夢花火10~~遡ること10分前。
「あーあ。遅かったか」
床に倒れ伏した霊幻を見下ろしながら、悪霊はやれやれと言わんばかりに肩をすくめるようなポーズを取る。
全くこれだから霊感ゼロのド素人は。
こんな隙間なくびっしり呪いがへばりついてる像に、精神プロテクトもないノーガード状態で触るとか阿呆だろお前。
普段「安全がモットー」と豪語してる割りに、なんだよこのていたらく。
常日頃シゲオというチートに守られてるせいで、極端に危機管理能力が低下してるのか?
贅沢な問題だなオイ。
つーか仮にも霊能者を自称してるなら、もっと慎重に行動しやがれ。
口達者な霊幻に反論されない状況に、これ幸いと言わんばかりに、完全伸びて意識がない霊幻の周囲を飛び回りながら、嘲りという名目の説教をするエクボ。
そう、依頼人が相談所に足を踏み入れたその瞬間から既に、エクボはそれが”本物”だと看破していた。
「この像を作った連中、全くいい性格してやがる」
エクボの目から見ても、木像にかかってる呪いは非常に質の悪い、悪趣味なもの。
福の神を信仰対象にしてるだけあり、仕事運、金運などを呼び寄せる効果は確かにあるが、その御利益は、対象者自身の生気、生命力と引換にもたらされる仕組みになっていた。
それも熱心に祈れば祈るほど、富と栄光は手に入るが、そのぶん命を削られるというおまけつきである。
御利益をもたらす呪いの恵比寿像。
効力もまあ一応は本物だから、この像を販売してる宗教団体はさぞかし儲かってるだろうなー景気がいいこった。
また、これだけ濃厚な呪いを放ってる木像と四六時中一緒に過ごせば、たとえ像に祈りを捧げなくても、呪いの影響を受けるだろう。
呪いは大人より自我が薄く感受性の高い子供の方がより影響を受けやすい。
もちろん”胎児”にも。
依頼人が”安産祈願の御守り”を普段から身に着けていなければ、取り返しのつかない事態に陥っていただろう。
また一つだけでなく霊験あらたかな御守りを3つも所持してたことでお腹の子だけでなく、依頼人自身も少し体調崩す程度の被害で収まったのだ。
「しかしこの呪い……よく見てみれば吸い取ったエネルギーは自動的に”本体”へ注ぎ込むシステムになってて効率いいな……俺様も参考にしよう」
ふむふむと感心しきりに、床に転がってる木像をまじまじと観察していたエクボだが、像のそばで倒れてる霊幻の姿が嫌がおうにも目が入るわけで。
「流石にこのまま放置はマズイか」
呪いの性質上、即座に死ぬような危険はない。
たとえ呪いまみれの像に触っても、せいぜい生気を奪われる程度だから、ムカつく霊幻にちょっとした意趣返しのつもりで、あえて手を出さず黙っていたエクボだが。
「まさかぶっ倒れて気を失うとはな」
いくらモロに呪いを受けても、普通ならここまで酷い状態にならない。
霊幻が倒れたのは完全にエクボの想定外だった。
たまたま”中にいる何か”と波長があってしまったのだろう。
普段、小憎たらしいほど悪運が強いくせに、変なところで運が悪い男だ。