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    hariyama_jigoku

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    hariyama_jigoku

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    鍾タル小説。「一月のゾールシュカ」前編。公i子が帰国する話。続きはできたら…。

    ##原神

    .

    「先生のことが好きなんだよね」

     タルタリヤと食事を共にした帰路。今日は随分と話が弾み、互いに酒も進んでいた。日が落ちてから時間も経ち、人気のない道をチ虎岩から緋雲の丘へと歩く。
     その最中、丁度橋へと差し掛かった辺りで投げられた言葉が先のそれだった。
    「それは、愛の類いの話か」
    「まあ、愛よりも恋かな」
     飄々と答えるタルタリヤを、まじまじと見つめる。
    「理解はしたが」
     足を止めて言葉を切った。視線の先に映るタルタリヤは、くるりと振り返って笑う。平静と変わらない表情に見えた。
     鍾離に、もしくはモラクスの化身であった何者かに対して。愛または恋として伝えられた愛の言葉を、それを吐き出した相手の顔も記憶している。どんな表情でそれを語っていたのかも、だ。期待、焦り、絶望、諦念、憎悪、自信。大抵はそのようなものだったが、タルタリヤのそれは記憶の中にあるどれにも該当しないように見える。平静さは自信に思えないこともないが、それにしては鍾離の動向に注視しているようだった。鍾離が是と言うことを信じて疑わない、という風にはとても思えない。
     不可解なことだ、だがそれは鍾離には関係はなかった。タルタリヤが何を考えていようが、それで鍾離の返事が変わる訳ではない。そう断じて、口を開く。
    「すまない。公子殿の好意は受け入れられない」
    「俺のこと嫌い?」
     そう言って、タルタリヤが頭を傾げた。
    「そういう訳ではないが」
     開けっ広げな問いに、返答に窮する。けれどタルタリヤは矢継ぎ早に口を開いた。
    「好きかどうかの興味はない?」
    「……言葉を選ばなければそうなるな」
     臆さず問うなら、濁すような話ではない。率直に伝えると、タルタリヤは一つため息をついて肩を竦める。
    「失恋ってわけだ。俺、尽くすタイプなのになあ」
     芝居がかった仕草だ、と思った。残念そうにしているのはきっと嘘ではないのだろう、それでも軽薄さを保ったままの態度は真意を隠しているように見える。
    「他に意図があるのなら聞くが」
     企みに手を貸す訳ではないが、どうせ巻き込まれるのなら顛末の一部くらいは頭に入れておきたい。だが鍾離の予想に反して、タルタリヤはぱちりと目を瞬かせる。
    「えっ、酷いなあ疑ってるの?」
     欠片も悲哀の滲まない声で、タルタリヤは目尻を下げた。
    「好きだよ、先生のことが。それは本当。そんなつまんない嘘つかないよ」
     俺も暇じゃないしね、と続けられた言葉にある程度の納得はできる。送仙儀式の際に暗躍していたのは、それがファデュイとしての使命―――しいては氷神のためだったからだ。権謀術数は不得手だというのが真実かどうかはさておいて、本人の気質としても騙し合いは好かないだろう。
    「ふふ、でも神様にふられるなんて面白いね」
     タルタリヤの靴が、橋の上でかつんと跳ねる。数歩分の距離を埋めるだけの足音が鳴って、タルタリヤが道を遮るように立った。
    「先生に情けってものがあるならさ、キスしてもいい?」
     揶揄うような声色だが、鍾離を見据える瞳の奥は月明かりに照らされて冴えた光を帯びている。
    「それで、お前が満足するのなら」
    「するする」
     一応断りを入れるように了承すると、笑顔を滲ませてこくりと頷いた。タルタリヤの体が傾いて、唇を一瞬だけ掠めるような感触が触れる。ふわりと笑って、そのまますぐに身は離された。
    「先生ってちょっと人間っぽくなった?」
     唐突に吐き出された言葉に、何と返したものかと逡巡する。そうしている間にタルタリヤは橋を渡り切って、遅いと急かすように鍾離を振り返った。
    「凡人だからな」
     それに続いて踏み出すついでに返す。往生堂は橋を渡ってすぐ近くだ。鍾離は往生堂の一画を借家としているから、ここでタルタリヤとは別れることになる。
    「そうだったね。じゃあ先生またね、ありがとう」
    「ああ」
     ひらひらと手を振って、タルタリヤは月明かりしか照らさない緋雲の丘を歩いていった。その背中を見送り、首を捻る。タルタリヤにキスをされた時、その笑うさまが少女のように見えたなんて似合わない言葉だ。あの掴みどころのない武人に対しては、いっとうそうである。妙な感傷だと、緩慢に頭を横に振って帰路についた。

     それから、ぱたりとタルタリヤは鍾離を訪ねてきていない。鍾離が代わりにと訪ねてみても、北国銀行の受付に断られることが殆どであった。
     最初は鍾離も告白―――と言ってもいいのか少々疑問だが―――その一件が尾を引いているのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。丁度北国銀行に居合わせたタルタリヤが、鍾離に直接断りを入れたことがあった。ぱちりと手を合わせて謝る姿は申し訳なさを滲ませていて、本人曰く仕事が立て込んでいるらしい。実際北国銀行も少々慌ただしく、それならばと鍾離も深くは追及しなかった。

     それからタルタリヤと話ができたのは、旅人の探索に同行した時である。

     ヒルチャールの巨躯が、猛るように咆哮を轟かせた。それに呼応するように体は即座に氷の装甲に覆われて、爛爛と光る眼が殺意を滲ませる。
    「さあ、喰らいなさい!」
     香菱が熱の渦巻く旋火輪を投擲した。ドラゴンスパインの冷気を切り裂くように、焔が旋回する度に氷塊を融解させていく。そこに人為的な風が加わって、炎がみるみる勢いを増していった。
     決して燃えることのないドラゴンスパインの草木すら霜を溶かすように、炎が拡散されていく。そして。
    「――――――――――――ッ!!!!」
     異形の咆哮。装甲を剥がされた王を冠する獣は、なおも拳を振りかぶった。鍾離はそれに目を細め、両の手に岩元素を収束させる。他の者が近くにいるのを確認し、それを紡ぎ、解き放った。ヒルチャールの攻撃を弾くように、強固な柱が顕現す。
     その鍾離の脇をすり抜けるように、玉璋シールドを纏う影が飛び出した。敵の上に燦然と矢が降り注ぐ。即座にタルタリヤは弓を双刃に変じさせ、踊るように標的に傷を刻んだ。足を取られる雪の上であることを感じさせない軽やかな動きは、ヒルチャールの氷撃がシールドで弾かれることによって益々勢いを増していく。
     氷元素を操る相手には水元素を持つ者は相性が悪い、というのは通説だが既に装甲は砕かれた。わあ、と魅せられたように香菱が息を吐く。きっと香菱がいなくとも、タルタリヤはこのヒルチャールをものともしなかっただろう。勿論大なり小なり時間はかかっていただろうが、その手間すらきっとこの手合いなら楽しんでみせる。
     どう、とヒルチャールが地に伏した。体は千々となり、地脈に還る。よく見れば他の者に比べて随分薄い防寒具しか纏っていないその姿は、恍惚とも歓喜ともつかない顔で笑っていた。

     辺りの脅威を一掃し、一度点在しているテントの一つへと身を寄せる。雪山はすぐに体温を奪い去っていくから、元々休憩を挟みつつの探索の予定だった。
     焚火を灯し、携帯式の調理セットを旅人が展開すると香菱が嬉々として占拠する。その内にいい匂いがしてくるだろうと期待を抱きつつ、周囲に目をやった。旅人は困ったように香菱の手伝いをしているし、パイモンは味見役を買って出たらしい。タルタリヤはというと薪にするのか、周囲の枝を回収している。
    「随分と楽しそうだな」
     鼻歌混じりに枝を拾い集める様子に声をかけると、タルタリヤが顔を上げた。
    「そりゃね、久しぶりの休みだから」
    「しばらく忙しない様子だったが、落ち着いたのか」
     問うと、ううんとタルタリヤは悩むように薪を抱え直す。
    「つかの間のってところかな。スネージナヤに帰ったら、また忙しくなるだろうし」
     さらりと吐かれた言葉に、背後から素っ頓狂な声がした。
    「えー! 帰っちゃうの!?」
     香菱が明らかに中身の赤い鍋から顔を上げて、目を見開いている。
    「色々忙しいんだよ。でも香菱ちゃんの料理がしばらく食べられなくなるのは寂しいなあ」
    「嬉しいこと言ってくれるね? じゃあ今日は特別に腕を振るっちゃおうかな!」
    「おい香菱! だからってまた唐辛子をそんなに入れるのか!?」
     また賑やかに騒ぎ出すのを見て、タルタリヤが穏やかに口角を上げた。
    「帰るのか」
    「うん、そうだよ。向こうに持ち帰る案件もあるし、帰ったらまた走り回らなきゃ」
     タルタリヤは変わらず、うんざりといった様子で鍾離の問いに答える。淑女にはついて帰らなかったものの、タルタリヤがこの地に留まる理由の大半は無くなった。こうなるのも必然だろう。
    「ふむ、じゃあこれが公子殿との最後の食事か」
    「そうだね。じゃあなおさら今日声かけてくれた相棒に感謝しないとね。戻ったらしばらくは暴れられないから」
     パイモンと香菱のやり取りに加わっていなかった旅人が、タルタリヤの言葉に微妙そうな顔でこちらを見る。
    「タルタリヤが暴れる事態なんて、ろくなもんじゃないしね」
    「同意しよう」
     そう頷いて返すと、タルタリヤがむっとした顔をした。
    「言ってくれるね二人ともー?」
    「真実だろう」
     鍾離が含み笑いを浮かべると、肩を竦めてタルタリヤは薪を焚火のすぐ横に下ろす。香菱が礼を言ってそっと薪を加えると、火花がぱちりと小さく爆ぜた。
    「っていうか最後って酷くない? 見送りには来てくれないの?」
     ふうと一息ついて、挑戦的な目が鍾離を見る。
    「必要か?」
     少し考える素振りを見せて、やがてタルタリヤは首を横に振った。
    「別にいいかな」
     答えは、鍾離の予想とそう変わらない。
    「じゃあ今日でお別れかな。さよなら、先生!」
    「ああ、息災でな」
     まだ探索は終わってないんだけど、という旅人の不満げな声に、タルタリヤはとうとう吹き出した。
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    hariyama_jigoku

    DONE鋭百小説(鋭百々)。付き合ってていちゃついてる二人。互いの無意識の話。
    侵食 ちゅ、ちゅ、とリップ音が鼓膜を舐めるように繰り返される。くらくらと、その度に指先から全身に火が点っていくようだった。無意識に腰が引けるが、腰に回された腕が程よくそれを妨げている。
     眉見の肩に手を置くと、それを合図と思ったのか殊更ゆっくり唇が合わせられた後に緩慢に離された。吐息が濡れた皮膚に当たって、妙に気恥ずかしい。口と口をくっつけていただけなのに、なんて女の子みたいなことは言わないが、一体それだけのことにどれだけ没頭していただろう。腕がするりと離れ、柔らかなベッドに手を置いて体重をかける。
     勉強会という名目だった。元より学生の多い事務所では、勉強会がよく開かれている。C.FIRSTは専ら教え役だったが、S.E.Mなど加われば話は別だ。いつしか習慣と化したそれは、ユニットの中でも緩慢に続いている。事務所に行くだけの時間がない時。例えば定期テスト中―――下手に行けばつい勉強が手に付かなくなってしまう―――とかは、互いに課題を持ち寄って百々人は秀の、眉見は百々人の問題を見る。最初は二人が眉見に遠慮したものの、受験の準備になるからと押し切られる形になった。今日もそうなる予定だったが、秀が生徒会の仕事で欠席することを知ったのがつい一時間ほど前である。今日はやめておくかと聞こうとした百々人に、眉見が自分の家に来ないかと持ち掛けて今に至る。いつもは何かと都合の良い百々人の家だったのだが、一人で来るのは―――それこそ二人が付き合い始めてから来るのは初めてだった。
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