそんなことしといてそんなこと言うん……。
あれか?こないだひな壇で見た〝キスフレが当たり前なJK〟ってホンマやったんか。また妙な流行作りたいんか知らんけどキスフレって前から聞くやん、時代遅れってかオッサン共のJK信仰ホンマキショイなあって思ってたんやけど、あれホントやったってことなんか、盧笙、ぎょーしんのせーとちゃんにJK向けの雑誌見してもろてるて前一回言うてたし、そういうのに書いとることとかJKちゃんたちの言葉全部信じとるってことなんか、アレか、俺も読んだほうがええんかティーンズ向けの雑誌…。やって、あ、そうや、そういえばあの恋愛リアリティーショー、一回パネラーゲストで呼ばれた俺より詳しかったもんな盧笙…。
簓は何を言って良いか分からず、とりあえず雑に封を開けたパッケージをそのまま盧笙の前にスッと出した。
「なんやオシャレやなあ。でも食事前やからアカン。」
優しい先生か。いや優しい先生やったわ盧笙。
俺はどうしたらええねん。いや一生添い遂げる気やけど…イッショウイッショニイテクレヤ…ってやつやけど、ウン、ライフタイムでリスペクトやねんけど…、
「俺…そのうち抱かれるん…?いや盧笙が望むならええねんけど…」
「アア!?」
パン、盧笙の華麗なツッコミ。はっ。盧笙にこうやって頭を叩かれる、このツッコミにおける脳の損傷?ダメージ?で、もしかして俺更におかしくなってるのかもしれん。プロレス?ヴィジュアル系?か?なんかで?そういうの脳の揺さぶりにおけるなんちゃら〜におけるなんちゃらが重大でなんちゃら〜って聞いたことあるし。
んー、やったら俺みたいなバケモンが生まれたのも盧笙のせいや。18から叩かれ続けとったし。なーんや。盧笙って俺に愛情を与えすぎるとんでもオバケや、なんちゅうもんを生み出してしもたんや俺、って思たけど元を正せば盧笙のせいか。
いや俺の全ては盧笙のせいや。強気で行こ。
と、簓は思った。
そしてもう一度キスがしたく、盧笙の顔に顔を近づけたところ盛大に叩かれ脳が揺れ、幸せ、と思った。