ある「元」光の戦士の6.03その7 目の前にそびえ立つのは大きな城。複数の建物が連結したような複雑な構造だ。こんなに大きいと掃除をするだけで何日かかるかわからない。
「いつ見ても高圧的な城ですこと……」
見上げるアウラ、フィーネの口ぶりは否定的だ。その一方で。
「なんだか不思議な味がするのだわ」
腰を下ろしたフェオ=ウルはのんびりとサザエの壺焼きを頬張っている。
「醤油の味が懐かしいね」
フィーネもまた、同じくサザエを口に運ぶ。
紅玉海で追いかけてきた侍が海に落ちたので、引き上げたら一緒にサザエがついてきた。
侍の方は適当に縛って知り合いのいる赤誠組に引き渡し(押しつけ)、サザエの方は街で醤油と料理酒を買い、七輪で焼いていたところだ。
「ところで、こんなところに座っていて良いのかしら?」
フェオが叩いてみせるのはクガネにはよくある緑青色の瓦、つまり二人は今屋根の上にいる。
「勝手に上がったら怒られそうなのだわ」
フェオの心配をよそにフィーネは平気な顔をしている。
「大丈夫だよ。ここ、うちだしさ」
フィーネの言葉にフェオが驚き、口を開こうとした時だ。
「なんだ、お前か」
背後からはしごを伝い、男性のアウラが顔を出す。その髪には白髪が混ざり、顔にはしわが刻まれている。
「何?」
フィーネは残りのサザエを一口で放り込み、「あっつ」と言いつつも味わっている。
「何じゃねえよ、お前、クガネに戻ってきたなら顔見せろ。こんなところでサザエ食ってて、こっちこそ何?だ、うちの店の屋根から煙が出てるってぇんだから見に来たってのに」
男性アウラが屋根に上がってくる間に、フェオはフィーネをつつく。
「誰かしら?」
フィーネはフェオの口の回りについた醤油を拭きながら答える。
「私の親父殿だよ」
「あら、おとうさまね!本当に似ていないからわからなかったのだわ!」
聞き慣れぬ声にフィーネの父は問いかける。
「お、なんだその……女の子?」
フェオの正体への問いに対してフィーネの返答はこうだ。
「片付けといて」
そしてフィーネは七輪を置き去りに、フェオに手まねきをしつつ屋根から飛び降りる。
「おーい!自分で食ったら自分で片付けろって昔から言ってんだろ!あとお前、もうさほど若いって歳じゃねぇんだから飛び降りんな!」
七輪を持って屋根から降りたフィーネの父親は、自宅の扉が吹き飛んできて、危うく往来する人にぶつかりかけるのを見た。
「やってくれる」
扉を退けて立ち上がるのは娘、フィーネである。
「あらフィーネやないの。ちんまいもんだから気づかへんかったわ堪忍な」
家から出てきたのは角も鱗も白いアウラである。
「母さんの方がチビだろうよぉ……」
フィーネは服に着いた土埃をはたき落とす。
「若木のお母様?」
「そうだよ。いい歳して手が出るのが早くて気が短くてチビなのを気にしてる」
フィーネに詰め寄る母はぼきぼきと両手の指を鳴らしている。
「誰がチビやって?」
「あんただあんた」
母が満面の笑みになった次の瞬間、フィーネの後ろにあった民家は爆ぜる。
「遅いねー。今の私はそんなんじゃ仕留められないよ」
フィーネは素早く身をかわしており無傷だ。
「あの、うちの壁……」
民家の主が驚いてでてきたが、既に喧嘩する二人の姿は無かった。
~おまけ~
・フィーネって何歳?
二十代。それ以上詮索するとドラゴンダイブされます。
・フィーネの父母
フィーネと血の繋がった実の両親だが、鱗も角も白い。フィーネの家系はアウラ・レン、アウラ・ゼラの混血であり、久しぶりに黒い鱗と角で生まれたがはフィーネ。
※ある「元」光の戦士の6.02その1参照
母は背の低さを気にしているが、フィーネも気にしている。ただしフィーネはアウラにしては長身であり、母はアウラの中でも低身長。フィーネは気にし過ぎ。