ある「元」光の戦士の6.01その1雨音で目が覚める。
窓から見えるクリスタルタワーはこんな朝でも壮観だ。
あくびをかみ殺しながら、布団から這い出る。
いや、やっぱり二度寝しようか……。
……いつも後悔するんだよな……。
ただ、もう少しだけ。
そう思って布団の中に戻ろうとした瞬間、部屋全体が眩く照らされた。直後、轟く雷鳴に、少しだけ眉毛が吊り上がる。
ラムウの雷撃の方がよほど凄まじかった。
しかし二度寝しようかという迷いを吹き飛ばすには十分だった。
ーー仕方ない。
くぁ、と今度は思いっきりあくびをして、「元」光の戦士ーーフィーネはようやくベッドから抜け出したのだった。
顔を洗い、銀の髪を後ろでひとつにまとめる。
冒険していたころは毎朝編み込んで凝った髪型にしていたのだか、今ではそんな気も起きず。
あんな面倒な髪型、よく毎日していたものだと思う。
確かクガネの方からエオルゼアに入ってきて、特にリムサ・ロミンサで流行っていた髪型だったはずだ……。
暁の血盟のメンバーにすら隠していた事実だが、フィーネの地毛は銀色だ。
銀のままではいかにもアウラ・ゼラに見えるのがなんとなく嫌で、金色に染めていた。
それももうやめた。
しばらくは楽に、ただただ生きていたい。
「おはよう、私の『かわいい若木!』」
背後から高い声が飛んでくる。
「おぁ…ぉ〜ぇぉぁん…」
答えようとしたのだが、三度目のあくびがどうしても噛み殺せなかった。
「ちょっと『かわいい若木』!毎朝のあいさつだからといって、その態度はあんまりだわ!」
声をかけたピクシー、フェオ=ウルは頬を膨らませ抗議の態度を見せる。
「ごめんねフェオちゃん。今日もかわいいね」
フェオは目を一瞬見開くと手で口を覆うようにして視線を泳がせた。
「そ、そんなあからさまなお世辞では騙されないのだわ!」
そういうフェオの顔はにやけきっていて説得力がない。
機嫌を損なうのが早いが直るのも早いのがこのピクシーの性格なのだ。
「本心で言っているんだよ。…それに、私はひとりでの静かな暮らしを望んだけど、フェオちゃんが側にいてくれて良かったと思ってるよ。
矛盾してるね、我ながら」
「…それは、私を都合の良い存在だと思っていないかしら?寂しい時だけ呼びたいのではなくて?」
「それを言われると痛いけれど。いま、私が本心を打ち明けられるのはフェオちゃんだけなのはほんとだよ」
「むー……今日のところはそれで許してあげるのだわ。でも若木はもっと私を頼るべきよ!
というか、なんでも自分で抱えてしまっているから、ひとりになりたいだとかいいだすのだわっ!」
ぐうぅぅ。
「……若木……?」
フィーネはそっとフェオから目をそらす。
「えー?」
「私の真剣な想いに…お腹の音で答えたのだわ……あなた……あなた……っ」
ぷるぷると肩を震わせ始めたフェオを見て、フィーネは素早く判断した。
両手を合わせて深々と頭を下げる。
「決して、決してフェオちゃんの話を軽んじているわけではないんだ。ただ……お腹が空いた」
「あなた……っ今度という今度は……っ」
くぅ。
頭を上げたフィーネと目が合ったフェオの頬が、彼女の髪や目と同じくらいに紅潮していた。
「朝ごはんにしない?」
しばし、沈黙。
「……するのだわ……」
自身の腹の音をごまかす手段が思いつかなかったフェオ=ウルは、降参したように声を絞り出した。