呑んでものまれるな テーブルに並んだ瓶や缶。それらはとっくにぬるくなっていて、ほとんどのプルタブやキャップが開かれたまま放置されているのもあり、底の方に残る液体はすっかり炭酸が抜けきっていた。
とりあえず、掌にあるほぼ空のビール缶をこねていた潔はアルコールによってもたらされる浮遊感と隣にある熱源から意識を背ける為に持っていたそれを煽った。
けれども、舌先にぽたぽたと落ちた数滴程度の酒では到底解決出来ない問題がすぐ横に迫っていて、もはやどうにでもなれとさらに重みを増している右肩へと顔を向ける。
あまりにも近すぎて全体像はうまく見えないが、逆にそれでよかったと安堵するくらいには鼻先をくすぐる黒髪の感触は柔らかい。
しかも、同性かつ、自分よりもずっとガタイが良い相手な筈なのに漂ってくる匂いは驚く程に爽やかで潔はついつい呼吸を一度止めた。
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