「やあ、みずかみんぐ、きみ、今暇だよね!」
その日、生駒隊作戦室の奥の畳敷の上で惰眠を貪るべく長々と寝そべっていた水上は、ドアが開け放たれると同時に部屋の隅々まで響き渡るような朗々とした高らかな声にびくっと跳ね起きた。
その呼びかけ方で声の主など一瞥もしなくても分かる。もっとも水上的にはやや不本意なれど、その透明感のある、艶を備えた涼しげな声音だけで誰なのかは分からないはずもなかった。なにしろその唇の感触と温度だって知ってるのだから当然のことではあった。
ごろりと水上は寝返りを打って、ドアのほうへと体を向ける。果たしてそこにいるのは推測に違わず、甘い紅茶色の髪とラムネの瓶みたいな澄んだ青の瞳の少年の柔らかさを備えた青年、王子一彰その人であった。
「暇ちゃう言うたらどないするん」
「はっはっは、今の今までそこでとろけてたくせにご冗談を。賞味期限を過ぎたもやしだって、今のきみよりは生きがいいように見えるよ?」
「ビタミンもようけあるし、食物繊維も豊富な相手にかなうかいな」
一袋25円以下扱いされた水上はのろのろと起き上がってあぐらをかくと、改めて我が恋人の姿を見上げる。可憐で繊細なおもざしとうらはらな、浮かれポンチも甚だしい、その。
身に着けているのは軍服めいた漆黒の王子隊のユニフォームでもなければ、三門一高の制服でもない。羽織っているのはだぼっとしたサイズの、白と青の爽やかな色合いのリーフ柄のアロハシャツ。彼シャツ状態といえばいいのか、大き目のシャツのその裾からは日焼けしていない色白のしなやかな鹿のような生足がすらりと披露されているが、足首から先にはピンクの足ひれ《スイムフィン》、そして額にシュノーケルつきの水中ゴーグルを装着し、腰にあてた腕には女児向けアニメのカラフルな色合いの可愛いキャラが描かれた浮き輪がひっかけられているというありさまだった。いっそ空いてるその手にかき氷でも持たせてやりたい。
Where is here. Is it by the sea No, it's the BORDER Headquarters.
ここはどこですか。海辺ですか。いいえ防衛組織本部です。
「んー……」
いじったら負けのような気がして、指先で髪の生え際あたりをとんとん叩きながら水上は難局に面した棋士のように難しい顔で黙り込んだ。
「どうしたんだい、みずかみんぐ。即ツッコミしてくれないとはきみの切れ味も鈍くなったもんだね」
「ツッコミ待ちかい」
「当然じゃないか。さしものぼくだってこの支度は海のリゾートのフォーマルとしてなら相応しいくらいは了解の上さ。ボーダー内部ではなくてね」
「フォーマルときたか」
「その場に相応しい恰好を選ぶという意味は間違ってないと思うけどな」
王子は含みのない笑いを浮かべて、水上へと手を差し伸べた。
さあ、行こう。
このスタイルで楽しむべき場所にね、と。
「ここから????」
当然さ、と朗々と告げる王子の背後に、一瞬だけ眩い夏の陽光を水上は幻視した。