3マス進んで2マス戻るような話。1「やっほー、これから帰り?」
「うわっ、出たわね」
開幕、嫌そうに顔を歪めたのは釘崎である。五条は微塵もそう思っていない顔で―――勿論目隠しをしているから表情は半分ほどしか見えない―――、酷いなあと笑った。
「俺たちはこれから買い物だけど、伏黒はこれから任務なんだよな」
虎杖が勝手にこちらの予定を伝えると、ふむと五条は一つ頷いて口角を上げる。
「じゃあ僕と一緒に二人の見送りだね。僕も呼び出し食らってたんだけど早く着いちゃって、ここで待機なんだよね」
ぐっと身を寄せて、五条が肩を組んできた。むっと無意識に眉間へ皺が寄り、その腕を押し返す。
「やめてください」
ため息混じりに伏黒が言うと、つれないなあと五条が口を尖らせた。とても二十八歳に許された行為ではない。
「ねえこれって反抗期だと思う? 傷ついちゃうなあ」
大げさに肩を竦めた五条に、釘崎が呆れたように目を細める。
「あんた、そのうち本当に伏黒に殴られるわよ」
釘崎は言い捨てて、急かすように虎杖を小突いた。
「ほら虎杖もう行くわよ」
「分かった分かったって。伏黒もお土産買ってくるからな~」
「土産とかいいから」
歩き出した釘崎に、虎杖が慌てて続く。行ってらっしゃ~い、と声が続いて、ひらひらと横の五条が手を振った。釘崎は鼻を鳴らすくらいで、振り返したのは虎杖だけだった。それに特に落ち込むこともなく、伏黒の方へと向き直る。
「恵はこれからすぐ任務?」
「別にそういう訳じゃ。ちょっと仮眠するつもりです」
伏黒に課せられた任務の時間まで、あと二時間ほどあった。担当の補助監督が来るまでは寮にいるつもりだったのだが、厄介な相手に捕まったとじとりと軽く五条を睨む。
「あと、そういうのやめて下さい」
「それ、って?」
笑みの混じったとぼけた顔で、五条は首を横に傾けた。
「人前でべたべたくっついてくんな、って言ってるんですよ」
五条が一瞬、きょとんとした風に口を噤む。だがすぐに、ええー、と間延びした声を上げ、再び肩を組んでこようとする。それを躱して、伏黒はため息をついた。五条は基本的に相手との距離が近い。生徒や親しい相手ならいざ知らず、時として敵対者に対してもパーソナルスペースが狭いのだ。それは五条に無限があるからと思っているのだが、それは向こうの事情である。伏黒には関係がない。
「酷いよ恵、昔からの仲じゃんか。それとも本当に反抗期来ちゃった?」
「そんなんじゃないです。でも俺、もうガキじゃないんで」
記念だなんだとふざけている、伏黒を写真に撮ろうと向けられたスマホのレンズを手で覆った。