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    bin_tumetume

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    冬彰ワンドロワンライ

    『空色の猫は上機嫌に微笑む』 ⚠️注意⚠️
     いやゆるナドヤンパロディ。
     二人が同じクラス。冬弥くんから彰人くんへの呼び名を改変しています。冬弥くんが猫を飼っている設定があります。
     
     
    「はよ、冬弥」
    「おはよう、東雲」
     二月二十二日、水曜日、快晴。外ではまだ朝練を始めたばかりの運動部員達が準備運動をする掛け声が響いている。そんな早朝の教室には、先客がたった一人きり。いつも俺が来る頃には夢の中にいるクラスメイトが、今日は軽く手を挙げて出迎えてくれた。
    「彰人でいいって言ってんのに」
     そうやって拗ねた様子で頬を膨らませるのは、クラスの中心人物である東雲彰人だ。三学期初頭の席替えで隣になってから、何かと話しかけて来てくれるようになった。
     自ら話しかけに行くタイプではない受け身な性格のせいか、はたまた育ちのせいで特段クラスで誰とも会話もせず浮いていることを苦とも思わないせいか、孤立しがちだった俺のことも嫌な顔ひとつせずに世話をやいてくれる良い奴だ。それどころか、普通の友人たちと同じようにファーストネームで呼んでいいと言う。これは人気が出るのも頷けるなと納得してしまう。
    「すまない、誰かを名前で呼ぶのは慣れなくて……」
    「べつに冬弥が謝る程のことでもないし、いいけどさ」
     前後ろ逆に座っているせいで全面にある背もたれに肘をつく。いいけど、なんて言う割に少し納得いっていなさそうな顔でそっぽを向く。そのふわふわの毛が跳ねた後頭部が、最近飼い始めた猫にそっくりで面白く感じてしまう。
    「そういえば、今日は寝ていなくていいのか?」
     窓際に面した東雲の席は、昼はお日様が当たってぽかぽかと心地よい……のは分かるのだが、午前中の授業を睡眠に充てるのはいただけない。隣の席になった後に一度それを注意してから、彼はこうして朝一番に教室に来るようになった。どうも朝早くからランニングをする習慣があるようで、これまではその分の睡眠時間を授業中に確保していたらしい。
     朝四時に起きる反動か、どうにも日中眠くなってしまうらしく、ランニングとシャワーを終えたらまっすぐに登校して机に突っ伏して仮眠時間を確保することにしたようだ。部活をやっている訳でもないのに熱心な事だと素直に感心してしまう。
     一方、親となるべく顔を合わせないように早く登校しているだけの俺と、こうして二人きりになることが度々あった。とはいえ、東雲は仮眠をとっていることも多いので会話を交わさないことも多い。俺も本を読んだり、何となく東雲の寝顔を眺めてみたりと好きに過ごしている。
    「ああ、今日は冬弥に見せたいモンがあってさ」
     じゃん、なんて効果音を発しながら指定のブレザーの下に着込んでいたパーカーのフードを東雲が被る。
    「可愛くね?」
     頭頂部にぴょこんと飛び出した三角が二つ。動物の耳を模しているのだとすぐに分かった。
    「どうしたんだ、それ」
    「今日って猫の日だろ? この間見つけてさ」
     東雲が得意げにニヤリとすると、体の揺らぎに合わせて三角の耳がぴょこぴょこと揺れる。まるで春の空のようなパステルブルーのそれは、東雲によく似合っていて、確かに言う通りだった。
    「可愛いな」
    「……だろ? 冬弥は好きだと思ったんだよな」
     フードの端を掴むと、きゅっと引き下げて表情を隠そうとしたらしいが、もにゃりとニヤけた口元がどうにも隠せていないのがまた可愛らしいが黙っておこう。わざわざ見せようとしてくれた俺の反応は東雲が思っているより良かったのか、頬を紅潮させるくらいには嬉しいと思ってくれたらしい。
     東雲は、こうして席が隣になる前に一度だけ校外で俺と話したことを今も覚えていてくれるだろうか。親とはぐれたらしい野良猫に懐かれてしまって、でも家には連れて帰れないと困って立ち尽くしていた彼に、学校の帰り道で助けを求められた日から、ずっと。俺がその仔を連れ帰ると言ったときのほっとした顔を見た時から、ずっとずっと、俺は東雲のことが気になってしょうがない。クラスの人気者の東雲くん、の顔ではなくて、行き場のない野良猫を案じるような東雲彰人のことが、俺は。
     もしかしたら、そんな些細だと思われてもしょうがないようなことを東雲も覚えていてくれて、それでこうして猫のパーカーを着てみせてくれたのかもしれない。なんて、そんな淡い期待を抱いてしまう。もしかしたら、他の誰でもない俺のために、なんて。
    「……、ん?」
    「どうした?」
    「俺がそれを好きだと予想したのなら、どうしてわざわざ着てくれたんだ?」
     着るんじゃなくて、こういうパーカーがあると教えてくれるだけで良かったはずだ。こうして着てくれるのはもちろん嬉しいが、そこまでせずとも写真を見せて話題にするだけでも充分に楽しかっただろう。
     虚をつかれたように目を丸くしていた東雲は、ふっと肩の力を抜いて笑った。
    「お前、そこまで気づいててまだわかんねえの?」
     それは、あどけない子供みたいな顔だった。猫の引き取り手が見つかったときに見せたような。いつもの、クラスの中心でクラスメイトに囲われている時に見せるようなかっこいいようなものとはまた別の。
     そこまで気づいていてとは、なんのことだろう。猫耳のフードを着てきてくれたことだろうか。じゃあやっぱりそれって、俺のため……?
    「……え、あ」
     何を言えばいいのか、意味の無い音ばかり吐き出す口を情けなくパクパクとさせていると、東雲がパサリとフードを脱いでしまった。ガラリと教室のドアが開く音がした。
    「おはよー! あ、アキ、青柳くん、早いね!」
    「おー」
    「あ、おはよう……」
     今日の日直がバタバタと駆け足で入ってくる。東雲が気の抜けた返事をする姿は、まるで普段の通りだ。さっきの東雲の言葉が頭からグルグルして、期待してしまう自分と、それを抑えようとする自分でまるで頭の中で自分が二人に分裂してしまったみたいで忙しない。
    「っふ、冬弥、声ちっさ」
     くつくつとイタズラが成功したようなしたり顔が、可愛いけれど今は少しだけ小憎らしい。慌ただしい日直が教室の花瓶の水を取り替えるという仕事を遂行するために、また二人きりの空間が帰ってきた。でもそれも僅かな時間だろう。じきに他のクラスメイト達だって順にクラスにやってくる。
    「東雲、もう、もう一度チャンスをくれ……」
    「名前で呼んでくれない奴にそんなものありませーん」
     つんっとたった鼻筋をふいっと横に向けてしまうつれない男の、空色のパーカーの裾をつまんでくいっと引っ張る。
    「……あきと」
     それ以上にどんな言葉を用いて頼めばいいのかもおもいつかず、縋るように三音を口にする。彰人の瞳が細められ、涙袋がきゅっと浮きあがる。そうして、にへりと口元を緩めるのだ。
    「放課後、あけとけよ」
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