Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    hariyama_jigoku

    リス限はプロフ参照。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 51

    hariyama_jigoku

    ☆quiet follow

    カトシス小説。再掲。「貪愛1」

    ##グラブル

    .

     泥のように、全身に疲労が重く圧し掛かっている。騎空挺のタラップを上がる足が、鉛にすら感じられて仕方がない。誰かにすれ違う度に労いの言葉をかけられ、なんとか愛想を絞り出した。表情筋がみしみしと音を立てている、そんな幻聴まで聞こえてくる。だが、あと少しだ。ここ最近出ずっぱりだった任務がようやく終わり、しばらくはゆっくりと休めるだろう。
     体を引きずるようにして訪れたのは、自室ではない。目的の部屋に辿り着き、ドアを三度軽く叩いた。
    「はーい」
     入室の許可を得ると、ドアノブを回して部屋に入る。
    「失礼します、団長さん。ちょっと、今大丈夫ですか?」
     カトルが声をかけると、団長が机に落としていた視線を上げた。珍しく、苦手だと言っていた書類仕事に向き合っていたようだ。かつん、とペンを机に置く、小気味よい音が鳴る。
    「任務帰り? お疲れ様、報告はまた後日って言ってなかったっけ?」
     確かにそういう手筈にはなっていた、が少々事情が変わったのだ。不思議そうに、団長が少し首を傾げる。
    「ええ。ですがちょっと数日だけ、休暇を貰いたくって。その打診ついでに報告も済ませてしまおうかと」
     そう思って出向いたのだが、都合が悪かっただろうか。積まれた紙の山は、中々多いように見えた。
    「仕事のお邪魔でしたら出直しますが」
     タイミングの悪い―――と思わないでもないが、勿論それぞれに事情のあることは分かっている。他の団員に言伝でも頼んでおくかと踵を返そうとすると、慌てたような声が続いた。
    「あー大丈夫大丈夫! 僕もちょっと休憩したかったし。書類にばっかり向き合ってると、息が詰まっちゃって」
     困ったように笑う団長が、体をほぐすように腕を伸ばす。それならばと、てきぱきと報告を連ねていった。疲労によってカトルの思考がけぶっていようとも、報告に支障が出るようなことはない。少々骨が折れましたが、無事に解決しました―――という言葉で結んで、渡した報告書を読みながら団長が頷いた。
    「ありがとう、大体分かったよ。長丁場だったから疲れたでしょ。お休みの方も、しばらくここには停泊する予定なんだ。ゆっくり休んできてよ」
    「助かります。出発までには戻りますね」
     比較的に大きな街のあるこの島は、活気もあって依頼も多い。この島に滞在して、情報収集といくらかの依頼をしばらくこなすということは聞いている。
    「そういえば」
     ふっと団長が顔をこちらに向けた。報告は終わったことだし、部屋を出ようと思っていたのだが足を止める。
    「シスもお休みが欲しいって言ってたんだよね。珍しいなー、と思ったんだけど何か聞いてる?」
    「……僕が、シスさんのこと知ってると思います?」
     視線を外し嘆息混じりに吐き出すと、団長が僅かに首を傾けた。嘘はついていない、と不思議そうにカトルを見つめる目を逃れる。時折、年に似合わぬ鋭さを見せることがあるが、これはどちらだ。そっと握っていた拳につい力が入ると、団長は少し苦笑した。
    「前からあんまり仲良しって感じじゃなかったけど、最近話してるのをよく見るからさ。仲直りしたのかなって」
    「そもそも喧嘩なんかしていませんよ。そりが合わないだけです」
     そりが合わないのは事実だが、世間的に言うならカトルとシスは恋人同士という間柄なのだろう。大っぴらにしていることではないから、他の人間には言っていないだけだ。勿論、シスが休みを取っているのも知っている。
    「そうなの? じゃあ仲良くして欲しいんだけど」
    「考えておきますよ。じゃあ僕はこれで」
     そそくさと部屋を出るカトルに、ひらひらと団長が手を振って見送られた。直接言いはしないものの、仲良くという言葉を広義の意味で捉えるならば団長の要望には十分応えているはずである。

     グランサイファーのタラップを降りて、漸く肩の力が抜けた。先程は疲れからか足を引きずるようにして歩いていたが、今は幾分か足取りも軽い。シスとはここ最近は落ち着いて話すこともしていなかった。互いに出ずっぱりで休日も思うように傘ならず、どうにか一段落ついたのが今である。
     人でごった返す港から、街の外れと足を向けた。入り口から少し行った先で、シスと落ち合う予定になっている。その後は人目につかず口の堅い、所謂逢引き用の宿を借りるつもりだ。
     互いへの好意はあるが、甘ったるい関係とは言い難い。だが、溜まるものは溜まるしやることはやっている。曰く初夜の時に、どちらが上か下かで一悶着あったもののカトルがシスを抱くという形に落ち着いた。今は人目を忍んで会う度に、シスを抱くのが二人の間での決め事になっている。
     思考に没頭していると、いつの間にか目的の場所に辿り着いていた。建物の影に寄り掛かるようにして、待ち合わせていた人物が視界に入る。
    「お待たせしました」
     投げかけた声に、僅かにフードが揺れた。その下にいつもの仮面が覗いていて、つい苦笑する。格好自体は十天衆としての装いではなく、新鮮味のある普段着のような格好だ。人混みに混ざってしまえば、そこらの人と遜色ない。ただし、その仮面さえなければの話だが。
    「何を笑っている」
     ぼそりと、シスの無愛想な声が二人の間に落ちる。
    「あなたのその格好のせいですよ」
     人通りのあまりない時間で良かった。仮面を隠そうとフードのある服を選んだのだろうが、どうしたって隠せていない。むしろ、少しだけ見える仮面が異様さを際立たせている。それに、見知った人物が見ればシスだとすぐに分かるだろう。団員たちと不用意に出くわすのを避けるために遠出したのは事実だが、出会ってもバレないのが本来望ましいというのに。
    「何か問題があるのか」
     カトルの呆れた眼差しの意図を理解していないのか、シスがけろりとそう言った。表情は読めないものの、どことなく不満げな物言いである。変装、とまでは言わないが、カトルも群衆に紛れる格好をしてきたのだ。文句を言われる筋合いはない。
    「それですよ、その仮面」
     つん、と仮面を軽く指先で押すと、シスがいくらかたじろいだように後退する。
    「そんなんじゃシスさんだって、丸分かりじゃないですか」
    「う、代替を用意できなかった」
     一応自覚はあったのか、シスがフードの端を掴んで仮面を隠すように引き下げた。勿論、その全てを隠すには至らない。
    「まあ、それの代わりっていうと中々見つからなさそうですけど」
     溜め息を一つ吐き出すと、フードの中がもぞりと動いた。恐らく耳が垂れたのだろう。この男ともそこそこの付き合いになるが、表情がなくとも存外感情の機微は分かりやすい。そんなこと、本人ましてや他人になんて言ったりはしないのだけど。
    「どこかで調達しましょうか。待ち遠しいでしょうけど、頑張って我慢して下さいね?」
    「勝手に俺の気持ちを決めるな」
     仮面に覆われた顔は見えないが、いつもよりもラフな服装のせいで開いている首元が少し赤い。くつくつと抑えきれなかった笑いを溢すと、くるりとシスが踵を返す。
    「置いて行くぞ」
     少々揶揄い過ぎたかとその後を追いかける。だが、軽口を交わすことですら随分と久しぶりなのだ。
    「ねえ、怒らないで下さいよ」
     少し先を行く、手袋に覆われたままの手に指を絡ませる。今のところ周囲に人影はないから、それまでの間だけと言い訳をした。指先が一瞬驚きからか引っ込められたが、構わずに捕まえる。
    「人が見えたら、すぐに離す」
    「はいはい、ご自由に」
     固い声で返されて、柔く手を握り返された。今日は、シスも幾分かカトルに甘いように見えるのは、気のせいではないだろう。気紛れに伸ばした手だったが、背中を擽るむず痒さも今だけは我慢できそうだ。
     場所や人目さえ気にしなくていいのなら、早くその仮面を剥ぎ取ってしまいたい。乱暴に噛みついたら、この男はどんな顔をするだろうか。そんな風に考えを巡らせながら、言葉少なに宿への道を急いだ。



     結局、仮面の代わりに適当な帽子を見繕った。仮面を仕舞わせてそれで抑えるようにさせたが―――、まあ仮面よりかは怪しくはないだろう。落ち着かないようにそわそわとするシスの様子が思ったよりも可愛らしく映り、癪だったから途中で一度帽子を取り上げるなどした。
     そんな攻防をしている内に、いつの間にか目的の宿は目の前である。アイコンタクトだけ交わして中に入ると、ロビー奥のカウンターには暇そうな受付が一人いるばかりだった。他に人の姿はない。こういうのはこそこそとしている方が記憶に残りやすいのだと、いつもの調子でカウンターへとカトルが足を向けた。
    「二人で」
     言葉少なにそう言うと、受付の男はちらりと視線を上げる。が、それだけだ。すぐに興味を無くしたように外された視線は男が持っている鍵束に落とされる。しばらくして受付の男が鍵を探る仕草を止めて、一本の鍵をこちらに差し出した。
    「後払いですからね」
     それを受け取ると、抑揚のない男の声が返ってくる。カトルが頷くと奥に続く廊下を指し示されたので、男にチップを投げ渡した。それを受け取った男が会釈をするのを見届けて、シスに声をかける。
    「行きますよ」
    「……ああ」
     壁際で所在無さげにしているシスに鍵を放ると、びくりとその肩が大袈裟に跳ねた。大袈裟に、といってもそれは普段のシスに比べてだ。普通の人間なら身動ぎの仕草にも見えなかっただろう。けれど鍵を取り落とさなかったのは流石というべきか、シスを伴って廊下へと歩き出した。
    「いつも警戒し過ぎじゃないですか? あまり初心そうにしていると、却って目立ちますよ」
    「揶揄うのはやめろ。俺はむしろお前の方が―――」
     ぷつりと途切れた声に、ついシスの顔を見た。一瞬目が合ったがすぐに逸らされて、その視線がうろうろと薄暗い廊下の床をさまよう。
    「僕の方が、なんですか?」
     言おうか言うまいか。逡巡している様子に、シスの言葉尻を拾い上げて投げ渡した。喉を詰まらせたような音が聞こえたが、二人とも進む足は止めていない。だが、じっとシスへと向けている視線は外さなかった。辺りをどんなに見回したって、客の一人もいないのだからそれくらいは許されてもいいだろう。
     まあ、廊下で致すような変質者がいたとしたら、視線を外して然るべき所へぶち込むのもやぶさかではないのだけれど。
    「シスさん」
     一つ、名前を呼ぶ。少し上気した頬が、抑えられた帽子の隙間から覗いた。隙をついたとばかりにカトルが少し顔を綻ばせると、一瞬歯噛みしたようなシスに腕を掴まれる。強引な仕草にがくりと視界が揺れたが、そのまま鍵を開けたシスに部屋へと引きずり込まれた。
    「ちょっ、と!」
     丁度目的の部屋だったのだろうが、部屋の灯りをつける暇もない。ゆっくりとドアが閉まり、廊下から差していた光も失せる。抱きすくめるように腰に腕を回されて、額を押し付けるようにシスの頭が肩に乗った。
    「随分と慣れているようだったが」
     耳元で吐き出された言葉は、ゆらゆらと真っ暗な部屋の床に落ちる。どんな顔をしてそんなことを言うのか、暴いてやりたい気持ちがふつふつと沸いた。が、少し身を引いて自由になった両手でシスの頬に触れる。緩慢な動きで持ち上がった顔に、鼻先がくっつく程に近付いた。
    「そう見えました? 生憎、こんなところに通い詰める余裕はなかったので」
     がぶり。顔を寄せても尚少し高い位置にある唇に、噛みつくように口付ける。頬からなぞるようにシスの首に手を回すと、胸元の服に縋るように掴まれた。ちゅっ、とわざとらしくリップ音を何度も立てて、唇のあわいを舌で押す。そうするとおずおずと口が開いて、ぬるりと舌を挿し込んだ。
     奥に引っ込んでいた舌を追って、口内を探る。シスの舌先に己のそれを擦りつけると、舌がこちらに伸ばされた。絡まる下に、じんと脳の芯が快楽でけぶる。奪うように舌先を甘く噛み、それを慰撫するように絡ませる度に腰に回された腕の力が強くなった。
     だが、やがて息が苦しくなったのか肩を押され、渋々と口を離す。けほ、とシスが空咳をした拍子に、銀糸がぷつりと切れた。
    「安心しました?」
     カトルは口の端に垂れた、どちらのものともつかない唾液を拭う。暗闇には既に目が慣れていて、赤い顔のシスが視界によく映った。
    「……ああ」
     肯定と共に強請るような視線がカトルを射抜く。互いに身の内を駆けずり回るような欲を自覚していた。だがシスを、というよりは自分の中の欲を宥めるように、乱れたシスの前髪を指先で撫で付ける。向けられる視線の熱に理性を手放してしまいたくなるが、カトルは早朝から出ずっぱりだった。
    「シャワー、浴びてきますね」
     目線を外してシスの横をすり抜けようとすると、淡い力で引き止められる。言葉はないものの抵抗を示すように握られたカトルの服の裾に、どうしてこの男は時折子供のような所作をするのだろうなと浅く息を吐いた。やんわりとその手を解こうとすると、更に力が強まる。
     だが、カトルの力で引き剥がせる程度の力だった。シスが本気を出せば、カトルの意思など関係ない。だから、これはシスの甘えだ。
    「俺は気にならない」
    「僕が気にするんですよ」
     これから汗をかくとしても、一度さっぱりしておきたかったしカトルの汗に興奮する癖を付けられても困る。手袋越しの手の甲に指を這わすと、ようやっと諦めたようだった。
    「いい子で待てますよね?」
     頬を両手で挟み込んで、目を合わせる。シスの瞳がゆらゆらと揺れているが、やがてこくりと頷いた。褒めるように鼻先にキスをする。犬のような扱いをしてしまったが、本人はさして気付いていないようだった。少し、擽ったそうな顔をしただけだ。先に着替えているように、とようやっと部屋の電気をつける。
     そんなに多くな荷物を適当に置き、必要な物だけ持ってシャワールームへと入った。あまり顔を合わせているとカトルの我慢も続かなさそうであったから、会話は大してない。汗やら土埃やらを流したいというのも本音だったが、その内のいくらかは有象無象を屠った手でシスを抱きたくなかったのもある。間接的に、とはいえこんな風にあの男に触れるのは自分だけが良かったなんて。
     まるで子供染みた独占欲だ。シスを子供扱いできる立場じゃない。自嘲しつつ、さっさと済ませてしまおうとカトルは服に手をかけた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    hariyama_jigoku

    DONE鋭百小説(鋭百々)。付き合ってていちゃついてる二人。互いの無意識の話。
    侵食 ちゅ、ちゅ、とリップ音が鼓膜を舐めるように繰り返される。くらくらと、その度に指先から全身に火が点っていくようだった。無意識に腰が引けるが、腰に回された腕が程よくそれを妨げている。
     眉見の肩に手を置くと、それを合図と思ったのか殊更ゆっくり唇が合わせられた後に緩慢に離された。吐息が濡れた皮膚に当たって、妙に気恥ずかしい。口と口をくっつけていただけなのに、なんて女の子みたいなことは言わないが、一体それだけのことにどれだけ没頭していただろう。腕がするりと離れ、柔らかなベッドに手を置いて体重をかける。
     勉強会という名目だった。元より学生の多い事務所では、勉強会がよく開かれている。C.FIRSTは専ら教え役だったが、S.E.Mなど加われば話は別だ。いつしか習慣と化したそれは、ユニットの中でも緩慢に続いている。事務所に行くだけの時間がない時。例えば定期テスト中―――下手に行けばつい勉強が手に付かなくなってしまう―――とかは、互いに課題を持ち寄って百々人は秀の、眉見は百々人の問題を見る。最初は二人が眉見に遠慮したものの、受験の準備になるからと押し切られる形になった。今日もそうなる予定だったが、秀が生徒会の仕事で欠席することを知ったのがつい一時間ほど前である。今日はやめておくかと聞こうとした百々人に、眉見が自分の家に来ないかと持ち掛けて今に至る。いつもは何かと都合の良い百々人の家だったのだが、一人で来るのは―――それこそ二人が付き合い始めてから来るのは初めてだった。
    1834

    recommended works