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    JoseCavallari1

    @JoseCavallari1

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    JoseCavallari1

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    グリダニアに住むとある女性と、誰かを探している誰かの話。
    これはキャラを借りた……と言っても良いのだろうか……🤔🤔🤔

    「──秋の夜のような男と、出会ったことがございます」 ……それが貴方のお友達かどうかは分からないのですけれど。

     うふふ。ごめんなさいね。私、彼の名前も知らないの。変な話でしょう? でも、彼も私の名前を知らないのよ。
     私と彼の関係は、なんて言えば良いのかしらね……少し奇妙な縁なんです。それでもよければ、お話を聞いてくださるかしら。

     精霊のお膝元、黒衣森はグリダニアの旧市街。その片隅に居を構えている、しがない娼婦が私でした。
     何故グリダニアに売女が、などと思うかもしれませんが、いつの世であっても、どの国にだって『高貴なる下賎な者』というのは存在いたします。そういった方々と『遊ぶ』のが私のような女ということです。
     とはいえ高貴な方達曰く『ふしだらな女達』である我々が、日常的にそのような方々と出会える訳ではありません。
     仲介役がいまして、そこから引き合わされるという仕組みになっているのですが……別に、先進的ということでもございませんでしょう。他の国では更によくある事です。ともすれば、もっともっと発達しているのではないでしょうか。
     この国は長らく排他的でしたので、『こういった文化』が幾世代か遅れてやってくるのは仕方のないことで、また、それが常でもあるのです。
     遅れているとは思いません。その代わり他の国に無いものが、良くも悪くもありますから。

     ──まあ、不便ではありますけれど。

     お話が逸れました。
     ええ、『彼』のことでしたね。私が彼と出会ったのは、なんてことのない秋の夜のことで、その時私は危うく命を落としかけていました。
     ふふ、今生きているのが意外でしょうか? そう、殺されそうになっていたのです。他でもない、高貴なお方に。
     このようなお仕事をしていますと案外よくあることなのです。……貴方も、それは知っているのではなくて?
     お喋りの途中にお酒と色気に酔った方がうっかり口を滑らせて、それを聞いた子が『たまたま』モンスターに襲われて命を落とす、なんてことがあるのです。不思議と。
     でもね、私達はそれを承知でこの仕事をするのです。ええ、ええ。なんとまあ愚かでございましょう。私もそう思います。
     それでも、それでも生きるためにはお金が要るのです。信仰も、預言も、清貧も、それだけではお腹を満たしてなんかくれませんから。
     身売りとは、張るものが体しかない──崖っぷちに立たされた女が生き残る、立派な術のひとつですもの。

     私も、聞いてはいけないことを聞いてしまいましたの。
     そして運が悪いことに、私のお相手の方は、言ってはいけないことを言ったという事実に気付いてしまわれたのです。酒気を帯びた顔がすぅ、と肌色に戻っていく様を間近で見ていました。
     人間、本当に命に危険が迫ると冷静になると言いますが。本当ですよ。
     飼い猫の餌と住処はどうしよう、昨日頬を晴らして泣きながら帰ってきたあの子は大丈夫かしら、こんな人が精霊の声を聴けるなんて精霊様も趣味が悪いのね──なんて、ふふ。これじゃあ信仰心が欠片もないのが丸分かりですわね。
     貴方は……そう、リムサ・ロミンサからやってこられたのね。その瞳に、私はさぞグリダニアの民らしからぬ姿に映るでしょう。

     ──ふふふ、キザなお方。まるで彼みたいだわ。
     でも、何故かしらね。貴方と彼は似ているようで似ていない。同じ秋でも、貴方は──
     ……やだ、また話が逸れてしまったわ。ここを訪れる人なんて長らく一人だったもので、お客様がくると嬉しくてどうにも、ね。

     さて、私が死を悟った所までお話しましたね。
     それから──そう、脱ぎ散らかした服を無言で拾い集めて、あのお方にもお召し物を着せて。そそくさと帰路へつきました。
     余程真っ青な顔をしていたのでしょう。部屋を出た時にたまたま通り掛かったボーイの方に、「どうかされましたか?」なんて心配されてしまって。
     でも私はそれどころではなかったのです。何せ、死の足音がすぐそこで聞こえているんですから。
     かのお方の冷めた視線が、ねっとりとまとわりついて身体中を這いずり回る感覚を今でも覚えています。あれほど『死』を間近で実感したことはありません。

     一人になってしばらく経った頃です。秋の夜は風が冷たくて、落ちた枯葉を悪戯に吹き上げては私の体へ降り注ぎ、みるみる体温を奪っていって……身体が冷えていた理由はそれだけではなかったけれど。
     ふいに、かさりと足音がして。
     その音は確かに人が枯葉を踏みにじる音で、私は「もう来てしまった。私の人生もここで踏みにじられてしまうんだわ」と変に悟った心持ちで思ったの。

    「──理由は、分かっているな」

     いつの間にか背後に立っていた男が私の首に『何か』を当てながらそう呟きました。それはぞっとするほど冷たくて、それなのに首の当たりは熱くて、熱くて、
     ……ごめんなさいね、気を遣わせてしまいましたね。あの時のえも言われぬ感情を忘れたことは一度たりともないの。命がある今でも、ずっと。
     理由、と問われた私は震えながら頷きました。だって、本当に分かるんですもの。

    「お前は、多くを聞きすぎた。『精霊』様はお前を排除すべきだと仰っている」

     嗚呼、私はただ生きていただけなのに、一晩抱かれた名前も知らぬ男の過失の尻拭いとして死ななければならないんだって!

    「──黒衣森の精霊が、そんな下品な指示を下す訳がないだろう?」

     柔らかい声でした。
     まるで、子供の可愛い悪戯を咎める親のように優しく、穏やかな声。
     たったそれだけ。本当に、たったそれだけで。
     私の背後にいた男が振り向いたのか、首の冷たさが少し震えて。それから、ゆっくり、ゆっくりと離れていきました。
     ようやく自由に動けるようになった私は、これまたゆっくりと後ろを振り向いてみようと思ったのです。景色がどんどん移っていって、目の端に『鉄の何か』が見えたような気がした瞬間。

    「振り向かないで」

     視界に割り込んできたのはミコッテの男──どう見ても、先程のボーイでした。
     彼は私に優しく微笑みかけると、肩を抱き寄せてから腰に手を回しました。ぴったりと寄り添う形になった私と彼は、もしかしたら傍から見れば仲睦まじい恋人のようにも見えたかもしれませんね。

    「見なくていいさ、あんなもの。ゆっくり踏み出して……そう、大丈夫、大丈夫……」

     耳のすぐ横から流し込まれるかのようにあの柔い声が聞こえてきました。その声に導かれるように足を進めて……家に帰って……。
     ……正直な話をしますと、そこから数週間の記憶は曖昧なんです。お恥ずかしながら、鼻水を垂らしながら子供のように彼に縋り付いて泣き喚いた記憶もあるんです。あとは、その……人肌を、寄せてもらった記憶も。でも全てが現実味がなかったといいますか、なんと言いますか……。
     気が付いたら私はこの小さくも立派な一軒家で暮らしていたんです。自らを売っていた時からは想像もつかないくらい、穏やかな生活。

     それからは、そうですね。こうして畑などを耕しながら慎ましく暮らしています。これが、私の全てです。
     ふふふ。ごめんなさいね、きっと参考にならなかったでしょう。それともちょっとわざとらしかったかしら。こんなにも長々と話してしまったんだもの。流石に飽きてしまうわよね。
     ……まあ、貴方はやっぱりあの人に似ているのね。あの人は秋の夜のような人だけれど、貴方は……そうね、秋の早朝のような人。私にはそう見えるわ。

     あら、ようやくドアが叩かれたようですね。
     言ったでしょう? ここを訪れる人なんて一人しかいないんです。貴方のことをどこかで聞いたのかもしれませんわね。
     きっと、貴方の探し人よ。秋の夜のような男──彼に、どうぞ会ってあげて。
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