Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    bin_tumetume

    @bin_tumetume

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 🔷 🔶 🎤 🐶
    POIPOI 44

    bin_tumetume

    ☆quiet follow

    ワンドロお題お借りしました。お揃い、新生活、タートルネック。

    ##ワンドロ

    『補色』【冬彰】「なあ、こっちとこっち、どっちがオレっぽい?」
     推理小説に目を通していたのが、惰性だったことに気がついたのだろうか。二人掛けのソファを分け合っていた彰人が、それまで目を通していたファッション雑誌を手に呼びかけてきた。
     高校の卒業式が終わってから大学入学までのモラトリアム期間は、互いにゆっくり過ごせる貴重な時間だった。特に用事がなくても、新品の匂いの残るソファで並んで互いに好きなことをする。それが何だか新鮮でくすぐったくて、それでも不思議と落ち着いた。
     栞を挟んで本を閉じれば、膝の上に雑誌を載せられる。彰人は行儀悪く片膝を立てたまま、白地にオレンジのラインが入ったコップでカフェオレを一口飲み込んだ。
     こっちかこっち、と示されたのは二人の男性モデルだ。まだ少し肌寒いのに、春の新作と銘打たれた写真はどちらもタートルネックの薄手のニットを、それぞれ違うコーディネートで着こなしている。
    「彰人が着るなら……、こちらだろうな」
    「だよな」
     ファッションには疎く、新しい服を買いに行く度にマネキン状態になっている俺ではあるが、少しずつ彰人が好むものは分かるようになってきた。
     春らしくパステルカラーのような明るくて柔らかいオレンジの緩いニットに、ざっくりとしたアウターを合わせたセットは大学にも来ていきやすそうだ。彰人が着ているところも易々と想像できた。
     彰人も俺が選ぶ方が分かっていたのか、返事はあっさりしたものだった。どうやら助言が欲しかった訳でも無いらしい。
    「何かあったか?」
    「いや……」
     そうして、彰人は少し考え込むようにした。また自分の手元に引き寄せた雑誌に視線を落とし、ゆったりとした動作でページを捲りながら彰人がぽつりと続ける。
    「別にさ、オレンジって特に好きでもなかったんだよ」
     カフェオレの残っているマグカップを大事そうに机に置き、横に並ぶ俺の肩に頭を預けてくれる。
     卒業が決まって一緒に暮らすことなってから、新生活の為に色々なものを二人で買いに行った。生活必需品をはじめ、家具や食器もほとんどの物を実家から持ち出すのをやめたので、足りないものは多くあった。
     そうして新しく買い揃えた物はどれもお揃いだったが、自然と俺が青、彰人がオレンジのものを使うようになっていた。今使っているマグカップも、そのうちのひとつだ。一番遡れば、マイクに巻くテープもそうだった。
    「最近、何か買うってなった時に気がつくとオレンジのやつ手に取ってんだよな」
     彰人がオレンジで、俺が青。
     明確に決めたわけではないが、いつしか自然と二人のうちに出来たルールだった。それぞれの色が補色……お互いを引き立て合う色だと知ったことにも、影響されたのかもしれない。
    「そうだな。俺も、青が好きになってきた」
     元々、苗字に入っているだけで特別好きだと言うほどでもなかった。ただ、青いものを見ていると、自然とオレンジ色を思い出す。それは、俺にとって彰人を思い出すことと同義だった。
     もし、また彰人とお揃いで何かを買うとしたらきっと俺が青で、彰人はオレンジ色のものを手に取るんだろう。
     そんな可愛いお揃いが少しずつ増えていくはずのこれからの生活は、想像しただけでも楽しみだった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator