写真集の為の撮影は丸三日掛けてパリの主要な観光地を中心に行われた。凱旋門からシャンゼリゼ通りにかけて、ルーブル美術館、リュクサンブール公園などなど。エッフェル塔はライトアップの時間に合わせて昼夜とで二パターン撮った。
主要な観光名所はじっくりと見る時間こそ少なかったが、殆どを制覇したと言っても過言ではない。
過密かつ、充実したスケジュール。その後に待っていたのは予め言伝されていた滞在四日目、パリでの丸一日のオフだった。
今や多忙を極め、それなりの知名度を持つDRAMATIC STARSは日本国内では表を堂々と歩く事も難しい。しかし日本から離れたこのフランスの地では自分達を知る人もそう多くはないだろう。悲しい話ではあるが、それは追々知らしめていけば良い。
存分に羽を伸ばして下さいね!そう言ったプロデューサーは、何処か嬉しそうだった。聞けば、行きたい所があるんだと意気揚々と答えてくれた。
出国前、桜庭はガイドブックを片手にどうしたものかと考えていた。次に決まっている仕事でオペラに関係した撮影があった事を思い出し、元になったと言われるオペラ座の内部見学を、と考えた。しかしそれだけで一日を潰してしまうのも惜しい。とはいえ、一日なんていうのはあっという間に過ぎ去る。それが仕事ではない日は尚更だ。
ペラペラとガイドブックを捲る。ふと目に入ったそれに、桜庭は視線を止めた。
「桜庭、どこ行くか決めたか?」
なぞるように文字を追っていた所に声を掛けてきたのは天道だった。
「君は決めたのか」
「俺もまだなんだよなぁ。前来た時と今回の撮影で見たい所は粗方見ちまったし…」
うーんと桜庭と同じ様に眉間に皺を寄せて天道は悩む素振りをみせた。
そういえば数年前にワールドツアーと称して行ったライブで、天道はフランスの地へと降り立っている。大きなスーツケースからあれやこれやと出した沢山のお土産と共に、それは楽しそうに思い出話に花を咲かせていたのが昨日の事のようだ。
「そうだ!折角だから一緒に回ろうぜ!」
「遠慮する。それなら柏木かプロデューサーのガイドでもしてやったらどうだ」
「つれない事言うなよー桜庭ちゃん。……それにさ、フランスの街をデートする、なんて早々できないだろ?」
「デート…」
ニッコリと笑う天道に桜庭は眉を顰めた。言い方に腹は立ったが最近は写真集の撮影の為に日本での仕事を詰め込んでいて、桜庭も天道も個々の仕事に忙殺されていた。必然的に会う時間が少なくなっていたのも確かだ。それに。
「その日は丸一日オフ、だろ?」
まるで桜庭の思考を読んでいたかのように天道は言葉を重ねた。
そうだ。プロデューサーは確かに休みだと言っていた。存分に羽を伸ばせと。ならば特段理由無くして恋人としての誘いを断る道理もない。
桜庭は先程読んでいたページをとんとんと指差した。
「ここに行きたい。案内を頼めるか」
「ん?どれどれ?…あぁ!ここなら前に行った時に通ったぜ!桜庭らしいな!」
桜庭の要望はどうやらすんなり通りそうだ。天道のやけに嬉しそうな顔が、桜庭には眩しく写った。