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    Medianox_moon

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    Medianox_moon

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    2話「ユンユンと夜の街」のはじまりです! 全てはファンタジーなのです!

    ##ユントマ
    ##ワタネコ

    ワタクシが猫で、アナタがネコで 5「なるほどねえ~、飼ってた猫が猫又で、夜な夜な街に繰り出してることをある日カミングアウトする……」
     白髪交じりの中年男性が、エプロン姿で顎に手をやり、うんうん頷いている。それから、にっこりと笑った。
    「いいじゃない、昔からよく有るパターンだけど、そこからどうとでも話を広げられる受け入れやすさが有る。おじさんは楽しみだなあ、『時次』さんの次回作!」
     そう言われて、トウマは困ったように笑った。
    「あ、はあ、いやその……はい、次回作も、頑張り、ます……」
     書けたらお見せしますね。トウマは結局本当のことを強く言うことができなかった。


     そこはトウマ行きつけの小さなペットショップだ。犬や猫、鳥やハムスターのエサやオモチャが所狭しと並んでいる店は、少々窮屈だが、トウマには少し心地良く思えた。あまり他の客がいないからでもある。
     家から歩いて行ける距離に有って便利だし、そこ店の経営者――つまり、目の前の人物が親戚に当たる。下の名前をカナタと言い、こちらに引っ越してきてからずっとよくしてくれている。もちろん、最近はユンユンのことを相談したり、エサを買わせてもらったりしているわけだ。
     猫用のご飯を買いに来たついでに、いつも世話になっているしと思い切って打ち明けたのだ。もちろん、前立腺のことは言わなかったけれど。しかしどのみち、彼は一連の話を『フィクション』だと認識したようだ。
     それもしかたないか、とトウマは思った。なにしろ、トウマは『幻想小説』を書いている作家なのだ。
     と言っても、トウマは名の知れた大作家、というわけではない。電子書籍を数冊と、紙の本を1冊出しただけでも素晴らしい、と言う人はいる。しかし、幻想小説家『時次』の名はまだまだ無名で、それだけで食べて生きるということもできなかったから、トウマ自身はプロとアマの間だと思っている。
     幻想小説家が猫又なんてオーソドックスな妖怪の話をするなら、次の作品の構想だと思われてもしかたないだろう。事実、ユンユンのことを意外なほど素直に受け入れられたのも、これが理由の一つだとトウマ自身思っている。この世に不思議なことはあるかもしれない。そう思っているからこそ、現実と不思議の狭間を物語にするような作品を書き連ねているのだから。
    「ああ~それと、本当に申し訳無いんだけど、また、頼めるかな?」
     カナタがバツが悪そうに言う。トウマはすぐに理解して、「ああ、町内会のお知らせ?」と尋ねた。
    「そうなんだよ~、ごめんね、手書きの原稿はできてるから……」
     そう言って、カナタは一枚の紙を渡してくる。今どきなかなか見ない、鉛筆で書いた町内会のお知らせだ。カナタは歳のせいもあって、パソコンの類が全く使えず携帯電話さえ持っていないという状態だ。しかし体裁も有って、パソコンなりスマホなり、とにかく電子機器を利用して書いた物でないと、読みにくいだなんだと文句を言われる。困っていたカナタに、トウマが声をかけたのがきっかけで、何度も清書をしてやっていた。
    「急ぎます?」
    「そうだなあ~、水曜日ぐらいまでにもらえると助かるよ」
    「わかりました、やっときます」
     これぐらいの文章量なら、一日有れば余裕でできるだろう。トウマはそう考えながら、トードバッグからノートを取り出す。原稿がクシャクシャにならないよう、きちんと挟んでからしまう。そうしていると、カナタは嬉しそうに商品棚に手をやった。
    「じゃあこれ、前金の代わりに」
     バサバサと袋に猫用のおやつを詰めている。「いやそんなには、」と慌てるトウマに、「いやいやいやこれぐらいは」と返してどんどん放り込んでいた。一か月分は有るんじゃないかとか、ユンユンは猫用のおやつを食べて喜ぶんだろうかとか、さすがにそんな量は現金に換算するともらいすぎだとか色々考える。
    「トウマ君にはいつもお世話になってるしね。それに、僕は君の猫ちゃんも感謝してるんだ?」
    「うちのユンユンに?」
     首を傾げると、カナタはウンウン頷いて言った。
    「ユンユン君がトウマ君の家に来てから、トウマ君はなんだかいつも嬉しそうな顔をしていてね。それでおじさんも嬉しくなっちゃうんだ」
    「……はあ、……そうですか……」
     むにむに、と自分の頬を撫でる。そう言われると、どうも気恥ずかしかった。
    「他に何かいるものは有るかな? オマケしといてあげるよ」
    「ええ、悪いですよ、」
    「いいからいいから! ユンユン君におじさんからのプレゼントってことで」
     カナタは柔和そうな男ではあるけれど、案外と引かない。ううん、とトウマは悩んだ後で、「ああ、じゃあ何かネコ用のオモチャを……」と提案した。


     さて、この大量のオヤツをどうやってユンユンから隠そう。いやそもそも人型になられでもしたら、引出しなんて簡単に開けられるだろうし。
     悶々と考えながら帰宅する。ユンユンは今日も相変わらず、コタツの中に潜っているようだった。
    「ユンユン、ただいま~」
     声をかけたけれど、「なーん」と小さな声が聞こえたぐらいで、出てこない。猫又でも寒いのは苦手なんだなとかそんなことを考えつつ、オヤツの大半を引出しの一番下に隠した。2メートルの巨体には、逆に低いところのほうが探しにくいかもしれない、と考えてのことだ。実際どうだかは知らない。
     猫用オヤツの『にゅ~る』と、もらった猫じゃらしを持ってコタツへと向かう。布団をまくり上げると、青い瞳と眼が合った。いつ見ても神秘的に美しい瞳だ。トウマは彼に微笑みかけながら、「ユンユン、オヤツとオモチャだよ」と猫じゃらしを振って見せる。
     ユンユンはじっと猫じゃらしを見つめて、その動きに合わせて首を動かす。
    (あ、案外こういうの好きなのか)
     ゆっくり振って、素早く振って、止めて、を繰り返すと、それに合わせて首を動かしながら、姿勢を低く低く下げていく。トウマもいつ飛びついてくるかと思うとドキドキしてきた。ピュッと動かすとユンユンが猫じゃらしに飛びつく。それをなんとか避けてさらに猫じゃらしを振ると、何度も何度も飛びついてきた。
    「おお、おお意外と食いつきがいい」
     猫又になってもこういうのは好きなのか。そう思っていると、ユンユンは突然猫じゃらしに興味を失ったようにゴロンと床に転がり、しきりに毛づくろいを始めてしまった。
    「あれ、ユンユン~」
     そうなると、後はどれだけ猫じゃらしを振っても見向きもしない。うーん、遊び方が悪かったかな、と猫じゃらしを置くと、ユンユンは起き上がってトウマにすり寄ってきた。今度は甘えたいようだ。
    「よしよし、ユンユン。オヤツ食べようか」
     『にゅ~る』だよ。とその言葉を聞いた途端、ユンユンの眼が輝く。今までになく嬉しそうな表情を見せるユンユンに、(猫又も『にゅ~る』が好きなんだな……)と少し面白くなった。封を切って差し出すと、無我夢中といった様子でオヤツを舐め始める。それが可愛くて、トウマはユンユンを優しく撫でた。
     ああ、ユンユンが前立腺開発するとか言わなきゃ、本当にただただ幸せな猫との日常なのになあ。
     トウマはボンヤリとそう思った。



     とある夜のことだ。
     よく眠っていたトウマは、パタンという物音で目を覚ました。ん、と寝返りを打つと、カチャカチャという音がする。それで覚醒した。今のは玄関の扉が閉まり、鍵をかける音だ。飛び起きると、ベッドにも部屋にもユンユンの姿が無い。慌ててベッドから飛び出して、服を着替えた。時計を見ると時間は23時だ。こんな時間に何処へ、と考えて、まさかと青くなった。
     風俗。頭がその単語でいっぱいになって、トウマは大急ぎでユンユンの後を追った。

     白と黒にはっきりと分かれた髪。夜にも関わらず、色付きのサングラス。黒いジャケットに、この寒いのに妙に短いパンツ。そして2mを越える男なのに、ハイヒールブーツをコツコツ慣らして歩いている。
     それが、走り回ってようやく見つけたユンユンの姿である。
    (いや、見るからに怪しい~!)
     トウマは心の中で叫んだ。外見で人を判断するのはよくないことだが、それにしたって、一目でカタギでは無さそうだと思うに決まっている。まずとにかくデカい。縦に長い。平均的な自販機の高さが183cm。ヒールを込みにして余裕で越えている大男な時点でめちゃくちゃ目立つのに、白黒の髪にサングラス。服装のセンスまで普通じゃない。あんなのを着るのはランウェイを歩くモデルぐらいだろうと、あまりファッション事情を知らないトウマは思った。
     よく職質されないな、とトウマは近くに有る交番を見たけれど、どうしたことかユンユンのことに気付きもしなかった。あんなにコツコツ言わせているのにだ。もしかしたら、猫又の妖力とかそういうのが関係しているのかもしれない、とトウマは思いながら、物陰に隠れつつユンユンを追跡した。トウマのほうがよほど職質されそうだ。
     入ったことの無い路地を抜け、行ったことの無い橋を渡り。そうこうする内に帰る道もわからなくなった頃、ユンユンはとある通りへと入って行った。ネオンの輝く、夜尚眠らない街。ウブなトウマにだってそこがなんなのかぐらいわかる。歓楽街というやつだ。
    「ゆ、ユンユン~! まさかまだそういう商売を続けて……?」
     しかしトウマにはその街に関する知識があまりない。きっと良からぬ、そう、淫らな街なのだろうと恐る恐るその通りを覗き込んだ。夜なのにやけに明るいその通りには、まだ肌寒いにも関わらず露出の高い女性の姿や、スーツ姿の男性たちの姿が有る。立ち並ぶビルの入口には顔写真がたくさん貼られていて、どうしてそんなことをしているのだか、と想像してもトウマは良からぬことばかり考えてしまった。もし、そのうちの一人がユンユンだったら……。そう考えて、ブンブンと首を振る。
     そんな生活は止めさせなければいけない、欲しい物が有るなら買ってやれると思うし、いや流石にマンションや車は無理だけれど、『にゅ~る』ぐらいなら好きなだけ買ってあげられるのに。混乱してわけがわからなくなりつつ、トウマは通りをキョロキョロ見渡した。ユンユンの姿が無い。
     この店の何処かに消えたか、と考え途方に暮れる。何か手がかりが有るだろうか? いや、白黒のどでかい人がいないかと聞けばすぐわかるような気もする。トウマは意を決してその通りへと脚を踏み入れた。
     いやしかし、トウマはとても肩身が狭かった。そこにいる人たちはみな大声で話て笑ったり、体をくっつけたり、それなりにいい服も着ているようだ。トウマはと言えば、その辺に有ったくたくたのセーターと古びたジーンズを身に着け、年季の入ったスニーカーを履いているわけで、場違いにもほどがある。もしかしたらモテない童貞男が勇気を振り絞ってこの街に来たと思われていないだろうか、とオドオドしてしまった。
     逆にオドオドさえしていなければ、トウマはそれなりにいかつい顔立ちだったし、話しかけにくい空気も生まれただろう。そうした気弱そうな一面を的確に見抜いて、スーツ姿の男が2人近付いてトウマに話しかけてきた。
    「お兄さん、お店を探してるの?」
     チャラそうな男に声をかけられ、トウマは頭が真っ白になってしまった。お店を探すってなんだろう、そういうお店なのか……⁉ 純粋なトウマにはよくわからない。「いい子がいるよ。探してるお店があるなら案内するし」と笑顔を見せてくれるのは少し親切な人のような気もして、トウマは「ああああの」とどもりながら尋ねた。
    「白黒の、おかっぱの、すごい大きい男、見なかったですか」
     その言葉に男達は顔を見合わせて、それから笑顔で大きく頷いた。
    「それならうちにいるから、入ってよ。紹介してあげるから」
    「ほ、ホントですか、助かります……!」
    「ウンウン、お兄さんこういうお店初めて? 大丈夫、リラックスして、うちは初めての人にもサービスするから」
     トウマは気付いていなかったけれど、両脇を固められる勢いで二人の男に囲まれ、さあさあとビルの中へと促される。煌びやかな看板と、そこに並ぶ顔写真、そしてその奥の、エレベーターに続く妙に暗い通路。なにかそれが、地獄の入口のような雰囲気がして、トウマは思わず立ち止まろうとする。それをまた男達が進ませようとした。
    「アナタたち」
     その時、トウマは背後からむんずとセーターの首根っこを掴まれた。そのまま引っ張られて、うわわと声をあげ姿勢を崩すと、ボスンと誰かに背中からぶつかる。慌てて見上げると、ユンユンがそこにいた。
    「で、でけえ……」
     思わず3人共が口を揃えて呟いた。推定身長207センチメートル。どうしてそんな高身長で、更にヒールを履くのかわからない。どうして今までその姿に気付かなかったのだろうか、と思う程の存在感だ。トウマとの推定身長差は40センチ前後。親子、あるいは男女のような差だった。
    「謝謝、案内してくれて助かったアル。この子はワタクシの連れネ。他の子を勧誘するヨロシ」
    「あ、ちょ、ユンユン、あの、」
     ユンユンは問答無用でトウマを腕で抱き、そのままビルから踵を返した。抱かれながら引っ張られるように歩かされているものだから、足がもつれてしかたない。アワアワしながらユンユンに従っていると、彼は顔を寄せて囁いてきた。
    「あのお店、ぼったくりアル」
    「エッ」
    「口裏合わせて店に入れ、お水一杯5千円マイドアリネ。払えなかったらあんなことやこんなこと……」
    「えええ……」
     そんな悪い人には見えなかったけど……。トウマが困惑していると、ユンユンは彼を路地裏に連れ込んで、その壁に押し付けた。ヒッと見上げていると、彼は身をかがめて、顔を覗き込んできた。
    「こんなトコで何してるネ? ご主人サマ」
     そっと壁に手を置かれ、問われる。サングラス越しに青い瞳が射抜いてきた。これはアレだ、壁ドンというやつだ。トウマは縮こまっていたけれど、呑気に感動もしていた。壁ドンされた時ってこんな気持ちなんだ、創作の参考になる――。
    「コトと次第によっては、タダじゃすまさないアルヨ?」
    「ひぇっ、な、いや別にやましいことではなく!」
    「ワタクシ以外の『ネコ』ちゃんと遊ぼうとしたわけではないアルカ?」
    「えっ、猫? ここ、猫カフェとか有るのか?」
     そんな感じには見えないけど……。トウマが見当違いのことを考えているのがわかったらしい。ユンユンは「はあーー」と呆れたように深い溜息を吐いて、姿勢を戻した。
    「よく考えたら、ご主人サマはそういう感じのニンゲンじゃなかったアルネ……。もしかして、ワタクシを追ってきたアルカ?」
    「あ、ああ、そう、そうだ! まだいかがわしい風俗をしてるんだったら、止めなきゃと思って……」
     ユンユンはその言葉に一瞬きょとんとした顔をして、それからにっこりと微笑んだ。
    「ユンユンの心配してくれたアルカ? 優しいご主人サマ」
    「そ、そりゃ、だって。できたらそんなこと、してほしくないし……」
    「ワタクシが淫売のように思えるからアルカ?」
     淫売という言葉にトウマは眉を寄せた。そんな風に思っているわけではない、と思う。ただ、ただ。
    「な、なんていうか……人間の倫理観で言うと、その……いや、そうだな。俺が個人的に……ユンユンに、身体を売るような事、してほしくないから……」
    「フフ。大丈夫アルヨ。今はそういう仕事はしてないアル。ワタクシはこう見えて、一途な猫又ヨ?」
    「じゃ、じゃあ、どうしてこんなところに?」
    「ああ……これも何かの縁ネ、折角だから一緒に行くアルカ?」
    「ど、どこに……」
     ユンユンはサングラスの下で、それはそれは妖艶に微笑んで囁いた。
    「ご主人サマと遊ぶ『オモチャ』を買いに、アルヨ」
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    Medianox_moon

    MOURNING田中と宇津土とスキスギ君 っていうタイトルの、全くBLでもなんでもないコメディを書こうとしたものです。
    0 サラリーマンゾンビと神ベースとうっすい名刺 終わった。終わっちまった、何もかも。
     全てを失った……と言っても過言じゃない。俺はそう……一言で言って絶望に打ちひしがれ、孤独なサラリーマンゾンビのようにフラフラと歩いていたわけさ。
     街はすっかり日が暮れて、暗闇を街灯や店の照明が華やかに彩っている。道行く人は足早に駅へと向かう者と、逆にこれから夜を楽む者とでごった返していた。止まらない車の列は台風の日の河みたいに吸い込まれそう。そんな表通りは、サラリーマンゾンビと化した身には酷だ。
     そんなわけで、俺はその波から逃れるように、路地を曲がった。
     道が一本違うだけで随分静かになるもんだ。とはいっても、まだまだ繁華街の端。それなりに人は歩いていたし、暗い顔をして佇んでいる人影や、都会を生き抜く野良猫の姿も有る。通り一本挟んだ大通りの、人混みや車列がたてる音ははっきりと聞こえた。騒音だ。今の俺には、まごうことなき騒音。やけに大きく聞こえるから耳を塞ぎたくなったその時、俺の耳にボォン、と音が聞こえた。
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