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    KOP/カケタイ
    🎾 /月寿

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    月寿 付き合ってない
    カフェでデートする話

     きっかけは、一通の手紙だった。
     U一七日本代表合宿所には時折、所属選手のファンから手紙やプレゼントが届く。合宿所のスタッフが中身を確認後、各人へ振り分けているのだが、その量はやはり一軍高校生へ宛てたものが多い。
     その日月光が受け取った封筒には、一枚のギフトカードが封入されていた。誰もが名を知る全国チェーンのカフェで、ドリンク二杯と引き換えることができるというもの。さしもの月光も、頂き物を興味はないと切り捨てたりなどしない。むしろ、一介の高校生である自分を応援し、気持ちを届けて貰えることに感謝の念を抱くほどだ。
     受け取る側が自由に品物を選べるという利点からギフトカードや商品券の類いはプレゼントの定番であるし、月光宛の手紙にはよく図書カードが同封されている。
     使用期限もあるようだし、こういったものは忘れない内に使用するのが吉だろう。確かこのカフェは、商店街にも店を構えていたはず。休息日のスケジュールを頭に浮かべながら、添えられていたメッセージカードを開いて。
     思いがけない文面に、月光は目を見開いた。
     
     ◇
     
    「月光さんがこないなカフェを選ぶやなんて珍しいですねぇ。さして興味があったんですか?」
    「そういうわけではないが」
     休息日の午後。月光は、後輩の毛利寿三郎と連れたって商店街のカフェを訪れていた。土曜日の昼時ということもあり、店内はかなり賑わっている。
     寿三郎の指摘通り、月光がこういったカフェを利用する機会はあまりない。そもそも好きな食べ物に「水」を挙げるような男である。学友の付き添いか、或いは外で読書をしたい気分の時、ごく稀に入店する程度だ。いずれの場合も混雑した時間帯は避けるから、店外まで続くような会計待ちの行列に並んだ経験もない。
     一方の寿三郎は、人並みに店の利用経験もあり、限定メニューにも詳しいようだ。キャラメルか抹茶か、はたまた期間限定のバナナか。迷いに迷ってうんうん唸る寿三郎を横目に、月光は真相を伝えるべきか思案する。
    「月光さんは何頼むんです?」
    「ホットコーヒーだ」
    「大人やなぁ……月光さん、キャラメルと抹茶とバナナ、どれがええと思います?」
    「お前の好きなものにしろ。……敢えて選ぶならバナナだが」
    「バナナ選ぶ月光さんかわええ~! ほなバナナにしますわ!」
     今のどこに可愛い要素があったのか月光にはさっぱり分からない。他人の意見で即決するなと言ってやりたいところだが、満面の笑みを浮かべる寿三郎に苦言を呈するのは無粋だろう。その笑顔に幾度となく絆されていることを自覚し、月光は小さく息をつく。
    「うわ! あかん!」
    「今度はどうした」
    「これ……小遣い足りるやろか……」
     輝くような笑顔から一変。寿三郎は財布をひろげながら、どんよりと表情を曇らせる。よくもそんなに表情筋が動くものだと感心しつつ、月光は寿三郎の肩に触れる。
    「今日はこちらがご馳走する。先日、この店のギフトカードが届いた」
    「もしかしてファンの子ぉからです? うはぁ~さっすが月光さんやね! モテモテやぁ」
    「そういうわけではないが」
    「月光さんはな、月光さんの知らんところでごっつモテてはるんですよ!」
    「さして興味はないな」
     そもそも合宿所に贈られるプレゼントに、そういった気持ちを込めた物など無いだろう……というのが月光の考えだ。自分は相手のことを何も知らないし、相手も自分を知らない。そこに恋愛感情が生まれる余地などない、と。
     くい、と袖口を引っ張られ、視線を下げる。大きな瞳が、じいっと月光を見上げる。その顔を一言で表すならば『無』だ。寿三郎は表情豊かではあるが、時折そのバリエーションの中に、月光には読みとることのできない感情が混ざることがある。
    「何で俺を誘ってくれはったんです?」
    「それは、」
     月光が口を開いたタイミングで、注文の順が回ってきた。耳馴染みのない言葉が並ぶメニュー表を凝視して固まってしまった月光に代わり、寿三郎が二人分の注文を進めた。
     
     ◇
     
    「折角の戴きもんやし、額面ギリギリまで使わな損です!」の一声で月光のホットコーヒーは、ショットだのミルクフォームだのシロップだのを追加された寿三郎カスタムの一杯へと変貌を遂げた。月光が普段口にするコーヒーに比べて甘味はあるが、飲みやすく落ち着く味わいだ。ちなみに寿三郎は、バナナフレーバーのフローズンドリンクにやはりチョコソースやチョコチップを追加したものを美味しそうに啜っている。そんなに勢いよく冷たい物を飲んで腹を壊さないかと心配になるが、過保護すぎるような気がして口には出さない。
    「……毛利。先ほど途切れた話の続きだが」
    「んぇ……? ええと、なんでしたっけ?」
     何故、寿三郎をカフェに誘ったか。
     ドリンク二杯と引き換えができると言っても、一気に使用する必要はない。日を分けて一杯ずつ注文することだってできるのだ。それでも、今日月光が寿三郎にドリンクをご馳走した理由。それは。
    「添えられていたメッセージカードに、『毛利くんとのデートで使ってください♡』と記されていた」
    「ゲホッ、ゲホ……えっ? はぁ? なんて?」
    「お前との、『デート』に使えと」
    「俺とのデート……?」
     大きな目と口をまんまるく見開いた顔は、まるで『ぽかん』という擬音を体現したようだ。暫し固まっていた寿三郎だが、徐々にニンマリと口角を持ち上げ、上目に月光を見つめる。
    「そんなら今、俺と月光さんが一緒に出掛けてカフェに来とるんは、月光さん的にはデートの一環なんや」
    「デートの一環……」
     今度は月光が『ぽかん』の顔をする番だ。これは、デートと呼ばれる行為であるのか。深く考えていなかったが、そもそもデートの定義とは。好き合っている者同士、或いは意中の相手と出かけることを指すのではないか。では今、毛利と此処に居るのは。これは、デートで合っているのか。
    「そない難しく考えんといてください。デートなんて、女子高生なら散歩くらいの感覚で使うてますわ」
     ズズズッとドリンクを啜る音で月光は我に返る。目の前の寿三郎は、相変わらず楽しそうな笑みを浮かべている。何が彼を笑顔にさせるのか。月光には、読みとれない感情だ。
    「そういうものだろうか」
    「そういうものです。でも、」
     
    「俺は最初から、デートやったらええのになって思うてましたよ」
     
     一口飲みます? と差し出されたドリンクを口にする。
     チリッと胸が焦がれるような心地がしたのは、甘酸っぱさのせいだろうか。
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