とまどい「さわるな」
怒りの声だった。眉間に深い皺が寄っていて、まるで眼鏡を掛けて居ない時の眼差しのようだけど、違う。
「……悪ぃ」
「……」
何だか珍しく戸惑っているように見える。視線が下を向いてる。何だろう、まだ普通に注射でも打たれた方がマシに思えてきた。地味にショックだ。
「……あんたが大事そうにしてっから、気になったんだ。その……もう、二度と触らねぇよ」
女がいつも抱えている、白くて大きな犬のぬいぐるみ。抱えてなくても椅子に座らせて横に置いてある。古そうだが、洗っているのかまだまだ綺麗で。
よっぽど思い入れがあるんだなって思ったら、触っていた。
「……私こそ、悪かった。君に悪意がないのは分かってるんだ」
「誰だって触らせたくない物の一つや二つ有る。あんたは悪くねぇ」
例えば、俺にとってのあんただ。
他の男があんたに触れる様を想像すると爪が疼くし、浮かない顔したあんたを誰にも見せたくない。
……俺、あの犬に嫉妬してんのかな?