いついつまでも　おそらく特異点のようなもの、とダ・ヴィンチ女史は首を傾げながらそう言った。はじめて観測されたものだ、彼女だってすぐにわかるはずはない。
　そんなわけで相性のよさそうなメンツをひとまず揃えてみたところ、全員がセイバークラスだったのも彼女を混乱させていた。これまで時代や国での相性はあったけれど、クラス別ってのもよくわからない。
　とはいえ放置しておくわけにもいかず、様子をみて危険だと判断したら連れ帰ること、と厳命を受けつつ選抜されたのが僕だった。逃げることに関しちゃ一家言あるとはいえ、並いる剣豪、騎士様方よりも僕が選ばれていいものかね。
　しかも飛び込んでみればあの宮本武蔵が鎮座ましましてるときたもんだ。
　全身が総毛立つ、血が沸き立つ。武者震いで今にも鯉口を切っちまいそうだ。
　……とはいえ、任務中にそんな勝手をするわけにもいかず、なんとかデータだけとって帰還してみればキラキラと目を輝かせているダ・ヴィンチちゃん。曰く、ここはボーナスステージとかなんとからしい。
　よくわからんが、不安げな顔で見送ってくれた彼女が楽しそうにしているのはなによりだ。とはいえあの宮本武蔵が相手なのだから一筋縄ではいかないけれど、そこは首脳陣とマスターちゃんが相談してなんとかするのだろう。
　そんなわけでもうお役御免だろう、じゃあ、とその場を離れようとすると、えっ、と背後から驚いたような声が上がった。
「ん？　どったのマスターちゃん」
「一ちゃん、なにか用事ある、とか……？」
「いんや、別にないけど」
　そう返事をするとさらに驚いたようで、見開かれた目が落っこちそうだ。というかそんな驚くようなこと言ったか？
「じゃあ嫌だから、とか？」
「ごめん、なんの話？」
「戴冠戦の話。一緒にきてほしいんだけど」
　首を捻って主語を探すと、とんでもない答えが返ってきた。ダ・ヴィンチちゃんが名付けた大層な名称に思わず笑ってしまう。
　そんなもの、と口にしてしまって言い直す。
「そんな大層なもの、僕なんかじゃ力不足でしょうよ。もっとふさわしいサーヴァントにしな」
「……オレのセイバーにそんなこと言わないでほしいんだけど」
　ひらひらと手を振りながら去っていこうとした背中に、マスターちゃんの鋭い声が投げかけられる。
　ピタリと足を止め、振り返るとダ・ヴィンチちゃんが肩をすくめて首を振っているのが見えた。そちらに目をやりつつマスターちゃんの顔を見れば、強い視線が射抜いてくる。
　怒っている。いや、これは少し違うな。
「これまで力を借りてきたサーヴァントはたくさんいるよ。みんな強いし頼りにしてる。これからも一緒に戦ってもらうと思うよ。それでもオレは一ちゃんにきてほしいと思うし、あの強い武蔵ちゃんと戦うなら一ちゃんしかいない。なのに……！」
「わかった、ごめん僕が悪かった！　悪かダ・ヴィンたからもうその辺でやめて！」
　ぐっと拳を握ってまっすぐこっちを見て、詰め寄りながら叫ぶその言葉は衆人環視のなかではもうクリティカルすぎるんだわ！
　僕が悪かった、ともう一度続けるとまだ言い足りないんだけど、とマスターちゃんは不満そうだ。言わせたいとか思っていたわけでは全然なくて本当に僕じゃない方がいいと思っているけど、こうまで言われて無碍に扱えるわけないじゃない。
「そんなこと言って、後悔しても知らないからね？」
「オレのセイバーがそんなことするわけないじゃん」
　行こう、と差し出された手をとるとダ・ヴィンチちゃんが愉快そうに笑っている。そりゃ笑うわな、自分でも情けない上に柄にもないことしてると思う。
　でもまぁ、もうこうなりゃなりふり構わずマスターの望むままに戦ってやろうじゃないの。その末に過ぎたものが冠されたとしても、よろこんでくれる顔が見られるなら甘んじて受け入れるさ。