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    支部から移行のΔ🦍🦇、少しだけすレナべ表現あり、吸血描写あり。ご注意ください。

    「隊長、それ」
    「ん?あぁ、ちょっと切っちゃってね」

    書類を受け取るドラルクの左手の人差し指には、絆創膏がくるりと巻き付けてある。黒のベネチアンマスクで目元を隠した部下からの指摘を、上司であるドラルクはさらりと流した。包丁でちょっとね、というと珍しいこともあるものだと返される。

    「料理がお上手だと聞き及んでおりますが」
    「指を切ることくらいあるよ。はい、こっちは確認と承認済み。どうぞ持って行って」

    受け取った分以上の書類の束を渡してやれば、部下はそれ以上は何も聞かずに隊長室を後にした。何せこちらには、まだまだ処理せねばならない書類が山のようにあるのだ。

    「……なぁに、ロナルドくん。お腹空いちゃった?」
    「おっ、もうバレた?」
    「匂いきっついんだもん。はいおいで。窓は閉めるんだよ」
    「はぁーい」

    ダンピールであるドラルクにとって、吸血鬼の纏う気配は、強い臭気となって鼻腔を刺激する。時に目眩や頭痛すら伴うそれは、ロナルドに関してだけ言えば慣れによって耐性が付きつつあった。鍵を開けておいた窓を乗り越えて床に降り立った美しき吸血鬼は、ドラルクに言われた通りにきちんと窓を閉め、鍵をかける。たったこれだけのことを教え込むのに数日を要したことが、随分と前のことのように思えた。
    死ねない吸血鬼が死にたがっている。
    そんな通報を受けたドラルクの元に、巡り巡ってロナルドが転がり込んできた。それは文字通りの意味で、VRCですら手を焼くという高等吸血鬼の保護と監視とを兼ねている。そうやって目を光らせていないと、周辺の家屋へ甚大な被害が出てしまうのだ。力の加減も知らぬ大きな五歳児たる吸血鬼は、外へ出れば何かを壊し、室内に引き込めばまた何かを破壊した。
    力の加減を知らぬロナルドに懇切丁寧に説明するも暖簾に腕押しで、疲れ果てたドラルクは吸血鬼を「ご褒美」で釣ることにしたのだった。

    「午前中、何にも壊さなかった?誰かに迷惑もかけなかった?」
    「大丈夫だった!」
    「そう、偉いね。お昼はもう少し待ってね、これでも摘んでてくれる?」

    はい、とドラルクが取り出したのは、クッキーの詰められたタッパーだ。きらきらと瞳を輝かせたロナルドはそれを奪うようにしてひったくると、ありがとうと礼を述べて蓋を開けた。さくさく、と小気味よい咀嚼音を聴きながら、ドラルクはキリの良いところまで書類整理を進めていく。
    何も壊さず、誰にも迷惑をかけずにいられたら、食事以外のご褒美をあげる。
    そんなドラルクの口車に、吸血鬼はいとも簡単に乗ってくれた。何せ吸血鬼らしからぬ吸血鬼たるロナルドの食欲は相当のもので、与えたものを好き嫌いせず気持ちのいい食べっぷりで平らげてくれた。それが嫌いだと言えば嘘になる。何せドラルクは、作ることは好きでもそれを食べ切るだけの胃も体力も持ち合わせてはいなかった。
    長丁場の交戦では差し入れと称しあれこれ作って持ち込むことはあったものの、ロナルドほど爽快に食べ尽くしてくれる隊員は多くない。作りたい欲求と食べたい欲求とが合致する上に、ロナルドは言うことを聞いてくれる。これをウィンウィンと言わずしてなんと言うのだろうか。
    ふと、クッキーを噛み砕く音が途絶える。あぁもう食べてしまったのか。ドラルクが書類から視線を上げるより早く、デスクに大きな影が落ちた。

    「ドラ公」
    「ん、どうしたの」
    「あのさ」
    「駄目だよ、仕事中だから」
    「ひと口だけ、な?」
    「駄目だってば」

    大きな手のひらがドラルクの手首を掴む。ぐ、と握り込まれ痛みに呻くドラルクの手から、ロナルドはそっと書類を引き抜いた。ついこの前まで書類をびりびりにしてしまっていたくせに。はぁ、と溜め息をひとつ落としたドラルクが視線を上げる。抜けるような青い瞳と視線がかち合った。

    「指は良くないな、少し怪しまれちゃったから。どこにする?」

    椅子を後ろに引き、ドラルクは自身の身体をロナルドへと向けた。じっとりとした視線が全身を這う感覚を味わいながら、ドラルクは吸血鬼からの答えを待つ。

    「ここ」

    長い指が指したのは、足の付け根だった。

    「ここの血が一番新しくて美味い」
    「あのね、職場でそんなこと言わないの」
    「飲みたい、飲ませて。ひと口だけでいいから、なぁ」

    ロナルドの手が隊服へと掛けられる。ゆっくりと、しかし確実にひとつひとつの釦が外され、上着が広げられる。ベルトのバックルが外される音を聞きながら、ドラルクは誰も来ませんようにと祈った。手元には粗方の書類が揃っているので、余程緊急の通報がない限り、部下が駆け込むことは恐らくないだろう。

    「うあ、えっちなやつ着てんじゃん」
    「こういうのじゃないとサイズ合わないって何回も言ってるでしょ。ほら、吸うなら早くして、誰か来ちゃう」
    「へへ、見られちゃまずいもんな、隊長さん」
    「……ん、……ッ」
    「はー、……えっ、ろ」

    床に膝をつき股座に顔を沈ませた吸血鬼が、その肉の少ない鼠径部に牙を立てる。ぷつり、と浮かぶ血を音を立てながら啜るその銀髪に、ドラルクはそっと指を絡めた。下着の紐を解き指先に緩く巻き付けていた吸血鬼は、ちらりとドラルクを見上げると口の端を吊り上げた。じくじくと痛みを孕み血を滲ませる足の付け根に、分厚い舌が這っていく。
    「ご褒美」は基本的にドラルクが手ずから作った料理が殆どで、それにごく稀にドラルク自身の「血」が追加されることがあった。浅く傷をつけ滲む血を啜るということを、既に複数回、ドラルクは許してしまっている。保護という名目で吸血鬼を手近に置いている吸隊の隊長としては、それは有るまじき行為であった。力の加減を知らぬ我儘な吸血鬼を抑えるための手段のひとつ。そんな大義名分が無ければ、到底認められるはずの無い行為だ。

    「きもちいい?」
    「……良いわけあるか」
    「んふふ、かぁわいい」
    「あ、……ぅ、ん」

    ぢゅう、とひときわきつく吸い上げると、ロナルドは緩めたその紐を結い上げ、乱れた衣服を整えていく。美味かった、ご馳走様。そう笑う吸血鬼が髪を掻き上げた。

    「ドラルク、俺さ、飲んでみたい血があって」

    破瓜ってどういう意味か、知ってる?
    子どものような口調だった。知らないなら教えてやろうか。そんな雰囲気を滲ませる吸血鬼の言葉に、ドラルクの背中が粟立った。

    「破瓜の血、飲んでみたい。いつか飲ませて。そうしたら俺、なんでもお前の言うこと聞いてやるよ」

    屈託なく吸血鬼が笑う。笑いながらその美しい碧眼は真っ直ぐにドラルクを見据えている。その瞳の称える獰猛な光に、ドラルクは吸血鬼を「ご褒美」で釣るということの弊害が何たるかを、知ることになるのだった。
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