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    モブ視点の🦍🦇、支部から移行したものになります。優しいシンヨコで生きる彼らの短いはなし。

    我が名は吸血鬼学校の用務員さん。
    間もなく定年、というところまで勤め上げたところで吸血鬼の襲撃を受け後天性の吸血鬼化、今や生き字引に近い存在で市内の小学校を転々としている。
    「おはようございます!」
    「はい、おはようございます」
    妻を看取り子を看取り、そろそろ孫すら見送ってしまいそうな年月を吸血鬼として過ごしている。それでも、日々を元気に過ごす子どもたちを見守る仕事に従事していることを、私は誇りに思っていた。ついこの前までお母さんに連れられないと校門近くまで来ることが出来なかった新一年生は、いつの間にか随分と窮屈そうにランドセルを背負うようになっている。時の流れは早いと言うが、吸血鬼になってしまってからはそれが顕著だった。
    「あ、こんにちは。検査ですか?」
    「こんにちは。そうなんです、定期検査」
    後天性の吸血鬼たちは、VRCにより定期検査を受けることが義務付けられている。その日訪れたVRCの診察室前、待ち合いスペースのソファに座っていると、よく見かける退治人が声をかけてくれた。
    ロナルドウォー戦記の筆者にて人気の退治人であるロナルドとその相棒かつ吸血鬼ドラルク。肩には小さなアルマジロが乗っていて、あぁいつ見ても伝記の通りなのだなぁと感心する。
    派手な仕事と思われがちな退治人業であるが、勿論華々しく戦うことだけが業務ではない。吸血鬼避けの薬剤散布やそれに伴う説明会、職場内吸血鬼に対するコンプライアンス講和、仮性吸血鬼化における対処講習など、退治人が関わる業務というのは多岐に渡る。
    私が彼らと顔見知りであるのには理由があった。小学校の低学年は年に一度、対吸血鬼用防犯グッズ講習を受ける。そのボランティア講師として彼らが小学校に派遣される際、度々顔を合わせるようになったのだ。
    「お疲れ様でした」
    「はぁ、……すみません、お手数おかけします」
    初めて彼らと対面したのは、はて、何年ほど前のことだったろうか。
    小学校には残念ながらシャワー室等の設置はない。職員室脇の給湯室で悪戦苦闘しながら髪の毛を洗った退治人は、濡れた髪を拭いながら溜め息をついていた。講習では、防犯カラーボールの使用方法についての説明が行われ、若き退治人がその的となった。逃げるから上手く当ててみろよ、とグラウンドに出たが最後、スポ少野球部強豪校である我が校のエース級ピッチャーたちにより、吸血鬼のコスチュームを身に纏った退治人はあっという間に七色のカラフルな色合いに変身してしまった。付き添っていた吸血鬼はスマートフォンでそんな彼をしっかりと撮影しながら、げらげらと笑い続けていた。
    小学校への講習は、退治人ギルドに登録されている複数人の退治人がランダムに割り振りされるらしい。私が勤める小学校と、彼らが担当する小学校とがかち合うことが何度かあり、そのたびにもてなし、準備を手伝い、片付けを行った。次はどこの小学校に行くんですか。もしかしてうちの学校ですか。そんなことを尋ねてみれば、いえいえ、と笑いながら首を横に振られてしまった。
    「来週、○○高校に後天性吸血鬼化についての講和をしに行くことになって。ほら、俺ももう歳だから。小学校で走り回るのは、若いのに任せてるんですよ」
    「おや、そんなことはないでしょう。まだまだ現役じゃないですか」
    「ふふ、彼もね、もう吸血鬼のコスプレするような歳じゃないってことですよ」
    「いやいや、きっとお似合いですよ」
    そんな世間話をしているうちに診察の順番が回ってきた。私はふたりに別れを告げ、診察室へ向かった。そうか、彼らはもう、小学校での講習から外れてしまっていたのか。何となく淋しさを覚える。騒がしくも楽しげな彼らのやり取りをみるのは、なかなか面白かったのに。
    診察結果を待つ間、手持ち無沙汰になった私はブックラックの週刊誌を手に取った。退治人ロナルドの記事は、あの頃も今も変わらず大きく特集されている。なるほど、今は後進の教育にも力を入れているらしい。そうして彼らの記事を読んでいるうちに、ふと気が付いた。
    ここは、VRCだ。後天性吸血鬼定期検査を専門に行う病棟に、今私はいる。では、彼らは一体。閉じた週刊誌の表紙に目を凝らす。
    吸血鬼退治人・吸血鬼ロナルドと相棒吸血鬼ドラルクの密着取材と書かれてあった。
    あぁ、そうか。そうなのか。
    彼も私と同じであったか。
    後天性吸血鬼は、それを受け入れる人間が多くないため、定期検査は体調面よりも、精神面のケアに重きをおいていることが多い。私は割と受け入れられた方ではあるが、やはり眠れない夜もたまにはある。
    走り回ることをやめた退治人と吸血鬼は今や語り部として、少しだけ大人になった子どもたちへ教育する立場になっているらしい。それは本当に素晴らしいことではあるが、出来ることならば、グラウンドや体育館を駆け回る彼と、そんな彼を見守る相棒の姿を見てみたいと、そう思うのだった。
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