いつかの夢とファム・ファタル ボクは時々、不思議な夢を見る。名前も知らない女の子と会う夢だ。琥珀のような瞳と、黄色のシュシュで一房くくった、夕焼け色の髪。
いつも彼女とは色んな会話をする。目が覚めた時には、すべて忘れてしまっているけれど。
でも、彼女が別れ際に口にする言葉だけは、毎回なぜか覚えている。
「いつかきっと、あなたに会いに行くよ」
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「それで? キミは未だにその女の子を待ち続けているのかい?」
「そうだよ」
「なるほど、それで彼女いない歴イコール年齢の三十路男が爆誕してしまったのか」
「そも、その女は実在せず、貴様の都合の良い妄想という可能性の方が高いのではないか?」
とある金曜日の夜。医師のロマニ・アーキマンは学生時代の友人たちに居酒屋に連行された。今日は花金だし昨日届いたマギマリのBlu-ray鑑賞会でもするぞぉ! と思っていたのに。半ばやけくそでいつもより早めのペースで飲んでいると、何か面白い話でもしろと無茶振りされ、丁度今朝見たいつもの夢の話をした。それがこの結果だ。
「面白い話をせよ、と言ったらお前の妄想を聞かされるとはな。だが、お前にも人並みの欲がある、というのは聞き応えがなくもなかったぞ」
「でもその子、いくつだい? ちょっとアブない香りがするぞぉ!」
「夢の中の彼女を待つのもいいけど、そろそろ現実に目を向けてみたらどうだい?」
完全に言いたい放題。まあ確かに、夢の中で出会った少女をずっと待ち続けています、なんてちゃんちゃらおかしい話だ。もしこれが他の人の話で、自分が聞き手の立場だったら真っ先に「ありえない」と言っていただろう。ロマニ・アーキマンは現実主義者なのだ。
けれど、彼女の言葉には妙な信頼感があった。いつかきっと、本当に自分に会いに来てくれるという。しかも、今でもその夢で彼女と会っているのだ。
結局、初めて彼女と出会ってから十数年、ロマニはずるずると彼女を待ち続けているのだった。
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目が覚めると、そこは見覚えのない部屋だった。
見知らぬ、天井。まさにいま、昔見たアニメのサブタイトルそのままの状況だった。
自分の部屋でも、昨日飲んだ友人たちの部屋でもない。いったいここは、何処なのだろうか。混乱するロマニの耳に、ガチャリ、とドアの開く音がした。
「あ、目が覚めたんですね! おはようございます」
「え、あ……」
「二日酔いとか大丈夫ですか? 一応たまごがゆ作ったんですけど、食べられそうですか?」
ロマニは、驚きで目を丸くした。——だって、部屋の主には見覚えがある。いや、見覚えがあるどころじゃない。ずっと待ち続けていた、彼女だ。琥珀のような瞳と、黄色のシュシュで一房くくった、夕焼け色の髪。
「キミは……」
「えへへ。ようやく、現実で会えましたね」
彼女がふにゃりと笑う。自分の頬を撫でる掌のあたたかさは、夢の中のそれと同じだった。