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    huzuwhite1

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    月刊ゆまおさ

    ごめんねの日「あれ、オサムここにあったコップ知らないか?」
     遊真が廊下から戻ってくると先ほどまで使っていたコップがなくなっていた。
     リビングで修とログを見直していると、緑川から電話がかかってきたため、遊真はログを見ていた手を止めて廊下で電話をするため15分ほど席を外していた。 
     席を外す前、修と温かい麦茶を飲んでいてまだ半分くらい残っていたはずだ。
    「ご、ごめん。僕が洗った」
     修が気まずそうに目をそらして謝ってくる。口をついて出たようなごめんに違和感を持つ。
    「……なんでごめん?」
    「あ、いや、なんでもない。そうだ新しいコップ持ってくるの忘れてたな!」
     修は新しいコップを持ってこようと椅子から立ち上がる。机の上には修のコップが置いてあった。
     なぜ自分のコップは洗われたのだろう。
     例えば、15分そこらでお茶が冷めてしまったとする。例えば、お茶が冷めていたことに気付いて良かれと思ってお茶を入れ替えることにした。ついでにコップも洗ってしまったということだろうか。それにしては新しいお茶が置いてあるわけでもない。
     それに遊真のコップを取り替えるのなら、修自身のコップも一緒に取り替えに行くのが自然ではないだろうか。
     ほかにコップを取り替える事情といえば、虫がコップについてきてそれを見過ごせなかった、もしくは遊真のコップで虫を潰すなどしてしまったか。
    「虫でもいたのか?」
    「え? いや虫は飛んでなかったけど」
     新しいコップに温かいお茶を入れ直して持ってきた修に聞いてみるが、虫がコップに止まっていたわけでもないらしい。
    「ふむ」
    「はい、これ」
    「ありがとう」
     渡された茶を両手で受け取りながら、温かいのを確認した。
     修が椅子に座り直す。それから自分のコップを手に取って一口飲もうとして中身が無いことに気付いたらしい。
    「……さっき飲み終わったんだった。最近乾燥するからすぐなくなるな」
    「そうだな」
     遊真は先ほど渡されたお茶を啜るように一口飲んだ。どうせ火傷してもすぐに治る。このトリオン体が温度に負けるのかもよくわからないが。
    「おれが入れてこようか?」
    「え?」
    「オサムのお茶。さっき持ってきてもらったしな」
     自身のお茶がないことに気付かなくて、遊真のお茶が冷めていることに気付くというのもおかしな話だ。
     そう考えると修のお茶に何かがあったから、ついでに遊真のお茶を取り替えたわけではないのだろう。であれば、やはり遊真のお茶、もしくはコップに何かががあったと考えるべきだろう。
     遊真はソファから立ち上がり半ば強引に修の手からコップを取り上げる。
    「あっ、あれはぼくのせいで」
    「いいっていいって。というかすぐそこだし。ちょっと待ってろ」
     修のコップを持ってキッチンに向かう。水道から水を出してコップを軽くすすいだあと、キッチンペーパーで水滴を拭き取る。冬はキッチンにテーブルポットが置いてあり、温かい麦茶が基本的にはいつでも飲めるようになっている。修のコップにお茶を注ぎながら水切りかごを確認した。
     ぼくのせい、というからには修が何かしたのだろう。とはいえごまかそうとしてるのは珍しい。平時なら、自分が悪かったとわかればすぐに謝ってくるはずだ。修はそういうやつだ。
     そんな修がなにかを隠していること自体がかなり珍しい。
     なればおれが明かしてやりたい、と遊真が期待するのは必然だった。
     水切りカゴを確認しても遊真が15分前まで使っていたコップは平然と鎮座していた。手にとって確認してみてもヒビが入っているわけでもない。というより、修ならコップを壊したら素直に謝ってくるだろう。
     とくに大したヒントも得られずにすごすごとリビングに戻る。
    「はい、オサム」
    「あ、ああ。ありがとう」
     気まずそうに笑いながら修がコップを受け取る。だめだ、ヒントがない。
    「オサム、おれのコップ割った?」
    「え、ちがっ! 割ってない!」
    「本当かあ?」
    「ちょっと汚れたから洗っただけだ! 空閑なら分かるだろ!」
    「ま、だろうな。さっき水切りかごん中に入ってんの見たし」
    「……まったく」
     まったく黒くならない口元と、あまりのヒントのなさにすこし悔しくなってカマをかけてみる。
     ふむ、ちょっと汚れたから、か。コップが汚れる状況がぱっと思いつかない。この言い方だと中身のお茶には何もなかったんだろう。
     だいぶ絞れたような絞れていないような。
    「いっ」
     お茶を一口飲んだ修が小さく呻く。
    「どうした?」
    「乾燥のせいか昨日から唇が切れちゃって」
    「……大丈夫か?」
    「すごい痛いわけじゃないし、大丈夫だよ」
     こういうとき生身の身体は不便だなと思わなくもない。生身の身体に戻りたくないのかと聞かれればそう言うわけでもないのだが、それとこれとは話が別だ。
     遊真は修に入れてもらったお茶を啜りながらコップを汚れについて考えるがすぐに答えは出そうにない。
    「……とりあえずログの続きを見るぞ」
    「だな」
     結局答えはわからないまま、ランク戦のログを見返すことになってしまった。
     寒いのと乾燥のせいか修は何度もコップを口に運び、お茶を飲む。
    「……隊は結構慎重な動きをするな」
    「だな」 
     修がまたコップに口をつけて傾ける。
    「……あ、さっき飲み終わったんだった」
     ログもいいところだし席を立つにはタイミングが悪いと踏んだのか、修はコップを元の位置に戻した。
     それを見て遊真は修に自分のお茶を差し出して聞いてみる。
    「飲むか?」
    「いや、いいよ。いまリップクリーム塗ってる、から、汚れ……る……」
    「……ほほーう」
     その一言が正解のようなものだった。
     つまり修は間違えて遊真のコップに口をつけてしまい、その拍子にリップクリームがついてしまった。それでコップが汚れたということだろう。
    「別にそんくらいで洗わんでもいいのに」
    「リップクリームってベタベタするし何て言えばいいか分からなかったんだよ」
    「まあ……たしかに」
     コップを間違えてしまい、リップクリームがついたがそのまま飲んでください、というのもおかしな話だ。しかもその場にいればまだしも、遊真が席を外していたからなおさらだろう。
    「なに、こなみ先輩か?」
    「そうだ。口が切れたって言ったらこれ塗りなさいって渡されて」
    「で、大人しく塗ってると」
    「そういうことだ」
     本人に答えを教えてもらったようなものだが、それはそれでいいとしよう。
    「ここまでバレたから言うけど、空閑が普通に熱いお茶を飲むから本当に同じ温度なのか気にになって」
    「あとからリップクリーム塗ってることに気づいた?」
    「……そうだ」
    「オサムのえっち」
     思いついた言葉をそのまま口に出してみる。なんてちょっとからかいたいだけだ。
    「なっ、えっ……!?」
    「オサムから間接キスなんて。さすがリーダー大胆だな」
    「かっ、ちがっ、そういうんじゃ」
    「はは、ウソウソ! すまんからかった」
    「く、空閑……。いや、こっちこそごめん、ぼくも軽率だった」
    「いいよ。でも代わりに休憩にしようぜ」
     気も削がれたところで休憩の提案をする。お茶を注いだばかりかと思いきや、時計を見ればそれなりに時間が経っているようだった。
    「……だな」
    「ココアでも入れてこようかな。オサムもいるか?」
    「……ぼくはいい。コップそんなに何個も出してもあれだし」
    「……ふーん、じゃあおれのコップで一緒に飲むか?」
    「空閑!」
    「んはは、ごめんて」 



    2021/12/10  ごめんねの日
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