「遠慮せずどーぞ」
今、俺の目の前には、いわゆる据え膳と言うやつが用意されていた。ブラウスのボタンが外れ、顕になった薄いキャミソールとその奥に隠れているレースの下着。それに包まれた豊満なバストはむっちりと締められて大きな谷間を描いていた。
「本当に、いいのか?」
「いいと言うか、いい加減慣れたし、慣れてくれ」
こんな状況でありながらじとりとした目で色気もなく睨んでくるウィルに苦笑いしか出ない。それもそのはず。ウィルがこうなってしまったのは俺のせいだからだ。
紆余曲折の末、俺とウィルは恋人同士となった。お互いに初めての恋人、それもお世辞にも仲が良かったとは言えない相手。まんじりと、俺たちは仲を深めていったのだ。そしてあの晩、俺たちは体を繋げるはずだった。そう、はずだったのだ。
俺は女性が苦手だった。それは親しい人間ならだいたい知っている。それゆえか、そういうものに興味を持つだろう年頃の弟分たちも、俺の前でそれを話題にすることはなかった。当然、苦手ゆえに自分から手を出すはずもない。要するにだ、俺は、女体と性に対する知識も心構えも足りていなかったのだ。
忘れもしない、あの晩、俺はウィルの下着姿を前にして、鼻血をだらりと垂れ流したのだ。興奮からだったのか、緊張ゆえなのか、今となっては分からない。だが、それだけならば良かった。あろうことか、それでパニックになった俺はなんと、誤射をした。鼻血のついでに。
未だに思い出すとう゛っとなる。深い心の傷だ。ちょっとしたトラウマになっているせいか、それ以降何度やっても上手くいかない。
「焦る必要は無いから、とりあえず私に慣れてくれ」
そう言って体を差し出してくれる彼女の、なんと健気なことか。マジで情けなくて泣きたくなる。
また一人で落ち込み項垂れていると、そっと頭が柔らかく肉質なものに包まれた。
「落ち込むのはいいけど、どうせならこっち」
自分が何をされているのかわかった途端、ぶわりと顔に熱が上る。それは下半身にも言えることだが、もっと明確に、血がどこへ向かっているかが嫌でもわかった。
「ウィル! ティッシュ!!」
「もうか!?」
ガスト・アドラーの鼻粘膜は今日も敗北したのだった。