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    支部から移行したモブ視点🦍🦇、クリスマス時期のお話

    業務放送、業務放送。
    この時期の宝飾品店に御来店される予定の、お若い男性のお客様に申し上げます。
    特にパートナーへ初めてのプレゼントをされるお客様、十分ご注意ください。
    パートナーの指のサイズはしっかり把握されていらっしゃいますか?小さめをご購入されてサイズのお直しに来られるのはまだ良いかもしれません。随分とゆとりのある寸法でご注文されたお客様、お連れ様の視線が大変痛うございますね。しっかりサイズを採寸させていただきます。
    また、男性と女性とではどんなデザインを可愛いと感じるか、少々の差異があるように思われます。お客様の思う可愛いは、確かに可愛いものではありますが、お相手様の好みのデザインでしょうか?先程拝見しましたお相手様のお写真から察するに、可愛らしいものよりシンプルなデザインを好まれるのではありませんでしょうか……あぁ、こちらで。はい、はい、かしこまりました。リングケースは選べますので今サンプルお持ちしますね。
    素材にもしっかりと注意してください。金属アレルギーをご存知でしょうか。異種族、特に吸血鬼への贈り物の際には充分な確認を行ってください。ごく稀に、銀を使用した宝飾品でも問題無く身につけることが出来る方もいらっしゃるそうですが、殆どの場合、吸血鬼への銀製品の贈り物はタブーかと思われます。


    延々と脳内アナウンスを繰り返しながら、宝飾品店勤務の私は接客を続けていく。需要の特に高まる繁忙期。明けても暮れても接客と発注とを繰り返す。パートナーと連れ立って来店されるお客様は、対応時間は長いもののほぼ100パーセントに近い確率でご満足いただける商品の提供が出来る。頭を抱えがちなのは男性のみの単独来店、また指輪のサイズ、デザイン、素材等の目星もなく購入したがるお客様の対応だ。
    「……えっ、あのお客様、シルバーリングで発注してたの!?」
    「ご本人がそれでいいと、仰っていたので……」
    「待って待って、退治人ロナルドのパートナーって吸血鬼のドラルクなんでしょ?その彼に銀製品って……」
    「私もそう思ってたんですが、ご本人の気に入ったデザインがシルバーリングしかなくて、それでどうしてもと」
    発注書を確認したところ、信じられない内容のものを見つけてしまい、担当した後輩に確認をとった。退治人ロナルドと吸血鬼ドラルクといえば新横浜でも有名なコンビである。公私共に良い仲であるという彼らを担当した後輩は、どうやらふたりのファンだったらしくバックヤードではあまりの感動に咽び泣いていた。最高の贈り物を一緒に選びます!!と複数のカタログと共に店頭に戻った彼女は、しかし接客を終えるとまるで繁忙期後の私のような這う這うの体で、休憩室の椅子にその身を沈めていた。
    「……なんでロナルド様があの見た目でモテないのかわかりました」
    でもご納得いただくものを見つけましたので、と彼女は満足そうな表情を見せてくれていたはずなのに。
    「……もうお渡ししちゃったんだよね」
    「……しちゃいました」
    「うーん……最悪クレーム入るかな……相手が吸血鬼って知った上でのことだもんね……」
    「そ、そうなんですよ……どうしよう……」
    そうして真っ青になった彼女を慰めながら、気がつけば数日が経ってしまった。プレゼントをするであろうクリスマスはとうに過ぎていて、私たちは顔を見合わせ首を傾げるばかりだった。文句も言わずパートナーの吸血鬼は銀の指輪を受け取ったのだろうか。そんなことを思っていたある日のことだった。退治人が吸血鬼と連れ立って来店したのだ。
    「やあやあすみません。うちの五歳児がこちらでお世話になったようで」
    よく通る声。そんな声の主の後ろでしょんぼりと肩を竦めた退治人は、週バンの表紙とはまるで別人のように見えた。
    「あ、あの、その節は大変失礼致しました……!返品でも交換でも、真摯に対応させていただきますので……!」
    きっちり垂直に身体を折り曲げた後輩は、吸血鬼に負けず劣らずの声の通りをもって謝罪した。そのあまりに見事な謝罪っぷりに、どうやら吸血鬼も面食らってしまっているようだったので、私は援護射撃をすることにした。
    「この度は大変申し訳ありません。吸血鬼に銀製品はご法度ということは重々承知しておりましたが、私共の確認不足によりお客様にご迷惑を……」
    「あぁ、いやいや、ご迷惑だなんてとんでもない。今日伺ったのは、ふたりでペアのものを選ぼうと思いまして」
    「……えっ!?」
    「ふふ、いやぁもう、サイズから何から無茶苦茶だったものだから。どうせなら一緒に買いに行こうということになりましてね」
    そう言って笑う吸血鬼は、しょげる退治人との対比もありひどく愉しそうに見える。吸血鬼は不満そうな表情のひとつも見せず、今の流行りのデザインがどんなものか、どういった素材がお勧めなのかをひとつひとつ丁寧に確認していった。ロナルドくんは、好きなものと似合うものとがだいぶズレてるからねぇ。笑いながらサンプルを眺める吸血鬼の隣で、居心地悪そうに退治人は唇を尖らせている。
    「こういうものは、長い間着けてても違和感がないデザインを選ぶものなんだよ」
    例えばこんなタイプはどう?とカタログを指さす吸血鬼に、退治人が頭を寄せた。密やかにああでもないこうでもないと話し合うふたりを見ながら、私は改めて報連相の重要性を噛み締める。ひとりで突っ走るのはよろしくないですよ、退治人さん。そんなことを思いながら、ふたりの好みを探っていく。
    そうして漸く彼らの満足するデザインのものを、きっちりと測ったサイズと身につけて問題のない素材で発注するに至った。退店間際にそっとシルバーリングは返品しなくて良いのかと尋ねると、
    「あぁ、あれはね、そのまま戴いておきました。だって、ねぇ。可愛い彼の、初めてのおつかいでしょう」
    こっそりとそう答えてくれたその吸血鬼の表情を、私はきっと、生涯忘れることができないだろう。
    あの表情は、あの退治人の選んだあの指輪だからこそ、引き出すことが出来たに違いないからだ。
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