カメラの日(Q.男が撮った写真を友人に見せると、「そんなもの見せるな」と怒られた。一体何故か?)
「なんか面白いゲームでも見つけたのか?」
「ん? なんでだ?」
「最近よくスマホ見ながら笑ってるなと思って」
「あ、そういうことか。ちがうよ。写真撮るのにちょっとハマりましてな」
空閑はそう言って得意げに本部から配られた端末をいじっている。ランク戦のログを見直していたが、空閑の話に興味がでてきて休憩がてら聞かせてもらうことにした。
「何にハマってるんだ?」
「ん、写真」
「へえ! なんか意外なような意外じゃないような……」
「向こうじゃカメラなんてなかったからな。こういうのは面白い」
「ボーダーから支給されてる端末のカメラの性能なかなかいいらしいぞ」
空閑が写真を撮るのにハマったと聞くとなんだか嬉しくなる。空閑からはあまり趣味とかを聞いたことがない。同世代がハマっているゲームをやっているところも見たことがないし、だからといってスポーツや絵を描くのが好きというのも聞いたことがない。
いつもアレがうまい、コレがうまいと何かしら食べ物の話はしている気はするが。
「何撮るんだ?」
「んー……、風景とか人とか?」
「へえ」
風景か。このあたりに写真の撮りがいのありそうな場所はあったか考える。たしかにボーダー本部がかなり目立つが、神社もあるし山もある。それになにがなくても写真を撮る立場になればいい構図みたいなものが見えてくるものなんだろう。
「でもみんなに見せると、そんなもん見せるな〜って言われるけどな。とくにかげうら先輩とか」
「え、なんでだ?」
人が見たがらない写真なんてあるだろうか。あるにはあるだろうがそんな悪趣味なものを空閑が撮るとも思えない。
そういえば空閑は夜中に起きているし、普段人が見ないようなものだろうか。
「……心霊写真とかじゃないだろうな?」
「ちがうちがう。それにおれあんま霊とか信じてないし」
「……そうか」
ならなんだろう。
三門市には心霊スポットがないこともない。大規模侵攻が起こってからその噂は尾ひれをつけてネット上でたまに見かけることがある。
だが夜な夜な空閑がそんなところに行くとも考えづらい。
「風景って普通の風景か?」
「ん、まあ風景は普通だよ。踏切とか神社とか。この前は紅葉とかとったし」
「紅葉ってこの前見に行ったやつか?」
「そうそう」
この間千佳と空閑とで神社に行ったときのことだろう。そろそろ寒くなってきたし紅葉狩りの時期かな、なんて話していたら空閑が日本人は紅葉も食うのかと聞いてきたことを思い出す。
葉っぱが赤くなるのを楽しむことを紅葉狩りというんだ、と説明していたらいつのまにか神社でピクニックをすることになっていた。
「チカのおにぎりは大変おいしかった」
「あの絶妙な塩加減は千佳だからこそだな」
「オサムのお母さんの唐揚げも絶品だったな」
「ああ。母さんにそう伝えておくよ」
言われてみればあの時から空閑は端末を掲げていたかもしれない。あれは写真を撮っていたのか。
「写真見るか?」
「いいのか。見たい」
「ほれ」
空閑の隣に腰掛けて端末を覗き込むと、きれいな紅葉とぼくとチカが映っていた。空閑が映っていないのがすこし寂しく感じる。撮っている張本人なのだから当たり前なのだが。
この間の紅葉狩りの写真を一通り見せてもらったが至って普通の写真ばかりだった。
心霊写真でも、取り立てて猟奇的なものでもないし、至って普通の写真にしか見えない。いったいこの写真の何が見たくないのだろうか。
「他にもいっぱいあるぞ」
空閑がそう言いながら画面を指でなぞって写真をスライドさせていく。
写真をスライドさせていくと何枚かずつで場面が変わる。紅葉、神社、玉狛支部、ボーダー本部、学校。
「……なあ空閑」
じわじわとある事に気付きつつ写真を眺める。なあ空閑これ。
「お、これはとっておきだな」
「空閑!」
次に画面に出てきたのはぼくの寝顔だった。
「ぼくばっかりじゃないか!」
空閑が撮った写真にはほぼ全てにぼくが映り込んでいた。大きさは豆粒大のものもあれば、
画面の半分を占領していたりもする。後ろ姿、横顔、つむじ、メガネ、いずれにせよほぼすべての写真にぼくが映り込んでいた。
「そうだぞ。おれのオサムコレクションだ」
「そんなもの人に見せるな!」
「オサムもみんなと同じこと言うな!」
顔を赤くして怒る僕に対して、空閑は面白そうにけらけらと笑うだけだった。
それからついでにといわんばかりに端末のカメラを向けられ、パシャっと音が響いた。
(A.ただの惚気の写真ばかりだったため)
20211130.カメラの日(ゲームの日)