続き、ようやく からあげと卵焼き、しっかりと味が染みこんだ飾り切りの入った椎茸が筑前煮のなかで存在を主張している。
オーソドックスな弁当とともに桜を愛で、春を寿ぐ喧騒を聞きながら缶ビールで乾杯をする。そんなささやかな花見を夢見ていたのに、弁当のために準備もしていたのに、その夢は叶わなかった。
「……いやぁ、天気ばかりはどうしようもないからねぇ」
藤丸宅にあがりこんだ斎藤はカーテンの隙間から外を眺めると苦笑混じりにつぶやいた。
この日なら、と斎藤のスケジュールにあわせて予定を組んでいたのに、よりによってピンポイントで桜雨となってしまったのだ。それも結構な降り方で。
傘をさして出歩くことも考えたがそれすら躊躇うほどの雨足で、もう観念して作るはずだった弁当のメニューの一部をただ家で食べることにした。
896