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    Medianox_moon

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    Medianox_moon

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    ユンユンの正体が今明かされる!! っていう回です。

    ##ワタネコ
    ##ユントマ

    ワタクシが猫で、アナタがネコで 15「いや~、お見苦しいところをお見せしてしまったアルナァ~」
     お互いずぶ濡れで、ユンユンは子供のように泣きながら家まで帰り。一緒にシャワーを浴びて、髪を乾かし終わったら、ユンユンはいつも通りのケロリとした表情で笑った。
    「いや、切替早っ」
     トウマは驚いたものの、ユンユンの瞼は腫れているから噓泣きというわけでもないだろう。少し考えてから、トウマは恐る恐る切り出す。
    「あの……アレって、お墓?」
    「そうアルヨ~。もう200年ぐらい前のモノアルネ~」
     予想に反してユンユンはアッサリと答えてくれたから、拍子抜けしてしまった。
    「こ、答えてくれるんだな」
    「今更隠し立てしても仕方ないアルしなあ……」
     ユンユンは肩を竦めて、ベッドにどっかりと腰を下ろした。脚を組むと、それからポンポンと隣に座るように促してくる。トウマはいそいそと温かいお茶を2つ用意して、ユンユンのすぐそばに腰掛けた。お茶を渡すと、ユンユンはフーフーよく冷ましてから一口飲み、それから口を開く。
    「そうネ、昔話アルヨ。昔々あるところに、鬼の子と呼ばれるすんごいブッサイクな男が住んでいたアル」
    「いきなりめちゃめちゃにけなすじゃん……」
    「ぎっと睨みつけるような眼が村人を縮みあがらせる、村一番の大男アルね。オマケに髪の色は陽の光に焼けたみたいな灰色をしていたから、この世の者ではないと家族からも見放されたアル」
    「……ん?」
     トウマは首を傾げる。灰色、と聞いて遠くの鏡を見た。そこには三白眼に陽の光に焼けたようなグレイの髪の男が座っている。眉を寄せてユンユンを見ると、彼はいつものようにニッコリと微笑んでいた。
    「まあ、この男は当然のように心がすさんだアルね。みんながそう扱うならとばかりに、真人間にはならなかったノヨ。でも魂は綺麗だったアル。みんな気付いていないだけで、人のために色んな事をしていたネ。誰にも気付かれなかったケド。悪にも鬼にもなりきれない、かといって善人でもいられない、仕方のない男だったネ。
     だけど、男は特に動物には優しかったアル。ある新月の雨の晩には、茂みの中で震えていたブッサイクな子猫を拾って帰ったり。自分は貧しくても猫を養って飯を分けるような、そんな優しさもあったネ。でも誰も気付かなかった。人間はバカだからしかたないアルネ」
     トウマはぼんやりと、以前見た夢を思い出した。雨の中、子猫を拾った夢。そういえば、着物を着ていたし、周りの景色もどこか時代劇のようだった気がする。もしかして、アレはその、鬼と呼ばれた男の記憶なのだろうか。
     そういえば。今日の空はいつか見たことがあるような気がした。そして辿った道も。――恐らく、その男の墓の場所も。
     ユンユンは懐かしむように、しかしどこか悲しげな表情で眉を下げ、ゆっくりと続けた。
    「それはまるで今日みたいな、新月の、雨の降りしきる日だったアル。男は夕方までには帰ると猫を残して外出して……それきり帰らなかった。とある家で女が襲われているのを見つけ、がむしゃらに助けに入ったノヨ。犯人が刃物を取り出しても、ひるまず素手で立ち向かったアル。刺されても、犯人が逃げるまで戦い続けたネ。男の腹からは血がだくだく流れて、まあ、普通に考えて死にそうだったアル」
    「…………」
    「男が瀕死で転がっていると、人が駆け付けたアル。助けた女が、男に襲われたと嘘をついたネ。きっと本当のことを言って犯人に報復されるのが怖かったアル。だって犯人はこの村の地主のバカ息子だった。見た目もかっこよくて、そんなバカ息子を誰も訴えられなかったアル。男は立ち向かったから罰を受けることになったネ。みんなが口を揃えて、男をバカだ、やっぱり鬼だった、報いを受けたと罵ったアル。みんなが、男の死を祝福したノヨ」
    「そんな……」
     その男が何をしたというのだろう。昔の人達がどういう考えや風習で生きていたのかを考えると、仕方ないところもあるかもしれないけれど。だからといって、男の悲しみが当然のものと言い切れるだろうか。ただそのような見た目に生まれただけだというのに。
    「……男は深い悲しみと怒りとに身を焼かれる思いだったネ。『本物の鬼なら、どんなに良かっただろう、人のふりをして辛い暮らしをすることも無かった。こんな村なんて出て何処へでも行けたし、あんなろくでなしども、簡単に殺してやれたのに』……ってネ。でも、男が一番強く思ったのは、恨みじゃなかったアル。『ああ、あの猫はどうなるだろう、また野良に戻るのだろうか、かわいそうに』……死の淵にあって男は、愛する猫のことを考えたネ。バカな男アル。『自分の代わりに末永く幸せに生きて欲しい』と神だか仏だかに祈って死んでいったネ」
     溜息を吐いて、ユンユンは茶を啜る。トウマは色々なことを推測していたから、なかなか何と言っていいかわからなかった。ただ素直に思ったことを、ポツリと口にする。
    「……悲しい、話だな、それは」
    「そうネ! ひどく悲しい話アル。神様だか仏様だかが、またこの願いを聞き入れたのが最悪ネ。男の飼い猫は、知性と妖力を持った猫又になり、末永く生きる力を得てしまったモンだから、天に強く抗議したアル! 条件は『末永く幸せに』であって一人で生き続けることじゃない! ご主人サマがいないなら幸せじゃないアル! 契約不履行ネ! 裁判所に訴えるアル!」
    「その時代、裁判所に訴えるとか有ったのか?」
     トウマは怪訝な顔をして尋ねたけれど、「もののたとえネ」と一言で済まされた。ユンユンはここからが本題と言わんばかりに、大きな身振り手振りをしながら続けた。
    「猫の言葉に神様仏様は困ったアル。人間が死んでから輪廻転生するのにはざっと200年かかるらしいネ。猫は怒って大暴れ! 神様をぶん殴っても変えられなかった代わりに、生前の善行に報いなかった詫びとして来世はお金持ちの家でそれなりに皆に受け入れてもらえる人生を確約させたネ」
    「か、神様仏様になんてことしてんだ、その猫」
    「だって~、ヒトにとっての神様仏様とか~、猫には関係無いアルシ~? アイツ、顔がムカついたから思いっきり殴ってしまったアルヨ~」
     テヘペロ、と言いながら可愛らしく舌を出すユンユンに、トウマはまた眉を寄せた。
    「神様仏様もとんでもない猫に力与えちゃったなあ……」
    「まあー、でも男のブッサイクなところはちょっと治してもらえなかったアルネェ」
    「ちょっと待て、諸悪の根源がそこじゃなかったのかよ、今の話。なんでそこは放置したんだよ」
    「だって~、ブサイク同士が傷を舐め合って生きていたようなものアルシ? もし男がブッサイクじゃなかったら、ブッサイクな猫なんてまた愛してくれるかわからんカラ。神様仏様も、生まれ変わった男がお前を拾って愛してくれるかまでは保証しかねる、なんて無責任なことヌかしたネ。ソコはワタクシの手練手管でなんとかすることにして、男が転生してくるまで末永く待ったアル。まあ、それまで暇だったからヒトのあらゆる欲望に触れたら、前立腺開発もお手の物になったアルナ~」
    「なんかもうツッコむのめんどくさくなってきたな……」
     トウマが苦笑していると、ユンユンは目をキラキラさせて、顔を覗き込んでくる。
    「そういうことで……わかったアルな?」
    「何がだよ、いや、わかるけど、いや、そんな出来過ぎた作り話、」
    「幻想小説でも書かない、アルか? 事実は小説よりも奇というものネ、『時次』……」
     その名を呼ばれて、トウマは目を丸くした。そうだ、どうしてペンネームを『時次』にしたのだろう。大した理由は無かった気がする。何かそれがしっくりくると思ってそうしたのだけれど。
     それが、ユンユンの最初の飼い主の――墓の主であり、男の、そして、トウマの前世の名、なのだろうか。
    「ワタクシ、ずっとずうっとアナタにもう一度撫でてもらう日を、待っていたネ……」
    「……ユンユン……」
     だとしたら、感動的な話だ。200年飼い主を待っていた飼い猫が、喜びのあまり前立腺を開発するところは少しアレだけれど。それはずっと独りで辛かったろうなあ、と共感し、少し泣きそうになったところで気付いた。
    「……え? いや待てよ、そんな昔からお前の名前、ユンユンだったか? 絶対違うだろ!」
     200年前というと、確か江戸時代辺りのはずだ。そんな時期に、飼い猫にパンダみたいな名前を付けるやつがいるか? トウマは疑いの目を向けたけれど、ユンユンはけろりとして答えた。
    「勿論違うネ。ただ長い猫生、色んな名前を使ってきたから、昔の名前なんて忘れたアル。そんなことより、またこうして『時次』に愛してもらえてワタクシ、本当に幸せネ……」
     彼は、うっとりとした様子で――本当に、心から幸せそうに語る。その姿に嘘は無い気がして、トウマは考えた。自分の名前さえ忘れるような長い時間人に紛れて生活し、それでも飼い主の墓も、名前も憶えたまま、ただ一途に再会を待っていたというユンユンのこれまでを。
     どんなに寂しかっただろう。どれほどその日を待ち焦がれただろう。それなのに自分は何も覚えていないことが申し訳ない気持ちでいっぱいになった。何も知らずに軽率な行動を繰り返していたのだから、ユンユンが怒ってもしかたのないことだ。ソウジの時のこともきっとそう、彼は『時次』が死んだ理由を思い出していたのかもしれない。人の為に自分を犠牲にしてしまった、優しくて愚かな男のことを……。
    「……ユンユン、ごめんな。ずっと待たせて……。お前の気も知らないで、心配ばっかりかけて。でも……これからはずっと一緒だ。大丈夫。そばにいるし、その……お前が神様仏様に無茶言ったおかげで、今は俺も幸せだから。だから……」
     今度こそ、一緒に幸せに暮らせるな。
     そう言うと、ユンユンは少しの間目を丸くして、それから破顔して頬を染めた。そのような表情を見るのは、初めてだった。
    「ご、ご主人サマ、そんな……ユンユンはただ、私利私欲の為に動いていただけアルヨ。急にプロポーズされたら、ワタクシ、恥ずかしくなっちゃうアル……」
    「……ん? プロポーズ?」
     モジモジしているユンユンが言わんとしていることが理解できない。首を傾げていると、ユンユンが手をもじもじさせながら言った。
    「あのね、ご主人サマ。ワタクシ、200年もヒトに化けて暮らしてきたアル」
    「うん」
    「すっかりヒトの文化にも慣れて、だけどずっとずっとアナタだけを想い続けてきたアル、ワカルネ?」
    「ん? ……うん」
    「だからもう、……ワタクシにとって、ご主人サマは、飼い主であると同時に……生殖の対象なのアル……」
    「……えっ」
     その言葉には焦った。つまり、どういうことだ。頬を染めているユンユンを見ていれば、自然とわかってきてしまっているけれど。つまり、つまり。
    「だから前立腺を握ってワタクシ無しじゃ生きていけない身体にしてからカミングアウトしようと思ったんアルケド……」
    「ゆ、ユンユン、あまりにも外道なこと言ってんの、わかってる……⁈」
     えっ、つまり? 自分が前立腺開発をされていたのは、恩返しでもなんでもなく……ユンユンの性欲を満たして、あわよくば番になる為……?
     トウマは何故だか頬が熱くなるのを感じた。自分ばかりが鳴かされていたと思っていたが、本当はユンユンもそれを望んでいたというのだろうか。そう考えると、なんだかムズムズする。そういうところが、もう既にトウマは絆されているのだった。
    「何を言うネ! ワタクシはアナタの幸せを一途に願う素晴らしい猫ちゃんヨ? 今度こそアナタを理不尽な目に合わせない為なら、何だってするだけネ。誓ってどっぷり幸せにして差し上げるアル。そしてワタクシのことも、ずっぷり幸せにしてくださいませネ!」
    「ぎ、擬音がおかしい……」
    「それともご主人サマ……ワタクシでは嫌、アルカ……?」
     一転、不安そうな表情を浮かべたユンユンに、トウマも困ってしまう。
     嫌、だとは思わない。むしろ、嬉しいような気もする。ただ、ちょっと情報量が多すぎるのだ。少し答えは待って欲しい、と素直に告げると、ユンユンは「今更少しぐらい待つ時間が増えてもそうは変わらないアル」と快諾してくれて、余計に申し訳なくなった。
    「ね、ご主人サマ。そんなことより」
    「な、何、まだ他にも……」
    「セックス、しましょう」
    「セ、セックス⁉」
     ついぞユンユンから聞いたことの無い単語が飛び出して、トウマは耳まで赤くした。その反応が答えのようなものだった。ユンユンはニッコリと、いつもの妖艶な微笑みを浮かべて顔を寄せる。
    「ワタクシと番になるかどうかは、後で決めていいアル。でも、ワタクシはアナタが今、愛しくてたまらないノヨ。どうか、アナタを愛させて、『トウマ』」
    「……っ」
     名前を呼ばれて、トウマは胸が熱くなるのを感じた。ユンユンはそれがわかっているのか、するりと頬を指でなぞる。
    「ワタクシ、絶対にアナタを幸せにすると誓うアル。別にアナタが他のヒトを愛したってそれは同じヨ。一途な猫に、一晩の夢だけでも見せてくれないアルカ?」
    「ゆ、ユンユン、」
    「それに――」
     ユンユンは目を細めて、トウマの腹部を、トン、と指で押さえた。
    「アナタだって、そろそろ欲しいでしょう? ホンモノの、雄が……」
     その言葉に腰の奥がきゅんと疼く。もうトウマの答えなんて、とっくに決まっているようなもので、彼は顔を真っ赤にしたまま、俯いたのだった。
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    Medianox_moon

    MOURNING田中と宇津土とスキスギ君 っていうタイトルの、全くBLでもなんでもないコメディを書こうとしたものです。
    0 サラリーマンゾンビと神ベースとうっすい名刺 終わった。終わっちまった、何もかも。
     全てを失った……と言っても過言じゃない。俺はそう……一言で言って絶望に打ちひしがれ、孤独なサラリーマンゾンビのようにフラフラと歩いていたわけさ。
     街はすっかり日が暮れて、暗闇を街灯や店の照明が華やかに彩っている。道行く人は足早に駅へと向かう者と、逆にこれから夜を楽む者とでごった返していた。止まらない車の列は台風の日の河みたいに吸い込まれそう。そんな表通りは、サラリーマンゾンビと化した身には酷だ。
     そんなわけで、俺はその波から逃れるように、路地を曲がった。
     道が一本違うだけで随分静かになるもんだ。とはいっても、まだまだ繁華街の端。それなりに人は歩いていたし、暗い顔をして佇んでいる人影や、都会を生き抜く野良猫の姿も有る。通り一本挟んだ大通りの、人混みや車列がたてる音ははっきりと聞こえた。騒音だ。今の俺には、まごうことなき騒音。やけに大きく聞こえるから耳を塞ぎたくなったその時、俺の耳にボォン、と音が聞こえた。
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