Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    julius_r_sub

    @julius_r_sub

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 20

    julius_r_sub

    ☆quiet follow

    バレンタイン(遅刻)予定のルツ途中まで

     2月14日といえばバレンタインである。女性から男性へとチョコレートが贈られるイベント。
     司の教室内でも、朝から生徒同士でチョコレートの受け渡しが行われている。

    「天馬くん、これあげるね〜!」

     司の机の上には、まだ1限目が始まってすらいないというのに、現在15個目のチョコが積まれたところだ。
     後ろの席の同級生がため息をつく。

    「司〜、貰いすぎだろ。俺にもくれよ〜」
    「ふふん、オレはスターだからな!視線もチョコも集まってくるものだ!」
    「いや、分けてくれよって言ってんだよ」
    「む……お前そんなにチョコが好きだったのか?」
    「いや……そこそこ」

     せっかく貰ったものを分けるという行為は、あまりしたくはない。ファンは大切にしなければ、スターの名が廃るというものだ。
     硬い信念を胸に、同級生の頼みを断ると、横から声が飛んだ。

    「天馬くん、それ義理だからね?」
    「本命じゃないよ?」
    「ん?よく分からんが、オレのスター性に惹かれてチョコをくれる気になったのだろう?」
    「うーん……」

     何も、意味が分かっていないわけではない。義理チョコという言葉の意味は知っている。だが、どんな理由であれ、とりあえずクラスの女子は司にチョコを渡す、という状況になっているというのは、自分のスター性に原因があるに違いないのだと結論づけている。だから義理だとか本命だとかは、司にとって関係のない言葉だ。

    「お前……恋愛感情とか、鈍いだろ」

     手元にあったトリュフチョコを口に放り込む。すると、柔らかい甘さとほんの少しの苦味が口に広がると共に、呆れたような声がかけられる。

    「そんなことない、恋愛感情くらいなんてことないぞ!手に取るように分かる!」

     司は数々のミュージカルや舞台を見てきた。恋愛というものは知り尽くしている、つもりだった。だからゆっくりと、チョコを飲み込んでから反論したのだが、残念ながら聞き入れて貰えなかった。2年生の学祭での台本がどうのと彼は言っていたが、あれこそ恋愛感情──悲恋を描いている。一体何が悪いのか、司には分からない。
     結局この話は、1限目が始まるという理由で強制的に終了した。

    ───────


     昼休み、司は常の如く類と昼食をとるために隣のクラスに突撃した。学年が上がっても同じクラスになれなかったのは残念だと思ったが、教師の胃が痛くなるという理由だったような気がする。
     司が持っているのは弁当と、今日貰ったチョコレートの一部だ。去年もクラスや学年問わずに沢山のチョコを貰ったが、今年はまだ午後を残しておきながら去年を上回った。そんな去年は、食べ切るのに1ヶ月かかった。

    「類、一緒にランチを…………ん?」

     教室のドアを開けると、類はサンドイッチを片手に立ち上がっていた。また野菜の沢山入ったサンドイッチを選ぶことに、最早突っ込むことすら面倒になってしまったが、司が気になったのはそこではなかった。

    「お前……チョコは貰っていないのか?」
    「チョコ……あぁ、うん、そうだね」

     去年、司よりも多くのチョコレートを貰っていた類だが、彼の机の周りにはチョコレートがほとんどなかった。ワンダーランズショウタイムがそこそこ有名になった今、去年以上の凄まじい光景を目にすることが出来るのではないかと期待していた司には、不思議なことこの上ない。

    「どうしたんだ?お前チョコは好きだっただろう?」
    「そうだけども、まぁ立ち話もなんだから屋上に行こうじゃないか」

     教室から離れて、屋上まで来るとやっぱり他の人はいなかった。
     少々寒いが、クラスで食べるのは何となく気が引ける。同じクラスであれば、という想像は5月でやめた。

    「さてと、さっきのチョコレートのことなんだけど……」

     青空の下に腰を落ち着けて類は語り出す。司も倣うように隣に座った。

    「実は、前々からチョコは要らないって断っておいていたんだ。それでも渡してくる子も居たけれど、全部受け取らなかったんだよ」
    「な……、そ、そうだったのか……!」

     チョコレートが無かった理由を聞いて、司は驚いた。去年は全て受け取っていただけに、意外すぎる。迷惑そうにする様子もなかった上に、喜んでいたのも記憶に新しい。

    「その、何か理由があるのか……?受け取らない理由、とか」
    「知りたいかい?」
    「まぁ、気にはなる」

     弁当箱を開けて、ハンバーグを口に入れる。このハンバーグは類に狙われがちだから、早めに食べてしまわないとなくなってしまう。

    「ふふ、今年は、好きな人からしか受け取らないと決めたんだ。だからだよ」
    「好きな人……?」
    「うん、好きな人だよ」

     意外なことは続くものだ。失礼だが、類の口から好きな人なんて言葉が出てくるとは思わなかった。

    「好きな人、とは……」
    「いやぁ、去年から片思いとやらをしているのだけれど、全く脈がないんだ。だからこれで少しでも僕のことを意識してくれればと思ってね」
    「ほう……そ、うなのか……」

     類が片思いをしていたというのは初耳だ。しかも、去年からだという。
     そんな素振りをしていたことに気づかなかったが、本当に片思いをしているのなら誰なのだろうか。類と関わりのある女子を思い浮かべてみるが、寧々やえむは違うだろう。

    「司くん?どうしたんだい難しい顔をして」
    「いや……類の好きな人は誰なのだろうかと……オレも知ってる人間か?」
    「おや、気になるのかい?そうだね、司くんも知ってる人だよ」

     自分も知っているとなるとかなり限られるように見えて、実は全く絞られない。
     米をゆっくり噛みながら、今まで類と接したことのある女子を思い浮かべてみるも、司にはさっぱり分からなかった。

    「うーーむ、さっぱり分からん!だが、わざわざこんなことをせずとも普通にアピールすればいいんじゃないか?ちゃんと相手にアプローチはしてきたか?」
    「勿論。家に何度か誘ったし、見かけたらなるべく声をかけるようにしていたし、長い時間2人きりになれるようにだって頑張っていたんだよ」
    「そ、そうか。結構色々とやっていたんだな、すまなかった……」

     吐き捨てるように述べられた数々のアプローチに、司は感心する。類のことだから頓珍漢なことを言うのかと思いきや、全くそんなことは無かった。だが、心做しか類の声から呆れや怒りを感じる。

    「鈍すぎるんだよ、その人は。僕が過剰に抱きしめたりしたってなんとも思ってないみたいなんだ」
    「それは……難儀だな。流石にスキンシップが多ければ意識くらいするんじゃないのか」
    「いいや、全く。僕のこと本当になんとも思ってない」
    「告白はしないのか?」
    「僕のことなんとも思ってないのに?」
    「可能性は0ではないだろう?」

     類は女子からモテる。不本意だが、自分よりも多くの女子に思いを寄せられているような気さえする。そんな彼に、全く意識をしないというのは、確かに自信を喪失してしまうのも無理はない。

    「仮に、もし司くんが今僕から告白されたとしたらどう思う?」
    「は?」
    「だから、僕に好きだよって告白されたらどう思う?」
    「それは……」

     食べる手を止めて、思考する。
     確かに類は良い奴だ。見た目以上に、同じ趣味を共有出来ることや、自分には出来ないことを楽しそうに行っているところを見ていると、なんとなく気持ちが満たされる。
     だが、類は親友だ。そもそも恋人になったところで何の違いがあるのだろうか。

    「オレなら……うーむ、分からんな。類と付き合うことが想像出来ない、付き合ったって今と大体同じじゃないか?」
    「司くん……、付き合うってことは友人とは違うんだよ。キスとか、それより先のこととかが出来るかという問題になってくるんだ」

     妙な空気になってしまった、と思いつつも、それだけ類も本気なのだと伝わった。友人と恋人というのは大きく違うのだと突きつけられれば、思わず次の言葉を見失う。
     類の言葉を踏まえて、改めて彼と付き合うことが出来るか。まず、キスが出来るかどうかだが、驚くことに案外嫌悪感は無い。司は日頃から類と近い距離感にある。だからキス程度では特に何も思わないのかもしれない。
     そうやって、数分間真剣に考え込んでいると、類から遠慮がちに声をかけられた。

    「あー……司くん、ごめんよ、君を困らせてしまったみたいだ」
    「い、いやっ!困ってなどいないぞ!」
    「……早く食べないと、昼休みが終わってしまうよ。そうだ司くん、僕のレタスと君のハンバーグ半分を交換しないかい?」
    「なに!?お、おい!許可を得る前に取るな!!類っ!!」

     先程までの空気が嘘のように、日常の光景が動き出す。 
     ハンバーグのお礼にと、弁当箱に入れられた価値の釣り合わないレタスを貪りながら、司はもう一度恋人というものについて考えた。

     キスはおそらく出来る。では、その先。

     やはり、不思議なことに嫌悪感は無かった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ☺💕💕💕👍👍💞💞💴💴💖💖💞
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works