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    kan_00

    @kan_00

    できた短文を見て見てするところ

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    kan_00

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    とあるカルデアのはじぐだ♂
    クリスマス当日の話というよりは2023年のクリスマスイベントの話です。
    まだ終わってないので早く読みます。

    特別だからひかえめなくしゃみが聞こえて、斎藤は瞬時に顔をしかめた。
    ちゃんとあたたかい格好をするように、とほかの者から注意されるも、藤丸は笑っている。
    片手には林檎を持ちながら、普段と変わらない礼装で一面の銀世界にいるのはやはり異様な光景だ。
    礼装は専用のものでなくとも、ある程度は環境にあわせた効果をもたらしてくれるらしいが、やはりこんなところに来るのであれば相応の礼装を着るべきだったのではないだろうか。
    出発前にもそう進言したのだが、こっちの方が対処しやすいだとかなんとか、聞き入れてはくれなかった。
    風邪でも引いたらどうするのだ、と食い下がりたいところだったが、作戦に必要だと言われてしまえば口をつぐむしかなかった。
    そんなわけで、それみたことか、と声に出しはしなかったが存分に目で語りながら、斎藤はおおきなため息を吐きだした。
    「一ちゃん、次もお願いできるかな」
    「マスターちゃんのお望みとあらば何度でも行きますよ。だから僕のお願いも少しは聞いてもらえないかなぁ。せっかくあったかそうなサンタさんの服もらったんだから、あっちにしたら?」
    「いやぁ、あれだと微妙に足りないんだよねぇ……まあまあ、もうちょっとだけ回ったら今日はもうやめとくからさ」
    さあがんばろう、なんてかじった跡の残る林檎を高らかに掲げてみせる藤丸に、斎藤はやはりため息しか出なかった。
    これと決めたらなにをおいてもやりぬいてみせる頑固さは、マスターとしては好ましいものなのかも知れないが、藤丸自身のことを思えば心配の種のひとつでしかない。
    こんなやりとりを微小特異点に赴くたびに繰り返してきたおかげですっかりお馴染みの風景になってしまった。
    本人がどうにかしないのなら周りが気にしなければと、まるで保護者のようだと揶揄されながらも藤丸の様子を確認するのが癖になってしまったが、それにしたって、と斎藤は片眉をあげて思案する。
    どうにも、いつもより高揚しているのではないか。
    すでに体調を崩していてそれ故にテンションをあげて乗り切ろうとしているのか、とも思ったが、そうではなさそうだ。
    サーヴァントひとり一人に声をかけては楽しそうな笑い声を響かせている。
    素材集めに奔走している最中でも、皆がほがらかにいられるのはマスターの機嫌のよさが伝播しているからだろうか。
    いいことではある。
    いいことではあるのだが、その理由がわからず、斎藤はどうにも据わりが悪かった。
    「うん? どうしたの?」
    「いや……マスターちゃん上機嫌だなって」
    じっとみつめる視線に気がついた藤丸に声をかけられ、斎藤は思ったままを口にしていた。
    「えー、そうかなぁ。大変だし、みんなに無理させてないかなーとか、そういうことも考えてるんだけどさ、」
    同意を示すように頷いて相槌を返すと、へへ、と藤丸は笑ってみせた。
    「クリスマスとかそういうイベントってやっぱりテンションあがるし、なにより、今年も無事にみんなと一年過ごしてきたんだなって思うとうれしくなるからね」
    はにかむ顔は幼さを感じさせるようなものでもあるのに、言葉の重みとどうして歪なバランスを作り上げていた。
    無事、ではなかった者たちがいて、新たな出会いもあって。
    それを繰り返してきた藤丸のはてしない旅路にとって、一年の終わりとはただ日めくりを一枚捨てる以上の意味などないものだろうけれど、それでも。
    「今年もあとちょっとだけどさ、楽しいことは楽しまないともったいないじゃん」
    でしょ、と見上げる藤丸に、そうだね、と笑って返して。
    そっとつながれた手をやさしく握りこんでやると、一層藤丸の瞳がキラキラと輝いて見えた気がした。
    「今年はずっと一ちゃんにお世話になってた気がするなぁ」
    「そう? 僕としてはもっと頼ってくれてかまわないんだけど」
    「いやいや、十分働きすぎだって」
    「それマスターちゃんにだけは言われたくないからね」
    おっと、なんて呟きながら口を手で押さえたりなんかして。
    こんな他愛のないやりとりは、真っ白の地平じゃなくてもっとあたたかな場所で行われるべきもののはずだ。
    「来年もよろしくね。って、さすがにまだ気が早いか」
    つないだ手を軽く引くと、照れ笑いを浮かべている藤丸がこちらを向いた。
    空いた手でその頬に触れるとやはり冷たくなっている。
    はじめちゃん、と呼ぶ声には応えず、頭を撫でて、前髪をかきわける。
    口付けた額も冷えきっていて、最早何度目かわからないため息が出てしまった。
    「あ、あの、一ちゃん……?」
    「……風邪引いたら承知しないからな」
    「えっ、あっ、はい!」
    「とっとと帰ってあったかい茶でも飲みましょうや」
    マスター、と呼びかける誰かの声が聞こえ、斎藤は名残惜しそうに指先まで撫でながら手を離した。
    その仕草に藤丸の頬はわずかに染まり、理由はどうあれ血色がよくなったことに斎藤は満足げに笑ってしまった。
    「なに、なんで笑ってるの?」
    「ひーみーつ」
    「えー!」
    ほら行くよ、と先を歩く斎藤の背中に文句をぶつけても、答えが返ってくることはないだろう。
    もう、とぼやいて、藤丸も歩きだす。
    二人分の足跡は、すぐにもっとたくさんの足跡のなかに混ざっていったのだった。
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