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    bin_tumetume

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    bin_tumetume

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    『変わらないこと、変わっていくもの』のオマケ。

    変わったこと オレは今、かつてないほど自室のドアを開けるのを躊躇っている。なぜなら、この奥では冬弥が待っているからだ。
     オレとのキスを待ちわびている、冬弥が。
    「…………っ」
     キスの前に口を濯いだのはいい。でも、水で濯いだだけじゃまだザーメンの味が残ってる気がして、歯まで磨き始めた辺りで気がついてしまった。
     あれ、なんかオレめちゃくちゃ意識してねえ? って。
     そうしたら、じわじわと恥ずかしくなってきてしまった。こうして部屋の前にたどり着く頃には、心臓なんか運動した訳でもないのに変な音をたてていた。ドッドッドッドッ、って早鐘をうつ鼓動がちっとも収まらない。顔だって多分真っ赤だ。こんなザマじゃ、冬弥の元に戻れやしねえ。
     だって、この扉を開けてしまったら、冬弥と一歩進むことになる。嫌じゃないけど、改めてっていうのはどうしてか気恥ずかしくて。やっぱり、あのとき勢いでやっとけば良かったかな、とか。腹を括ったはずなのに尻込みしたくなる。夜中だし、眠くなって寝てねえかな。寝てねえだろうな。
    「……彰人?」
    「うお」
     まごついていたら、目の前の扉が内側に勝手に開いた。なんてことはなく、ただ冬弥がドアを開けてくれただけだった。
    「……遅くなった」
    「なかなか戻ってこないから、心配した。やっぱり嫌になったんじゃないかと。……その様子じゃ、杞憂だったみたいだな」
    「うるせえよ」
     深夜なのを考慮して声のトーンを落とした冬弥が、微笑む。その余裕そうな表情が、さっきとは形勢逆転したようで面白くなくて睨みつけた。けど、オレの部屋から漏れる煌々した明かりに照らされて、頬の赤みはまったく隠しきれてないようだった。
     廊下で喋っているとさすがに絵名に聞こえかねないので、大人しく連れ立って室内に入る。冬弥が扉を閉めれば、二人きりの密室の出来上がりだ。
    「あきと」
     冬弥の方を見られないままのオレの背中へ、柔らかく冬弥が呼ぶ声がする。大きくドキリと鼓動が跳ねた。たぶん、体も。こんなペースでドキドキしていたら、そのうち死んじまうんじゃないだろうか。
    「どうしてフェラチオをしたときよりも緊張しているんだ」
    「フェ……ッ、お前こそ、なんでそんな余裕なんだよ」
     冬弥の口からその単語が出ると、改めてやべえことをしたんだなって実感してしまう。ついでにそんときの冬弥の顔や声なんかがフラッシュバックして、体をゾワッと不思議な感覚が駆け上がっていく。すげえ良いライブしたときみたいな、ああ、高揚?
    「そう見えるか?」
     後ろからハグをされて、肩甲骨に冬弥の胸が当たる。とくとくと刻む鼓動はオレと同じくらい早い。そっか、顔に出ないだけで緊張してんのはコイツも同じか。それが分かって、少しだけホッとした。そんで、そんなことも見落としてしまうくらい自分が冷静じゃなかったことに気付く。
    「いや、そうでもねえな」
    「それなら良かった」
     そっと背中の体温に体を預けると、回された腕に少しだけ力が籠る。オレが拒否すればすぐに離れてしまいそうなやさしい拘束が、今は少しだけさみしかった。
    「……止めておくか?」
     止めておく。唐突な質問にいったいなんの事か首を捻る。何を? ああ、キスするって言ったことを?
    「いや、無理だろ」
    「しかし」
    「違うって。オレがしたいもん。オアズケとか、無理」
     冬弥と、ちゃんと気持ちを確かめあって、目の前に敷かれた見えない線を飛び越えてしまいたい。自分達の意思で、昨日までのオレ達よりも先に進みたいから。
     まだ鼓動は落ち着かないし、顔の火照りは冷めない格好のつかない状態だけど。冬弥の腕の中で体の向きを変えて、ちゃんと向かい合う。
    「すんのと、されんの、どっちがいい」
     首の後ろに腕を回して引き寄せる。額が擦り合わせられるような至近距離で視線が絡まった。
    「……する」
    「ん」
     冬弥の返事に満足して、全部委ねるように目を閉じた。腰を強く抱きすくめられて、もう逃げらんないなってちょっとだけ愉快な気持ちになった。
     そのまま、触れ合ったのは一瞬で。
     ふにゅ、と柔らかい感触が訪れて、またすぐに離れてしまう。
    「ぁ、」
     たったそれだけなのがもったいなくて、もっと欲しくて。こっちも抱き寄せて、離れていってしまう体温を追う。
     もう一回、もう一回と延々重ねていると、どっちの唇から漏れたのか分からない、ちゅっ、と濡れた音がした。目を薄らと開くと、ギラギラと光る冬弥の瞳と目が合った。
    「っん、」
     絶え間ないキスのせいで息が上がってぼんやりと夢心地な思考の端で、エロいな、と率直な感想を考える。脳直のまま冬弥の薄い下唇を舌で舐めれば、ばりっと音がするほど勢いよく引き剥がされた。
     途端に思考から靄が晴れたみたいにクリアになる。それは冬弥の方も同じみたいだった。
    「うおっ、……どうした」
    「……また、勢いに任せて俺は彰人に手を出そうとしてしまった……」
    「別にいいっつってんのに」
    「大事だから、ちゃんと段階を踏みたいんだ」
    「あー、そう」
     そっちの方が恥ずかしい気がするんだけど。まあ、冬弥がそうしたいって言うんならいっか。なんて、大概オレもコイツに甘いよな。たまーに杏にも指摘されるけど、言われなくとも自分が一番よく分かってる。
     さっきまで冬弥と触れ合ってた唇を、そっと人差し指でなぞってみる。
    「? 彰人、どうかしたか?」
    「いや。クセになっちまいそうだなーって」
     柔らかいキスの感触も。あの、抑えきれない情欲を孕んだ目を向けられるのも。噂みたいなレモンの味とは程遠い、何にも言い表せない冬弥の味も。そういえば、冬弥からしたら歯磨き粉の味だったんだろうか。
    「で、冬弥の感想は?」
    「……、俺も、もっとしたい」
    「ん。いいよ」
     頬に添えられた手に、手を重ねる。ほろりと一粒涙をこぼした冬弥は、苦しそうな顔でなく、微笑んでいた。確かめるように、もう一度口と口を触れ合わせる。
     決定的な線を越えて、オレ達は変わってしまった。それでも冬弥と一緒だから、これが良かった。
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