斜陽の凪にて 苛立だしげな雰囲気を隠しもしない、神経質な足音が響く。
帝国テュポーンの軍師であるアルナスルは、帝国の中枢である宮殿の回廊をやや足早に歩いていた。書庫で軍備の配置立案と帝国植民地にて施行する新たな律令案を組み、一人で没頭していたところ、慌てた様子の人間の軍人と部下に突然呼び出されたのだった。彼らの要件は厩舎で暴れ出した帝国の軍馬を鎮めてほしいと、些細な、極めてつまらない事柄だったが、帝国で使役する馬はただの馬ではなく改造を施された生体兵器であるため、暴れ出すと並の者では手が付けられない程凶暴であった。それらを宥められるのは厩舎の管理を行う調教師の一団か、星墜射手の称号と「星馬」の因子を持つアルナなど、限られた者にしかできなかった。なお、その肝心の調教師数人は、馬に頭を噛み砕かれて死んだらしい。
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