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    Satsuki

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    Satsuki

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    〇「あんまり見てると金取るぜ?」のセリフ、私も大好きです!!と言いたかっただけの文章。多少メタい。レトユリレト。

    #レトユリレト
    letoYuri-leto.

    きみを見つめる対価なら「あんまり見てんなよ、先生。あんた相手でもそろそろ金取るぜ」
     ユーリスの挑発的な言葉に、ベレトはピクッと体を揺らして驚きを表現した。表情が全く変わらないので、一部の生徒達から気味が悪いと遠巻きにされていることを気にしているのだろう。釣り針に魚がかかっても、同じように表情を変えずちょっとだけピクッと体を揺らした後に何食わぬ顔で釣り上げていることをユーリスは知っている。そして、釣り上げた後はすこし満足そうに見える顔をしていることも。
    「金か……」
     困ったように呟いて、ベレトはごそごそとポケットを探り始めた。いや半分冗談だったんだが……ユーリスは腕を組み、ひとまずベレトがどうする気なのか観察することにした。毎節の課題を手伝う代わりに授業を受けさせてもらっている身とはいえ、舐められるわけにはいかない。取れるものは取っておいてもいいし、受け取らずに何が交換条件を飲ませてもいい。例えば、次回の個別指導でのメニューをこちらから指定するとか、アビスに住む子供達に灰狼学級を開放して、簡単な計算や読み書きの授業をさせる、とか。
    (そもそもこいつ、いくらくらい持ってんだ? 元傭兵だし、払う気があるなら意外と貯め込んでんのかな)
     ユーリスはじっとベレトの様子を見つめる。当のベレトはというと、懐を探って落とし物の茶葉の小袋を取り出してみたり、ポケットに手を入れて何かのタネを見つけたりしてから、やっとベルトに下げている小さなポーチに手を入れた。
    「……すまない、今節はあとこれだけしかない」
     おずおずとユーリスの前に差し出された手に乗っていたのは、たったの130Gだった。
    「は? ……今節は、って、まだ初旬だぜ?」
    「前回の課題出撃で武器がたくさん壊れたのを直して補充もしたし、騎士団から人員も……」
    (そういう、学級に必要なもんって、担任が買うもんなのか……)
     そんな残りカスみたいなはした金をもらっても、自分の価値が下がるだけだ。ユーリスは生真面目なのか天然なのかわからないが、ユーリスから微妙に目線をずらして、彼を見ないようにしている担任教師に金を仕舞わせる。もしかしたらジェラルト殿の管理が厳しいのだろうか……
    「あー、金払えってのは冗談だから見ていいけどよ……」
    「ああ、でもさっき、きみにと思ってこれを買ったんだった」
    「えっ?」
     すっと差し出されたのは、新品の盤上遊戯だった。これを俺に? ユーリスが躊躇っていると、ベレトはぐいとすこし強引にも思える仕草でそれを押し付けてくる。プレゼント、というにはあまりに急だし、こんな娯楽品、残り130Gしか持っていない人間の買うようなものではない。
     つまりベレトは、ユーリスの気を引きたいがためにこれを購入したのだろう。ユーリスはその下心を鼻で笑った。
    「はっ……なるほどなあ、これを俺にね……何考えてんだかなあ? あんたも、結局さあ、……」
    「それで、アビスの子供達と遊んでやってくれ。きみが忙しければ、子供達にあげてしまえばいい……」
    「……へ?」
    「……やはり、金の方が入り用か?」
     ユーリスの反応にベレトは心なしか眉を下げ、持ち物の中に換金できるものが残っていたか考え始めた。
    「すまない、きみがいつもアビスのために奔走しているのを見て、自分も何か手を貸せたらと思ったんだが、……」
     今日だけで何度も頭を抱えさせれば気が済むのだろうか、この教師は。ユーリスはとことん彼のペースを乱してくるベレトに、片手で盤上遊戯を持ったまま溜息を吐く。
    「いいや、嬉しいよ先生。ありがとな。……でも一応俺がもらったもんだし、最初に一度くらい対戦してえな……あんたと」
    「……! では、この後お茶でもどうだ?」
    「そうこなくっちゃ! 負けねえぞ」
    「だけど、俺はルールをひとつしか知らないんだ……片方が山賊になる、……」
    「ははっ、あんたらしいな」
     貴族連中が楽しむお綺麗なルールではなく、庶民や傭兵向けのちょっと下劣で野蛮な方を知っているところが気に入った。ユーリスはベレトと並んで歩き出しながら、その青い瞳が自分を見ていることに安堵する。表情のほとんど動かないベレトだが、その目はどこまでも優しくユーリスを見つめている。その安堵と優しさが別の感情をはらむようになるには、まだ時間がかかるようだった。
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    「金か……」
     困ったように呟いて、ベレトはごそごそとポケットを探り始めた。いや半分冗談だったんだが……ユーリスは腕を組み、ひとまずベレトがどうする気なのか観察することにした。毎節の課題を手伝う代わりに授業を受けさせてもらっている身とはいえ、舐められるわけにはいかない。取れるものは取っておいてもいいし、受け取らずに何が交換条件を飲ませてもいい。例えば、次回の個別指導でのメニューをこちらから指定するとか、アビスに住む子供達に灰狼学級を開放して、簡単な計算や読み書きの授業をさせる、とか。
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    DOODLE猫フェリクスは可愛いというだけの話。捕虜設定はざじさん(@zazi_333)の素敵な捕虜フェリ創作からお借りしております。そろそろお借りしすぎなので自重します。
    フェリクスは猫だった。耳から尻尾にかけては月夜の森の中のような柔らかい黒色で、喉やふわふわの腹側は雪のように真っ白い猫だった。いつだっていかにも猫らしくぴんと尻尾を立てて、キッと周りを睨みつけて歩いた。天気の良い日は池のほとりで魚を眺めたり、木箱の上で日に当たったりして過ごす。気が向くと青獅子の学級でディミトリと授業を聞き、訓練場で生徒たちが剣や槍を振るったり、弓を引いたりする様を眺めていた。
     孤高で、気難しい猫なのに、生徒たちはフェリクスのことを可愛がる。アッシュはフェリクスのために魚の骨と肉とを分けてやり、メルセデスは柔らかな膝をフェリクスに貸したがった。アネットは温室でこっそり歌を聞かせてやり、ドゥドゥーはフェリクスが歌を聞いたまま、柔らかく盛った土の上で眠っているのをそっとしておいてやる。イングリットは食堂の机の下で、そっと自分の肉をフェリクスに分けてやった。ディミトリが真似をして肉を分けてやろうとすると、フェリクスはつんとして絶対に手を付けない。彼はディミトリが自分の食事を無感情に飲み下すのを、いつも気に入らな気に見つめていた。
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    Satsuki

    PROGRESS脱走フェリをお散歩させる。フリートしてた話の進捗です。そのうち続きを書くと思います。
    シルヴァンはしゃがみ込み、床に倒れ伏したまだ歳若い男の首に手をやった。まだ温かなその体は、昼までは食堂で勤勉に動き回っていたものだ。
    「どうだ?」
    ディミトリが静かにそう聞くと、シルヴァン首を横に振った。
    「だめですね。首を折られてます」
    「あいつ、やるな」
    「腕の力は、弱ってなかったですもんね」
    「ああ……さて、それじゃあ追いかけるか」
     どこか楽しそうに言うディミトリに、シルヴァンは立ち上がって暗い廊下を見つめた。所々に燭台があるが、この冷たく寂しい道を、フェリクスはどこまで進んでいったのだろう。

     ハァハァと荒い呼吸を吐きながら、フェリクスは床に爪を立てる。辺りの様子を確かめるために首を大きく動かさなければならなくて、体中の筋肉が悲鳴をあげていた。簡素な服はまくれ上がり、硬い石造りの床に擦れた膝や腕には無数の細かな傷ができ血を滲ませ始めている。ここはどこだ?目線の高さが変わってしまったせいで、距離感が全く掴めない。おまけに、さっきから同じような場所を延々と巡っているような錯覚に陥っている。いや、それが錯覚なのか、本当に同じ場所から動くことができていないのか、それすら分からない。
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