「隙も作れて抵抗手段も無くせる。一石二鳥だろう?」 ひりつく空気を穿つかの如く鋭い一撃が繰り出される。
長い歴史の中、イシュガルドの竜騎士達が洗練を重ねてきたそれらは竜の爪と錯覚する程に鋭く、竜の牙を連想させる程に重い。
正しく『竜を屠る』為だけに磨かれ洗練された妙技。竜と渡り合う程の威力は人の身には重すぎる。
故に。あまりに強大過ぎる力と対峙する時はぶつかり合うのではなく、いなすのだ。
「うっ……わあ……あの攻撃って避けられるんだ……」
紙一重。
攻撃に追い付けなかったからギリギリを避けた訳ではない。見えていたからギリギリを避けただけ。
頬に槍から巻き起こされた風を感じながら、ホセは軽く後ろに引いていた右手を固く握り込む。狙うは体のど真ん中。鋭い視線を感じ取ったルトゥが身体を捻った、そこに一瞬の間を置かずに拳がうなりを上げて叩き込まれた。
「チッ……化け物め」
「それ、お前さんが言うのかい」
風を切り裂いて放たれた拳。
ほんの少しでも装備を拳に掠めていたのなら、恐らくルトゥの体は吹き飛んでいる。己の咄嗟の判断を称賛しながらルトゥは槍を構え直した。
アラミゴを発祥の地とするその攻撃体系は、圧倒的に不利なリーチ差すらカウンターという形で攻撃に組み込む。肉を切らせて骨を断つとはモンクの為にあると言っても過言ではないのかもしれない。
「今のを避けるか。困ったな」
全然困ってないよね──とは、傍から見学していたジョウの談である。
横に薙ぎ払う。槍を手で跳ね上げる。正拳で突く。ハイジャンプ、全体重を乗せた突き。飛び退く。重力をまるで無視したかのように接近──勢いのままに繰り出される拳。槍では勢いは殺せない、イルーシブジャンプ。
技、技、技、技。
二人の技の応酬は、見ている者に訓練ということを忘れさせてしまう程に激しく泥臭い。実践と違うところがあるとすれば、二人の瞳に殺意が宿っていないという点ぐらいだろう。
事実、二人にもかなり熱が入っている。狩る側としての本能が刺激されているのか、目がギラついていた。
何度目かも分からない、ルトゥの鋭い突きが入る。そこそこの時間槍を振るっているにも関わらず、その攻撃は今までで一番鋭く力強い。
当たってしまえばひとたまりもないであろうその攻撃を、ホセは、
(いける)
手首をしならせ、横から弾くように裏拳を叩き込んだ。
刹那、凡そ人体と鉄がぶつかる音ではないような音がその場に響く。
「ッ!?」
「ぅお! ──っと、悪い!」
「…………あ、ええ……??」
槍が、折れた。
正確には口金から穂、穂先に掛けてが粉砕されてしまっている。
ホセは咄嗟に槍の柄を掴んでルトゥがよろめくのを阻止し、謝罪の言葉を口にした。が、当のルトゥといえば尻尾を膨らませて呆然としている。スペースミコッテであった。
「ちょ、え、ちょっと、えっ? ルトゥもホセさんも無事? だいじょぶ?」
「私は特に怪我していないよ。ルトゥ?」
「──ん。あ、ああ、大事無い」
言いたいことなら山のようにあるが。
走り寄ってくるジョウの声で正気に戻ったルトゥは、しかし珍しく耳を垂れ下げてしょげているホセに文句を言うのも何となく憚られたので押し黙っておくこととした。
「本当にすまないな。故意ではなかったんだが……」
「故意だったら恐ろし過ぎるだろう。モンクの間では金属の武器をへし折るのが主流なのか?」
「少なくとも主流ではないよ」
弁償しよう、いや必要ない、私の気が済まないから、本当にいらん、空から槍が降ってきたんだと思って、なんだその仮定は──
もだもだとそんな押し問答をし始めた二人を眺めながら、ジョウがぼんやり考える。
(……そういえばホセさんって、両手剣振り回して前線に立ってる時もたまに片手で敵の剣砕くことあったような……)
癖って怖い。そんなことを考えつつ、ジョウは未だに生産性が皆無のやりとりをしているいい歳したミコッテの男共の仲裁に入っていった。