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    Satsuki

    短い話を書きます。
    @Satsuki_MDG

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    POIPOI 163

    Satsuki

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    レトユリレト支援C妄想。去年の九月ごろからぼんやり練ってた話をようやく形にしました。捏造しかない。支援Cなのでカプ要素もないです。ポイピクだと文字制限にひっかかったようなので二つに分けます。

    #レトユリレト
    letoYuri-leto.

    「あんたはここで待っていてくれ」
     トン、と指先で胸を叩かれて、ベレトは立ち止まった。ユーリスは射るような眼差しでベレトを一瞬貫くと、数人の部下たちに短く指示を残して扉の向こうへ消えて行く。きっと気付いたはずだ。ベレトの、『いいや、中まで一緒に行こう』と言いたげな視線には。しかし敢えて目を逸らし、口を開く隙さえ与えず、彼はローブを翻すと独りきりで行ってしまった。
    (見たことのない顔をしていた……)
     あの眼光。殺気。威圧感。あれが、賊の頭領としての彼なのか。
    ベレトは置いて行かれた場所で周囲を窺った。ユーリスを案内していった男は一人。入って行った部屋の中にはユーリス以外に三人以上の気配がある。そのうちの一つが、恐らくは『蠍の刺青』の頭なのだろう。
     深夜、士官学校を抜け出そうとしていた彼に声をかけることができて本当に良かった。ベレトは強引にここまでついて来たことを全く後悔していなかった。そこは、ガルグ=マクからほど近い街の宿場だ。人々で慎ましく賑わう市場から離れ、ひっそりとした路地裏を通らなければ辿りつけないそこは、裏口を抜けて壁を越えれば人目につかぬよう森に入ることができる。大方、このあたりの路地に都合の良い出入り口でもあるのだろう。ベレトは先ほどから投げかけられている粘ついた視線を振り払うように振り返ると、室内をぐるりと見渡した。暗い酒場のいくつかの席で、男たちが寛いでいる。ベレトや残された面々をにやにやと眺めながら酒を飲んだり、ナイフをいじくり回したり、これ見よがしに武器の手入れをして見せたりして、こちらに圧力をかけているつもりらしい。
    (懐かしいな)
     独特の空気は、ベレトをまるで故郷にでも帰ってきたかのような気持ちにさせた。子供の頃から、ジェラルトが雇い主と交渉をしている間、よくこんな場所で待たされたものだ。大人用の巨大なジョッキで水を飲み、んなもん役に立たねえぞと揶揄われながら読み書きの練習をした。吟遊詩人の歌を聴き、汚れたテーブルで硬い肉と味気ない野菜を齧り、帰ってきたジェラルトが大きな手でぽんとベレトの頭を撫でて、『悪ぃ、長引いた』なんて言うのを、ずっと待っていた。成長してからは町をぶらついたり、外で剣を振るっていたり、部屋で休んでいることの方が多くなったが、それでもこんな酒場はベレトには馴染み深い。それは一緒に待たされているユーリスの仲間にも同じことが言えるようだ。彼らはすぐ近くのテーブルに陣取ると、自分たちに向けられているピリピリとした視線をものともせず、逆に牽制するような空気を纏いさえして好戦的な視線を返している。頼もしい連中だ。しかし、彼らはベレトに対しても同様に壁を作っている。当然だろう。突然親分にくっついて現れた、得体のしれない『担任教師』とやらをどう扱って良いものか、まだ心中で考えあぐねている最中に違いないのだから。ベレトはユーリスが消えて行った扉のすぐ隣の壁に背中を凭れて腕を組むと、周囲に気を配りながら、微かに漏れ聞こえる声に耳を澄ませた。





    「……というわけだ。俺から盗んで行ったモンと、あいつ自身をこちらに引き渡してくれさえすりゃあ、俺はそれでいい」
    「そう言われてもなあ……『燕』よ」
     大蠍の刺青を胸元に見せびらかしながら、男はユーリスの顔をニヤリと見下した。ゆったりと椅子に腰かけて、行儀悪くテーブルの上に足を乗せた男は、掌で大きな宝石を転がしている。いけすかねえ野郎だ。ユーリスは心の中で大きな舌打ちをした。本人とこんな風に顔を合わせるのは初めてだったが、ユーリスの率いる一団とこの『蠍』たちとは、昔から相性が良くなかった。とはいえ盗賊同士。相性も何もありはしないが、ユーリスの掲げる理想や仁義と、『蠍』のやり方とは、全く向いている方向が違う。例えば、『蠍』は女子どもを使い捨てにする。娼婦たちから金を巻き上げ、子どもに盗みを働かせる。危険な取引も平気でやらせる。商人の馬車を襲って、荷物ばかりでなく命さえも容赦なく奪ってしまう。自分の家族や、自分を慕う者たちの生活を楽にするため、ある場所から無い場所へ少し物を移動させるだけで良い。そう考えるユーリスからすれば許しがたい行為だ。そうは言っても、もちろんユーリスも自分の利益を一番に考えて行動している。勝算がなければ手を出さないし、自分についてくる者には厳しいルールを守らせる。それは全て自分の身と仲間を守るためのことだ。今更綺麗ごとを言うつもりはない。
    ただ、日陰を歩く者同士、その道の筋というものは通させて貰いたい。と、ユーリスの言い分はそれだけだ。例え、血が流されることになろうともそれだけは譲れない。ルールを破ったものには制裁が待っていて然るべきだ。
    「手前のやり方が甘えから、奴さんは俺んとこに転がり込んできたわけだろ? 寛大な俺はそれを受け入れてやった、それだけさ」
    「……あいつは俺を裏切ってあんたに擦り寄った。放ってはおけねえよ」
    「殺すのか」
     大蠍はにやにや笑った。
    「さてね。どうしようが、関係ないだろう」
    「いいや、そうもいかんさ。一度懐に入れてやった命だ。俺ぁこう見えて優しいんだぜ?」
     ゴツン、と宝石をテーブルに置くと、蠍は身を乗り出した。テーブル越しに与えられる圧迫感。ユーリスはまだ少年らしく細い肩を怒らせてキッと睨み返す。
    「ま、お前が何を対価にあいつと盗品を返せって言うのかによるよなあ……貴族連中相手に、どんな商売してるか知ってるぜ」
    交渉しようじゃねえか。部屋にいる『蠍』の手下たちが微かに声を立てて笑った。
    「『燕』の連中が堂々と商品を帝国に運び込んでるカラクリ……ありゃ、正規の通行手形を持ってるからだよなあ……? さて、『燕』がそれをどんな手練手管で手に入れたもんなのか、見せてもらおうじゃねえか」
    大蠍は酒を一口含むと、立たせたままのユーリスを上から下までねちっこく視姦し始めた。ローブの下の体の線、蝋燭の灯りに照らされる艶やかな髪。アイシャドウの引かれた目元と赤っぽいルージュ。頭の中で燕を撃ち落とし、己の体に組み敷く妄想を繰り広げているに違いない。
    ユーリスはフ、と口元を歪めた。笑えるね。そんなことで俺様を揺さぶれると思ったかよ……。一瞬目を伏せ、ユーリスは蠱惑的に笑うと、ローブの紐をこれ見よがしに外した。しゅるり、下から現れた仕事用の『燕』の装いは、一切の肌の露出がない。その方が相手の想像を掻き立てるからだ。ユーリスはローブを床に落とすと、手袋を外しにかかる。
    「いいねえ、『燕』!! よし、ここに来て、手始めに俺様のをしゃぶってみろ!!」
     勝ち誇ったようにゲラゲラと笑い、大蠍は派手な音を立ててテーブルを脇へと薙ぎ払った。
    ガタァン!
    そうして大股を広げユーリスを誘う。部屋の空気は一瞬にしてどろどろとした欲望に支配され、ユーリスはじわりと背筋に汗が滲むのを感じた。
    「オラ、早くし、ろ……?」
     その時だった。
    ゾクッ……と、その部屋にいた者全員の体に悪寒が走ったのだ。
    (えっ……?)
     ユーリスは、ぶわっと背後から温かな風が吹きつけたような気がした。振り返るよりも先に、部屋にいた『蠍』どもの表情が凍り付く。部屋の空気がズン、と重くなったようだった。そして皆一様にじんわりと額に汗を滲ませて、ユーリスの後ろを睨みつけている。
    (なんだ? この……威圧感? 殺気か……?)
    肩越しに後ろを見ても、そこには自分が入室したときにくぐった扉があるだけだ。その外には、仲間がいるはずだ。ユーリスは平静を装って佇まいを直す。そうでもしなければ、この得体のしれない空気に飲まれて指先が震えだしそうだった。
    「……『燕』よ……お前、何を連れてきやがったんだ……?」
     大蠍は隠し扉から慌てたように現れた自分の手下から耳打ちを受け、ユーリスをじろりと睨めつけた。ひそひそと部屋の隅で、手下同士が話している声が聞こえてくる。耳に入った、灰色の悪魔……という一言に、ユーリスの唇が弧を描いた。
    (なるほどな、先生)
     深緑の髪が目の前に一瞬浮かび、呼吸がしやすくなる。コホン、外にも聞こえるように一つ咳ばらいをすると、ユーリスは今度こそ懐から一枚の巻き紙を取り出した。
    「どうやら仲間が失礼したようだな。なんせ、俺でも宥めるのに苦労するんだ。」
    「フン……」
     渡された紙に書きつけられた文字に目を走らせ、大蠍は再び顔色を変えた。
    「こいつは……」
    「……おたくが扱ってるキュスの粉……通称、『女神の涙』」
     ユーリスはゆっくりとその名を口にした。女神、なんて御大層な名前がつけられているその商品は、名前とは裏腹に悪魔のような代物だ。温暖な山間部に自生しているキュスは、青くて小さな花をつける可憐な植物。その根は地中に長く伸び、ところどころに瘤をつけている。その瘤を擦り潰して、汁を乾燥させてできる粉には、あらゆる痛みを消す効果があるとされていた。しかし、セイロス教はその使用を一切禁じている。過去、戦争のたびにその粉は痛み止めとして兵士たちに使われてきた。そしてその恐ろしい副作用と中毒性によって、何人もの犠牲者を出してきたのだ。一度キュスを使った者は口を揃えてこう語るという。『あれがなくてはもう生きていけない』『ほんの少し使っただけで、酒に酔ったときみたいに気分がよくなるんだ』『はやくキュスをくれ、ああ、苦しい。耳元で誰かがずっと喋っている……』幻覚、幻聴、食欲の減退……気が狂ったようになって、川に飛び込む者もいるらしい。何年も前から、それこそユーリスが生を受ける前から禁じられている薬だが、人々の中には『少量であれば問題ない』と、遊びで手を出す者もいる。貴族の間でもひそかに流通している『女神の涙』。その秘密の入手経路には、この『蠍』の影があった。
    「それは、教団が『女神の涙』を扱う連中をマークしている場所のリストだ。全部あんたの組織の関係だろ?」
    「…………」
     大蠍は黙ってリストに目を通すと、どっかりと椅子に腰かけなおした。
    「恐らく今節の終わりか来節はじめ頃……教団は一斉に動くだろう」
    「……チッ……なるほどな」
    「ちなみにそのリストは半分だ。残りの半分は……分かるだろ?」
     ユーリスが小首を傾げて見せると、大蠍は低い唸り声を上げた。だが、そんな犬コロのような威嚇はユーリスに響かない。何せ、背後に彼がいてくれるのだから。ユーリスは足元のローブを拾い上げ、紅を引いた唇をにっこりと笑みの形に歪めた。





     ユーリスが幾つかの革袋と包みを手に部屋を出ると、近くのテーブルに着いていた部下たちはすぐに立ち上がった。
    「お頭……!」
    「おー、お前ら無事だったか」
     荷物を渡してやりながら確認すると、『燕』の部下たちはなんだか落ち着かな気な顔をしている。無理もなかろう。ユーリスはふと振り返り、扉の隣にずっと立っていたらしい担任教師を見た。相変わらず涼しそうな顔で、ユーリスが出て来た扉の方を警戒している。
    「……出るぞ。話は終わりだ」
     クイ、と顎をしゃくってみせると、ベレトは無言で頷いた。ローブの紐を結び直し、ユーリスは足早に店を出る。背中に突き刺さるような無数のごろつき連中の視線が重い扉に遮られ、ガルグ=マクへ向かう道を暫く歩いた頃にやっと大きく息を吐いた。ぐっと腕を伸ばし、ポキポキと肩を鳴らす。
    「はあああ、つっかれた……」
    「お疲れ様です、お頭……」
    「おう。三日後に奴の引き渡しがある。今日と同じ時刻に同じ場所で集合だ」
    「承知しました」
     数人の部下たちは夜の闇に紛れるようにしてユーリスを囲み、守る。ベレトはその一部にうまく溶け込むよう努め、ユーリスのローブに隠された後頭部を見つめた。無事でよかった。言葉にこそ出さないが、教師として心の底からほっとしていた。抗争、なんて物騒なワードが飛び出してはいたが、なんとか穏便に話がついたようで本当によかった。物音がしたときは飛び込むべきか迷ったが、部下たちが動かないのを見て思い止まった。
    (彼らはユーリスを信頼している……そして、ユーリスも同じように、彼らを)
     ベレトは、出かける前にユーリスから言われた言葉を思い出す。
    『俺はあんたを信用してる。だが信頼していいのかは、まだ分からねえ』
    『部下に何かしたら、その場で喉を捌く。礼を欠いて悪いが、そのつもりで頼む』
     普段、士官学校やアビスで見る彼とは全く別の顔をしていた。今もそうだ。部下に向ける顔と、ベレトに向ける顔は違う。できれば教師として信頼してほしい。そして、部下たちを見ている時のような、そんな表情を自分にも見せてくれたらいいなと思う。
    (おぬし、この童に何か期待をかけておるのか?)
     突然の声に、ベレトはピクッと肩を震わせた。ソティスだ。期待、していろのだろうか? 彼の成長に。未来に。可能性に。分からない、と答えようとしたとき、くるりとユーリスが振り返った。
    「おい、先生」
     ずい、と闇の中で迫られて、部下たちの暗いランタンが遠ざかる。後ずさった背が木に当たり、ベレトはあっという間に逃げ場を失くした。
    「なんだ?」
    「さっきの、ありゃ何のつもりだ?」
    「何、とは……」
     じろり。ユーリスの目つきが鋭くなる。とぼけるのは得策ではなさそうだ。ベレトは仕方なく息を吐いた。
    「物音がしたので、きみが危険かと思った」
    「それだけであの殺気が出せるもんか? ……さすが『灰色の悪魔』だな」
     ユーリスの刺々しい言葉が、ベレトの胸にちくりと刺さる。その異名は好きではない。かといって嫌っているわけでもない。だが、今ユーリスがベレトをベレトとしてではなく、『灰色の悪魔』として見ていると思うと、何故だか胸が痛んだ。
    「結果的には救われたが、一歩間違えりゃ取引がおじゃんになるところだ」
    「すまなかった……」
    「まあいいけど、よ……!?」
    (ベレト!)
     ソティスの声が頭の中に凛と響くのと、ベレトが突然ユーリスを己の胸に抱き寄せたのはほとんど同時だった。
    「……!?」
     随分と強引な抱擁だった。ベレトの胸に顔をぶつける形になったユーリスは、突然のことにバランスを崩してベレトにしがみつく。頭を掻き抱かれ、ベレトの匂いに包まれる。カッと頬に血が昇った。同時に失望した。なんだ、結局狙いは俺だったのかよ。本当に自分を心配して守ろうとしてくれる教師が、……そんな大人が現れてくれたのかと思っちまった……ユーリスはベレトの服をぎゅっと掴み、文句を言うために顔を上げようとした。
    「お頭あぶねえ!!」
    (!!)
     部下たちの声。ユーリスはベレトに抱かれたまま横ざまに転がり、街道から外れた木々の間に飛び込んだ。ドッ、ドスッ! 音がして、地面に矢が突き刺さる。複数の気配がいつの間にかユーリスたちを取り囲んでいた。
    「狙われている、明かりを消して身を隠せ!」
     ベレトの鋭い指示に、部下たちはランタンを地面に叩きつけて散開した。
    「まずいぞ、分断されたな……」
    「クソッ……蠍か……!!」
     街から離れた寂しい街道だ。なるほど襲撃するならユーリスでもここを選ぶだろう。木々や岩に隠れて影から狙い撃ちできるし、森に連れ込むこともできる。ベレトの体を押し退けて、ユーリスは木に背中をつけると声を張り上げた。
    「お前ら、無事か!」
    「平気です!」
    「誰もやられてません!!」
     部下たちの返事にほっと胸を撫でおろす。すらりと剣を抜き、ユーリスは闇に目を凝らす。五人……十人……それより多いかもしれない。獣の息遣いが聴こえるのは、奴らの飼い犬か、それとも奴ら自身か。
    「ユーリス、俺は後ろの二人をやる。きみは仲間と合流しろ」
    「あっ、ちょ先生……!」
     引き留める間もなく、ベレトは足音を殺して闇に消えた。チッと舌打ちを一つ。抱き寄せられた、と勘違いした自分にも、敵の気配に気付けなかったことにも腹が立った。だが今はそんなことを考えている場合じゃない。
    (奴らだって、暗闇で物が見えるわけじゃねえ……必ず月明かりの下に出て来るはずだ)
     足元の石を掴み、遠くの茂みに投げ込む。ガサッ、と音が立った方へまた矢が飛んだ。
    (そっちか!!)
     背後から剣戟が聴こえる。ユーリスは闇に乗じて、身を低くすると、狙撃手を探して狼のように走り出した。
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    Satsuki

    DOODLE「あんまり見てると金取るぜ?」のセリフ、私も大好きです!!と言いたかっただけの文章。多少メタい。レトユリレト。
    「あんまり見てんなよ、先生。あんた相手でもそろそろ金取るぜ」
     ユーリスの挑発的な言葉に、ベレトはピクッと体を揺らして驚きを表現した。表情が全く変わらないので、一部の生徒達から気味が悪いと遠巻きにされていることを気にしているのだろう。釣り針に魚がかかっても、同じように表情を変えずちょっとだけピクッと体を揺らした後に何食わぬ顔で釣り上げていることをユーリスは知っている。そして、釣り上げた後はすこし満足そうに見える顔をしていることも。
    「金か……」
     困ったように呟いて、ベレトはごそごそとポケットを探り始めた。いや半分冗談だったんだが……ユーリスは腕を組み、ひとまずベレトがどうする気なのか観察することにした。毎節の課題を手伝う代わりに授業を受けさせてもらっている身とはいえ、舐められるわけにはいかない。取れるものは取っておいてもいいし、受け取らずに何が交換条件を飲ませてもいい。例えば、次回の個別指導でのメニューをこちらから指定するとか、アビスに住む子供達に灰狼学級を開放して、簡単な計算や読み書きの授業をさせる、とか。
    1780

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