ある「元」光の戦士の6.02その2 オプレッサーみたいだな。アマロに揺られながらフィーネは視線の先のユールモアを見て思う。
カイ・シルからフィーネ宛に手紙が届いた。
いわく、アルフィノにフィーネは一流の職人でもあると聞いている。それで頼みたいことがあると。
「アルフィノはビンタしよう」
本人の知らないところで噂を流すんだから。アリゼーだったら許す。
ユールモアの前でアマロから降りる。クリスタリウムから飛んで三十分。そしてそこから一時間半。ようやくユールモアに到着だ。
雨が降りだしている。濡れないうちに早く入ろう。
ユールモアは相変わらず仰々しい建物だ。見上げていると首が痛くなってくる。
アマロから荷を下ろす。今日は大荷物だ。
門番に声をかけ、台車を貸してもらう。ユールモアには多くの物資が必要なので、搬入の準備も整っている。
大理石なのだろうか、この床は雨で滑りそうで怖い。
「あれ、闇の戦士じゃない」
自由市民らしき二人組がじろじろとこちらを見ていた。
「闇の戦士って金髪じゃなかった」
小声のつもりのようだが聞こえている。絡まれても面倒だと、フィーネは帽子を目深にかぶりなおし、そそくさとリフトに乗って最上階へのぼった。
「クリスタリウムもなんだけどさ、街中に吹き抜けがあって雨がふりこんでくるの欠陥だと思うんだよね」
ぼやきながらスカイロフトを眺める。
「雨は嫌ね。若木の頭がぬれているもの」
帽子の上にひじをついて、フェオもまたぼやく。
「自分で飛んでよ~」
「私は軽いから大丈夫なのだわ。それに、ほら。こうしているとまさに若木と枝なのだわ」
彼女が楽したいときによくいう口実である。ふわー、と頭上から聞こえてきて、よりずっしりとした重量が伝わってくる。
「角に足をのせないで欲しい」
「お詫びに何でもする約束のはずよ」
お茶を吹きかけたことをまだ許してもらえていないのだ。
「枝が根に持ってしまった」
我ながら上手いことを言ったと思ったが、スルーされたことを鑑みるにお気に召さなかったようだ。
そして、いた。カイ・シルだ。
目が合った彼が手を振ってくるが、両手を合わせてごめん、とポーズしてスルーした。
「どうしたの」
「さっき採集したでしょ」
台車の荷を指す。載っているのはホワイトオーク原木だ。
「これがお金になるわけです」
といっても白貨だが。
受付のドラン族に原木を渡し、白貨に交換してもらう
「蟹角だったね」
小声でフェオに告げる。受付のドラン族の話だ。
「あなた、ドラン族好きよね」
「フェオは好きじゃないの」
「『かわいい若木』がたまたまドランだっただけよあなたはピクシー族は好き」
「我が枝が今日もかわいくてすごく好き」
「ふぅん」
そっけなさそうでいて、かなり喜んでいそうだ。
前よりも感情を伝えるようにしてから、フェオの機嫌が良い気がする。
待たせていたカイ・シルに声をかける。話を聞くと、彼はユールモアに来ていた親友と再会できたようだ。
そして、ビーハイヴで新しい事業を始めて観光客を集めたいとかなんとか。
「さっぱりわからなかったわね」
フェオはあくびばかりしていて退屈そうだった。ユールモアでいたずらはやめてほしいと事前に頼み込んである。もし何か壊したら、花瓶ひとつでもフィーネの路銀が吹き飛びそうだ。
「ユールモアの今までの収入源っておそらく、メオルと交換した労働力で賄ってきたのでしょうヴァウスリーがいなくなった今、外から人を呼ぶのは必要だと思うよ。今のままだと、ユールモアから外にお金が出ていくことはあっても入ってくることがなさそうだもの」
モーエンがそうやすやすとユールモアを寂れさせはしない気がするが。
「何を言っているかわからないのだわ。あなたってお金の話に食いつくわね」
「商人の家の生まれだから。つい」
それがいやで冒険者になったはずなのだが、その経験が最近は食い扶持を稼ぐのに役立っている。人生は何が役立つかわからないものだ。
「美味しかったね」
空になった皿をビーハイヴに返しに行く。
カイ・シルの事業に協力すると言ったらブラッドトマトサラダとマッシュルームソテーをもらったので、そのまま二人でお昼ごはんとして平らげた。しばらく食うには困らなさそうだ。
~おまけ~
コルシア島で採集した素材
収集用のホワイトオーク原木
8:00~ 未知
カイ・シルの話
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