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    kuroshiro_2021

    @kuroshiro_2021

    VegasPete
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    kuroshiro_2021

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    pixivで進めてるベガピのドラマその後妄想に付随するVegasとPeteの過去を捏造中。
    こっちはPete編、一緒に暮らして二年後ぐらいのベガピ。
    *支部アップ済
    *原作未読

    #VegasPete創作
    vegaspeteCreations
    #VegasPete
    #KinnPorsche
    chinporsche

    愛を与える男、奪う男。 -Pete編- *


    痛いのは好きじゃない。

    父さんがいつから暴力を振るうようになったのか。実を言うと、はっきりとは覚えてない。でも俺が小さかった頃は、どこにでもいる普通の家庭の優しい父親だったような気がする。
    父さんがボクシングを始めた切っ掛けをばあちゃんがいつだったか教えてくれた。"女手一つで育ててくれる母親を守れるように強くなりたい" そう、笑う息子だったと。俺の手を掬い上げ、ごめんねと謝りながら話すしわくちゃな手は震えていた。
    父さんと母さんは若くして結婚し、周りより少し早く親になった。子供心に何か変だと感じはじめたのは俺がボクシングをやらされる少し前あたり。怒鳴り声で目覚めた真夜中過ぎ、そこには涙を浮かべる母がいた。
    負ければ殴られる。それについては妙に納得していたように思う。勝てないのは弱いからであって、弱いのは自分の努力が足りないせい。不屈さは強くなるための糧にもなった。
    初めて試合に勝った日、不思議と褒めてもらえるとは思わなかった。でも、これでもう殴られることはないだろうと期待した。
    その期待が見事に打ち砕かれ、幼い俺は混乱していたようにおもう。

    『Pete、お前…殴られて笑ってるのかッ…!この野郎……ッ…』

    どうやらこの時、俺は笑ってたらしいけど何を考えていたかなんて曖昧で、記憶は朧げ。喚き散らす父さんを見上げた瞬間、また殴られて気を失った。

    中学に上がる少し前、半狂乱になった親父に殴られ過ぎて病院に運ばれた。原因は口答え。身体も心も大人になりはじめていた少年は、生まれて初めて反抗的な態度を取った。
    いくら負けばかりのボクサーだったとしても、大人と子供じゃ力の差は歴然なのに俺はとことん頭が悪いらしい。泣きながら叫ぶ母さんが、身を挺して止めてくれたけど親父の怒りは収まることなく、全治一ヶ月。
    入院中、親父は一度も顔を見せなかった。痛くない所を探せないくらい全身はボロボロだったけど、母さんとふたりで過ごす穏やかな時間。知らない大人が怪我のことを聞きに来た時、母さんは素直に話していいと言ったけど、結局俺は真実を話さなかった。
    退院の日、何故か母さんは朝からいなくて、母さんの代わりに病室に現れたのは遠くに住んでるはずの、ばあちゃん。

    『ばあちゃん…なんでいるの?』
    『あのね、Pete。今日からは、ばあちゃんの家でばあちゃんと一緒に暮らそう』
    『………それって母さんも一緒?』

    ばあちゃんは答えなかった。そのかわり小さな体で俺を抱き締め、涙を流した。

    ああ、俺は捨てられのか。

    そう思った。ばあちゃんと暮らし始めてボクシングはやめた。半年が過ぎた頃、少し離れた場所にある屋台にお使いに行ってきてほしいと言われて、金を渡された。

    『何であそこまで行かなきゃならないんだろ?クアクリンなら家の近くにだって──…』

    文句を言いながら歩く道の先、そこには見覚えのある人がいた。遠くからでも分かる。髪が揺れるたび白い頬に見え隠れする赤黒い痕。

    『母…さん……?』

    捨てられたんじゃなかった。母さんは子供を守るために自分を犠牲にしたのだ。俺が怪我のことを他の大人に言わなかったのは恐怖からじゃない。まだ何とかなると甘い希望に縋っていたからだった。あさはかな考えだった。
    直ぐにでも駆け寄って抱き締めたいのに鉛のように重たくなった足は一歩すら踏み出せない。そんな俺を見兼ねたのか、困ったように笑って歩き出した母さんの足取りも遠慮がちだった。

    『元気?』
    『元気だよ、母さん』
    『怪我はもう平気?』
    『どこも痛くないよ。それにサッカー部に入ったんだ。運動しても痛くないから、心配しないで』
    『よかった…ご飯は?』
    『食べてる。ばあちゃんのご飯、すごく美味しいんだ』

    精一杯の笑顔で笑ってみせる。

    『そう、よかったわ。本当に…』
    『でも──』

    母さんのご飯が食べたいよ。

    喉が詰まって声が出ない。今の自分じゃ母さんを守れない。親父には勝てない。今は勝てない。

    『また会える?』
    『えぇ…おばあちゃんに連絡するわ。待ってて、Pete』

    抱きついた俺の背中をさする母は、何度も「大丈夫、大丈夫よPete」と小さく呟いていた。
    決して大丈夫なんかじゃなかったのに──…

    またボクシングを始めた。母さんを助け出せるのは自分しかいなかったから。
    ばあちゃんは本当に優しくて、優し過ぎるぐらい甘やかされて愛されていると疑いようもない愛情を注いでくれた。でも自分が幸せであると感じるたびに母さんを思い出す。
    数ヶ月に一度だけ会える母さんは元気そうだったり、痣が酷くなってたりと親父の不安定さを垣間見た。早く強くならないと。

    17歳の時、少し大きな大会で優勝した。

    『そこの君、待ってくれ』

    試合のあと声を掛けられ振り返った先には、黒服の男がふたり立っていた。きょろきょろと周りを見回しても、いるのは俺ひとり。

    『え、俺ですか?』
    『そう、君だ。Peteくんだね』

    名前を呼ばれ、少し警戒した俺の表情が変わったからか、片一方の男が笑みを浮かべる。

    『警戒しないでほしい。私たちはティーラパンヤークン家のBGだ』

    BG?明らかに普通じゃない出立ちの男二人に呼び止められて、警戒しないほうがおかしい。しかも聞き間違いじゃなければ、男はティーラパンヤークン家のBGと言った。

    『すみません。俺、急いでるんです』

    嘘は言っていない。今日の試合に勝ったら、母さんを迎えに行くと決めていた。

    『時間は取らせないよ。君にとっても君の家族にとっても悪い話じゃないはずだ』

    "家族"という言葉にさらに警戒心を強めながらも、話を聞くまで逃してもらえそうにない雰囲気に辟易する。

    『………分かりました』

    さあ、と廊下の先へと伸ばされた手に導かれるように一歩を踏み出す。ちらりと振り返った後方には会場の出入口から見える人集り。試合の終わり際、親父の後ろ姿を見たような気がして胸が騒ついていた。

    『早く済ませてください』

    廊下を歩きながら、思わず急かすような言葉を使ってしまう。

    『分かってる、何なら家まで送ろう。話は車の中でも出来る』
    『なら…連れて行ってほしい所があります』
    『もちろん構わない。君の望む所へ送り届けよう』

    控え室に戻って早々に着替えを済ませる。シャワーは浴びずに部屋を出ると入口の側で仁王立ちする二人の男。

    (別に逃げやしないのに…)

    高そうな車の後部座席に誘導され足早に乗り込む。走り出して直ぐに口を開いた男はChanと名乗り、高校を卒業したらティーラパンヤークン家にBGとして仕えないかと言われた。
    訝しむ俺に対して母とばあちゃんの身の安全を約束し、息を呑むような金額の報酬を提示してきた。そして、もし俺が望むなら今すぐにでも親父と離れる手助けをしてくれるという。

    『本当ですか?』
    『旦那様は嘘をおっしゃらない方だ。今向かっているのはご両親の家だろう?』
    『な、何で知ってるんですかッ!?』
    『君の生い立ちや家族構成、ご両親の幼い頃に至るまで全て調べ上げたうえで、私たちはここにいる』
    『な……ッ…』
    『母親を迎えに行くつもりなのだろうが、君はまだ子供だ。私たちのような大人がいた方が、事がスムーズに運ぶとは思わないか』
    『………傷つけずに…連れて帰れますか?』
    『君のお母さんを傷つけるような事態にはならない。そのあとの手続きも、必要ならティーラパンヤークン家が最後まで面倒をみると約束しよう』
    『父は…』
    『旦那様からは"君の望み"を叶えるようにと』

    俺の望み?目の前の男の冷たい声色は"父の死" を容易に連想させ、そうじゃないと頭の中で否定する。母さんとばあちゃんが安心して過ごせるなら他には何も望まない。

    『父に死んでほしいわけじゃないんです。あの人はきっと病気…だから……治療してほしい』
    『Peteくん、君は優しい子なんだな』
    『別に…優しいわけじゃありません。ただ今後一切、母さんやばあちゃんに関わってほしくない。俺の前にも現れてほしくないです。そんなこと出来ますか?』
    『君が望むなら出来ないことは何一つない、とだけ答えておくよ』

    ばあちゃんがたまに口にしていた、ティーラパンヤークン家は大きなマフィア一家。その名を知らない人はいないぐらい有名で、治安が良くなったという話もあれば、当然耳を塞ぎたくなるような黒い噂もある。
    ばあちゃんは旦那様には助けられたと言っていたけど、やっぱりマフィアはマフィアなんだと背筋が冷えた。薄っすらと冷笑を浮かべ、出来ないことなんて一つもないと言い放つような人たちがいる世界。

    『さあ、目的の場所に着いたようだ。君の答えを聞かせてくれないか』

    頷けば、マフィアの世界に足を踏み入れることになる。二人に心配を掛けたくない。

    『ひとりで、大丈──』
    『本当にそれが最善だと?厳しいことを言うようだが、生きていくためには金が必要だ。危険に見合うだけの報酬と大事な家族の安全は、君が望めば直ぐに手に入る。心配させたくないと思うなら全てを話す必要はないし、危険はないと信じ込ませればいい』
    『そんなの、どうやってッ!』
    『傷を負わず、決して死ぬことがないように訓練に励み、強くなればいい。今と変わらないだろ?』

    今と変わらない…?そうかもしれない。母さんのために強くなろうとすることも、目の前の大人に頼ることも"悪"じゃない。

    『助けて…くれるんですよね………』
    『ああ、もちろんだ』

    葛藤はあった。でも俯きこらえていたはずの口先から絞り出された声は、お願いしますと応えてしまっていた。

    『旦那様も喜ばれる。では行こうか』

    車を降りた瞬間、感じた違和感。日の沈みかけた夕暮れ時なのに、どの部屋も暗いまま。親父のバイクは軒先に停まってる。
    一緒に降りたChanも何かおかしいと気づいたのだろう。車内で待てと止められたけど、俺は首を振る。二人は出掛けているだけだと自分に言い聞かせ、制止する黒い腕を振り払った。
    開かないでくれと祈りながら玄関に駆け寄って戸口に手をかける…──大きな音を立て、勢いよく開かれた扉には鍵は掛かっていなかった。

    そのあとことは、よく思い出せない。警察署に迎えに来たばあちゃんが、酷く取り乱していたことだけは鮮明に憶えてる。
    あっという間に二人の葬儀が終わり、初めてKornさんと対面した。

    『残念だ。もっと早くに私が動いていたら、結果は違ったかも知れない。すまなかった』

    目の前のこの人は何も悪くない。それなのに、こんな俺に謝罪して頭まで下げてくれている。マフィアのトップに立つ人間が簡単に頭など下げないだろう。これが人目を引くための嘘でも本心でも、どちらでもよかった。

    『BGの件は白紙にしてある。だがもしも君の気が変わることがあれば、いつでも連絡してくれ』

    差し出された名刺に目線を落とし、じっと見つめて首を横に振った。

    『そうか。残念だよ』
    『いえ。今回のことでKornさんには本当にお世話になりました。 俺でよければBGの話はそのまま進めてください、お願いします』

    落ちた肩を引き上げ、礼儀正しく頭を下げる。

    『いいのか』
    『ばあちゃんを…ひとりにするのは心配ですが、守れるのはもう俺だけなので』
    『そうか』

    建前だったかもしれないけれど、必要とされている場所に身を置きたかった。死と隣り合わせでいられるBGという仕事にも魅力を感じた。
    訓練も過酷であればあるほど、いい。

    死は望まない。

    親父と同じにはなりたくないから。でもいつ死んでもいいし、死ぬほど辛い目に遭えばいい。そんな危うい期待を胸に高校の卒業と同時に俺はBGになった。

    「期待、してたんだけどな」

    脈略なく聴こえてきたPeteのつぶやき声を拾ったVegasはノートPCの画面から顔を上げ、彼がいるキッチンを見る。ピンク色のマグカップを両手で包み、ダイニングテーブルに肘を突いて座る恋人の目線は何もない宙を見つめていた。

    「何を期待したって?」

    気になれば聞くのが道理というもの。問われたPeteは静かにカップを置くと身体ごと椅子の上で半回転し、視線を合わせる。

    「なんでもな〜い、独り言!」
    「気になる言い方だな、教えろ」
    「だから、なんでもないって〜」
    「Pete」

    いつになくしつこい眼差しを向けてくる恋人を宥めるため、立ち上がったPeteはリビングのソファに座るVegasへ近づく。太腿の上に乗っていたノートPCを取り上げ、放り出したPeteはVegasの肩をやんわりと掴むと跨るようにして腰を下ろす。

    「LUNAとSNOWが中に入りたいってさ、Vegas。どうする?」

    庭へと続く大きな窓に二人が目を向けると、飛び掛からんばかりに勢いづいたSNOWが窓ガラスに張り付いている。

    「Pete…でSNOWを部屋に入れるのか?」

    Peteの腰を掴み、意味ありげに自分の腰を突き上げるような仕草をするVegas。

    「だめ?」
    「今は駄目だ」

    二人は互いへと視線を戻す。可愛らしい笑顔で見下ろしながら唇を塞いでくる恋人に、仕方ない誤魔化されてやるかとVegasも応戦すれば、濡れそぼった舌先がゆったりと絡まり吐息には熱がこもる。

    「二階行こう、Vegas」
    「"Your wish is my co仰せのままにmmand."」
    「ちょ、Vegas!その言い方なんかやだッ!いつから俺のしもべになったんだよ」

    苦笑いを浮かべてVegasを見つめると、至極真面目な顔で見上げ返される。

    「なんだ、知らなかったのか?俺はPeteのお願いを聞かずにはいられない。だから俺は"僕"どころじゃなく"恋の奴隷"だ」
    「なにそれ!?ぷっ…ふはは!Vegasが言うと洒落にならないと思う」

    抱きかかえられたPeteはVegasの肩に顔をうずめて背中を叩く。

    「まあ、確かにVegasは俺に甘いかな。それは間違いない」
    「不満なのか?」
    「ちょっとね!って、痛ッ……!」

    耳朶を甘噛みされ叫ぶPeteを見る眼差しが、埋み火のような欲を孕んで僅かに細まる。

    「あ、危ないだろ…Vega…s…」
    「落としたりしない」
    「分かってるけど、さ」

    寝室の扉が開かれ、ゆっくりとベッドへ下ろされて見下ろされる。

    「今日はどうしてほしい?」

    優しい口調と艶やかに鋭く細まる瞳のギャップが堪らない。

    「…──XXXして」
    「"Sure thing了解だ、Pete,Pete."」


     *


    ベッドの上。仰向けに寝ていた体を静かに動かし、うつ伏せになったPeteは少しだけ身を起こして隣を眺める。
    穏やかな眼差しが見つめる先には果てたあとの眠りに落ちた、頑是あどけない寝顔のVegasがいる。彼の額を親指の腹でたどり、人差し指と中指で前髪を梳く。耳の辺りの髪を数回後ろへ流して頬を撫で柔らかな唇に触れると、Nmm〜…と寝息が漏れる。
    期待していた。BGになってからもずっと。怪我をするたび。自分が銃を構えれば当然相手からも銃口を向けられるのだと覚悟を新たにするたび…死に直面するたび。期待した。

    『傷を負わず、決して死ぬことがないように訓練に励み、強くなればいい。今と変わらないだろ?』

    あの時の俺はそうしようと思った。だけど状況が変わってしまった。母を守れなかった弱い自分には価値が見出せない。最初の一年は負う必要のない怪我をわざと負うような真似をしたこともあった。声を掛けてくれる仲間を愛想笑いで躱し、怪我を見たばあちゃんが心配しないようにと極力帰らず寮で過ごした。
    能力試験の結果は上位、なのによく怪我をする出来損ないと呼ばれていた。そのせいだったのかTankhun坊ちゃんの担当に任命されてしまい転機が訪れる。
    別任務で駆り出され怪我をして帰ってくると、坊ちゃんは酷く怒った。俺にじゃなく怪我をさせるような任務に就かせたKinnさんや旦那様に対して。そして、それ以上に俺の怪我を心配してくれた。
    申し訳なくて、坊ちゃんに心配を掛けるのはやめようと決めた。怪我をしなければ、ばあちゃんにも会えて美味しいご飯が食べられる。
    しばらく続いた穏やかな日々に安堵して忘れかけていた、あの感情。Porscheを信じて分家への潜入を決めた日。長く鳴りを潜めていた危うさが、みぞおち辺りで燻り始めたのを感じた。また期待してる自分が嫌になる。
    捕まったのはわざとじゃない。Kenが裏切り者だなんて予想外だったし、あの場に現れるなんて思いもしなかった。

    ばあちゃん、ごめん。帰れそうにないや。

    捕われて拷問され、短い人生が終わるのだと覚悟を決めたのに…まさかVegasとこうなるなんて誰が予想しただろう。
    この男なら死なせてくれると期待した。それが "人生で一番大切な人"だなんて、Vegasが絶対に言わなさそうな台詞で告白された。
    空っぽだった心が様々な感情で満たされる幸せを与えてくれたのは、傷だらけで泣き叫ぶ子供のようなVegas。そして、そんな彼を満たしてあげられるのも俺だけ。
    出会った頃から、いびつに歪んでほどけぬままの互いのそれに共鳴した関係性は純粋な愛の構築ではなかったかもしれない。失うことは耐えられないと叫ぶ自分の心を欺こうと、馬鹿げた行為をしたこともある。
    でも人の愛し方や愛を表現する方法は一つじゃないと気づいた。

    『受け入れて自分の気持ちに素直になれ』
    『お前みたいに?』
    『俺は今を生きている。感じたら受け入れるだけ』

    Vegasと過ごした閉ざされた小さな世界。逃げたのは"死にたくない"と思ったからじゃない。与えられる痛みや快楽。そしてVegasという存在に触れ、彼を想うと"生きている"と感じ、満たされそうになる自分が怖かった。

    支配による錯覚か真実の愛か。

    離れてみて分かることもある。結局俺はありのままを受け入れ、先へと進まなければならない人間で、新たに芽生えた欲望に忠実な生き方しか出来ない。
    両親は間に合わなかった。母のことだけじゃなく、父のことも救いたいと思っていたはずなのに心も体も追いつかなくて、手遅れになってしまった。
    子供だったでは済まされない、根深い後悔はトラウマを強く植え付ける。掘り返しては自ら抉り続けることを止められない見えない傷は血を流しながら永遠に癒えることはない。
    Vegasは間に合った。Kun父親が死んだあの日はきっと、彼にとってのこの世の終わり。俺はそれを分かっていて…それでも俺を選んで欲しいと叫んで縋った。血の香りが充満したあの世界でVegasが振り向いてくれた時、もう迷いはなかった。

    悲しみよりも喜びで満たし、満たされたい。

    「P…ete、眠れないのか…?」
    「ん?違うよ、Vegasの寝顔を見てたの」

    もぞもぞと動いてPeteを抱き込んだVegasはつやのある前髪に口付ける。

    「明日も早い、寝ろ」
    「うん」

    早いのはVegasだけなんだけどね。

    「おやすみ、Vegas」
    「"Sleep tight,hoおやすみ、ハニー…n──…"」

    寝ぼけ声は寝息と混ざり、小さく消えてゆく。

    「ありがと…俺を選んでくれて」

    抱き込まれた胸の中でそう呟くと既に無意識の世界を漂うVegasの腕力が、ぐっと強まり心臓が近づく。安眠へと誘う規則正しい彼の鼓動に身を委ねたPeteの睫毛が何度か震え、まどろんだ瞳は重力に逆らえず、ゆっくりと下りてきた目蓋に覆われた。









    あ、そうそう。痛いのは好きじゃないって思ってたけど、Vegasから与えられる痛みは嫌いじゃない。むしろやっぱり好きだな〜って、最近改めて自覚した気がする。
    どうせVegasにもバレてるだろうし、俺たちには何の問題もない。でも周りには心配掛けたくないから、程々にするつもりだよ。
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