夢花火3芹沢克也。
「爪」に所属してた超能力者で、現在は社会貢献という名目で”霊とか相談所”の新入社員として働いている。
5超の一人だった彼はボスの護衛を務めたほどの実力者。力は申し分なかったが、いかんせんその他の部分で難がある男だった。
長年引きこもってたせいで、社会経験がほぼ皆無な世間知らず。自分でお茶を淹れた経験もなく、極めつけに彼は重度のコミュ障だった。
接客どころか、客とまともに目を合わせることすらできない挙動不審すぎる彼に「貴方、大丈夫?」と心の不安で相談にきてるはずの客が心配するというと本末転倒な有様に、雇い主の霊幻は「マジか……」と思わず呟いたほどである。
まあ他の業務ならこちらが指示すればキチンとこなしてくれるし、仕事も至って前向き。
苦手な人とのコミュニケーションも避けることなく、本人なりにどうにかしようと努力もしてるし見所はあるのだ、気長に付き合おうじゃないか。
新入りの今後に期待しつつ、彼をスカウトした張本人はズズっと茶を啜る。
うん、他人に淹れてもらう茶は美味い。
ここ最近は自分で淹れてばかりだったもんなあ。
「……霊幻さんって凄いですね。いつもお客さんに対して自信満々で対応してるし」
機嫌良く茶を飲む霊幻の様子を暫し見てた芹沢がおもむろに口を開く。
「それに話の話題も豊富で色んなこと知ってて………このあいだ霊幻さんとお客さんがしてた話もオレ、ちんぷんかんぷんでした……」
そうポツポツと話し出す芹沢。盆を握ってる手は微かに震えていた。
「本当、オレって物知らずだなあって……総理大臣の顔だって知らなかったし」
「芹沢に足りないのは”自信”だな」
意気消沈してる彼に、霊幻はすかさずフォローの言葉を投げかける。
「そう自分を卑下するな。自分を変えるためにここにいるんだろ?お前が努力してるのはちゃんと俺に伝わってる」
「霊幻さん……」
霊幻の言葉を聞いて、暗かった芹沢の顔に光が差す。
「なーに、ここの仕事に慣れたら何か自分のやりたいことを始めてみるといい。人生、何かするのに遅いってことはないんだ。趣味でも勉強でもどんどん挑戦しろよ。ウチは時間の融通きくからな、前もって相談してくれればシフト調整する」
ぐいと湯飲みを傾け一気に飲み干した霊幻は、目の前の部下に対し口の片端あげてニヤリと笑う。
「頼りにしてるぜ、期待の新人」
「は、はい!精一杯頑張ります……!」
「そういや芹沢に買い出ししてもらったもの、まだ中身確認してなかったな。どれどれー……”厳選!○○産の海水100%高級ソルト”?ひと袋……○○円!?」
レシートに記載された塩の値段に霊幻は目を剝く。
「おまっ、どんだけ高いやつ買ったんだよ?!このひと袋で博多の塩何個も買えるぞ!」
「え、除霊で使う塩って聞いたから一番高いの選びましたけど、お、お、オレ、間違えました?!すみません!買い直してきます!」
「いやもう予約客くるし、今からスーパーは……て、芹沢ー!」
思い込んだら一直線、猪突猛進。
既に芹沢はバンっと事務所のドアを開け外に出ていた。
「はあ……」
一人残された霊幻は額に手をやりため息をつく。
芹沢が相談所の頼れる大黒柱になるまで、まだまだ先が長そうだ。