今年も、今年はきらびやかなあかりが灯りはじめた夕暮れ時、駅前は常よりも人通りが多かった。
その誰しもがどこか浮足立っているように思えるのは今日が12月23日だからだろうか。
大事そうに抱えられた四角い箱や、ロゴを見ただけで得も言われぬ匂いが漂ってくるような赤い箱が行き交い、思わずため息をついてしまう。
コンビニで買った適当なおにぎりを口いっぱいにほおばりながら、車内は沈黙に包まれていた。
こうやって隙間をみつけてはなんとか軽食を胃に放りこみ続けて、どれくらい経っただろうか。
「ん? あらま偶然」
「先輩?」
「おーい、立香ちゃん!」
パーシヴァルからの問いかけには行動で返事をして、斎藤は窓を開けるとひらひらと手を振りながら雑踏へと声をかける。
近くを歩いていた藤丸は突然の呼びかけに驚きながらも、すぐに車へと近寄っていくとぺこりと頭を下げた。
「こんばんは、お二人とも。お仕事ですか?」
「はいこんばんはー。そうそう、もうずっとお仕事してるし、こっから一週間はさらに忙しくなるんじゃないかなー……」
いくらか濃くなったように見える目の下のクマがなによりも疲労を物語っている。
その様子に、お疲れ様です、と藤丸は苦笑いを浮かべている。
「ま、僕らのことはいいのよ。立香ちゃんは? これからバイト?」
「いえ、今日はサークルの飲み会です」
「飲み会? なんでまたイブイブに」
「今日から三日間は自分が金を出すから飲むぞお前ら、と黒髭さんが全員に声をかけてまして……」
「うわ、はは、言ってそうだなぁ」
吹き出した斎藤はそのまま咳き込んでしまい、ペットボトルを手にとると何度か傾けた。
「毎日出るの?」
「いえ、明日はバイトだし、25日はまだ決めてなくて……」
「……あー、学生にとっちゃ稼ぎ時だよねぇ」
妙な間が空いてしまったのは、バイト先の店長の顔が頭を過ったから。
とはいえそれを口にするわけにもいかず、当たり障りのない言葉でお茶を濁す。
「あの、一ちゃん忙しいと思うんですけど、オレは今日の飲み会の後とか、明日の昼間とかは空いてて、その……」
「うん?」
「あ、会えないかな! 何時でもいいから……そう、シチュー作りすぎちゃって、連絡しようとは思ってたんですけど……」
マフラーにうもれている頬が赤いのは決して寒さのせいだけではないだろう。
突然の誘いにかたまってしまった斎藤越しに、藤丸はもちろんパーシヴァルさんも、と運転席へ声をかける。
ありがとう、とにこやかに返事をするパーシヴァルとは対照的に、斎藤はしぼり出すような低い声をようやく出した。
「絶対行く。時間作る。行けるようになったら連絡するから」
「ありがとう、一ちゃん。でもお仕事大変だろうし、無理はしないでね」
「大丈夫。大丈夫にするから大丈夫」
「それほんとに大丈夫?」
「藤丸君、待ち合わせの時間は大丈夫かな」
壊れたラジカセのように同じ言葉を繰り返す斎藤を尻目に、パーシヴァルは藤丸へ問いかけた。
促されスマホで時間を確認すると、藤丸はやば、と小さく呟いた。
「オレ、もう行きますね。じゃあ二人とも、お仕事がんばってください!」
「はーい、どうもー。また後でね」
なんとか戻ってきた斎藤は今度はニコニコと笑いながら、去ってゆく藤丸の背中へと手を振った。
その先輩の様子に肩をすくめながら、パーシヴァルは手元のゴミをまとめ、いつでもすぐに車を出せるように準備をする。
「ところで先輩、魅力的なお誘い、私もご相伴にあずかりたいところなのですが」
「……今度焼き肉でも食いに行くかぁ。なんでも好きなもの頼みなさいね」
「そうですか。楽しみにしておきますね」
表情を変えないままのパーシヴァルを苦々しく思うものの、特大のプレゼントの前にはなんだって些末なことだ。
今日こそは、今日だけは、早く仕事を切り上げなければならない。
「よし、とっとと帰るぞ!」
「なにごとも起きませんように」
「いやフラグじゃんやめて!」
ただただ善意で呟かれたのだろう言葉ははたして吉と出るか凶と出るか。
静かに走り出した車は夕闇の街のなかへと消えていった。