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    bin_tumetume

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    冬弥くんと相棒でいるために全てを犠牲にする彰人くん【冬←彰】

    小さな祈り/気づいて ずしり。左肩にゆっくりと重力がかかる。ずっと部屋に二人っきりで居たから、犯人は一人しかいない。
    「……冬弥?」
     念の為にと、声のトーンを落として正解だった。呼びかけに応えはなく、薄い唇から漏れ出ているのは安心しきった規則的な寝息だけだ。
     どうやら、作業をする彰人の隣で小説を読んでいたものの、寝落ちてしまったらしい。少し前に横顔を盗み見た時に、眠そうな瞬きを繰り返していたのを思い出す。
    (眠かったのなら、そう言えば良かったのに)
     冬弥が一言眠いと言えば、彰人は今は背もたれにされているだけの自分のベッドを喜んで明け渡し、本来の役目を果たさせただろう。冬弥がそれを口に出さなかったのは、他人の家で眠る事への遠慮からか、礼儀正しさゆえだったのかは分からない。ただ、肩に預けられた体重が信頼の重みのようで、悪くはなかった。
     体を揺らさないように注意を払いながら、何とか引き寄せたブランケットをそうっと冬弥に被せる。
     まったく起きる様子がないのをいいことに、彰人は休憩と称してその整った寝顔を堪能することにした。
     眠っているせいか、ぽかぽかと暖かい体温がシャツ越し伝わってくる。ふわりと漂うのは、冬弥自身の香りだ。清潔なのにどこか甘くて、彰人の好みの匂いだった。
     繊細な睫毛の一本一本を数えられるほど近い距離に、とくんとくんと胸が鼓動の速度を早めていく。
     ──恋を、していた。
     相棒だと嘯く唇を、本当はその肌へ触れ合わせたかった。それは、裏切りに等しい片想いだった。
     今だって、無防備にさらけ出されたその寝顔に口付けてしまいたいと考えていることを、冬弥は知らないままでいる。しかし、この気持ちをどうか知らずにいて欲しいと願う彰人に、そんな大それたことが出来るはずが無かった。
     冬弥の隣で相棒として立ち続けるために、全てを差し出すと決めていた。それは自分の恋心だって、例外ではない。
     それほどまでに大切だった。一度失いかけたときに、もう二度とこんな思いはしたくないと彰人にトラウマじみた疵を残すほどに。
     唇を開いて、何も言えないままに、ただ口を閉じた。
    『好きだ』
     そのたった三文字さえ、臆病なこころでは眠っている相手にですら口に出来ない。
     知られたくない。気付かれてしまいたい。受け入れてもらいたい。拒絶されたくない。静かな空間で冬弥を見つめているだけで、バラバラの欲求が暴れだして苦しい胸から体ごと崩れてしまいそうだった。
     まずいな、と思う。じわじわと目に張った涙の膜が決壊し、頬を伝う感覚がした。ぎゅうぎゅうに抑え込んだ気持ちが、質量を得て溢れ出てしまったみたいに。目尻から零れたそれは、当然のように無色透明で、こんなに苦しい気持ちから生まれたものとは思えなくて笑えてしまう。
     ぱちぱちと瞬きをしていると、冬弥の閉じられていた瞼が震え、そっと覆い隠されていたグレーの瞳があらわれる。まだ半分は夢の中にいそうな冬弥と、無言のまま見つめあった。
    「……あきと、泣いているのか?」
     目覚めたばかりで芯がないふにゃふにゃにとろけた声で、彰人の名前を呼ぶ。無防備な姿を明け渡されると、愛おしさが暴力的な衝動となって体の内側で暴れ回る。
     言えばいいのだ。お前が好きで、この気持ちに行き場の無いのが辛いのだと。だから涙が零れるのだと。全部ぜんぶブチ撒けて、そうしたらこんなに苦しい思いはしなくてすむ。
     彰人はそんな葛藤を押し殺して、微笑んだ。
     
    「……目にゴミが入っただけだよ」
     
     どうか、この拙い嘘にも騙されてくれますように。
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