ボスと手下ちゃん(ジェボス)ボスと手下ちゃん(ジェボス)
こんな筈じゃ無かった。
どうして、と呟いても答えを返してくれる人は居ない。
ただ吸血鬼達の集いに参加して、俺達は邪魔にならないよう静かに隅の方に控えていただけだ、ボスの眷属として。
「はっ!雑魚吸血鬼の下層階級が調子に乗りやがって!!」
「っ!!······ぅ······っ······」
壁に叩き付けられた身体は吸血鬼なのに言う事を聞かず、他の仲間達もボロボロに傷付けられて意識を失っている。
それもそうだろう、だって相手は俺達より強い上流階級の吸血鬼達だから。
どうして、何故、と頭で考えてみても傷付けられた頭ではろくな思考も浮かばない。
「良いか良く聞け?······てめぇ等はお情けで始祖様のジェームス様に眷属にされてんだよ、てめぇ等の価値なんざ······クソ程もねぇんだよ」
「っ!!!ぐっ······!!」
腹にめり込んだ相手の拳が痛い。
こんな筈じゃ無かったと、ただ俺は······俺達は、俺達を救ってくれた“あの人”に恩を返したくて、楽しそうな顔をするあの人の笑顔をただ守りたかっただけなのに。
それすら、元人間だった俺達には権利が無いと言うのか?
そんな世界なら、階級が全てだと言うのなら······俺達があの人の眷属になった意味は······。
「Hey!下らねぇヴァンピール(吸血鬼)共、楽しそうなPartyしてやがんなァ?」
「「「!!??」」」
「っ············ジェ······ボス······?」
ガンッ!!!バキバキッ!!!
派手な音を響かせて、絢爛豪華な室内に現れた一つの影。
壊れた扉を気にすることも無く、その人······ジェームスボスは壊れた扉を踏み付けた後、倒れている俺達を見て鼻歌でも歌い出しそうな、そんな表情で近寄って来た。
「Hey、バンビーノ。派手にやられちゃって中々に痛そうだなァ?」
「っ······も······しわけ······」
「NonNon、今はゆっくり休みなバンビーノ!······にしても······」
ボスが床に倒れている俺の頭に手を乗せ、軽く撫でる。
そして周りを見渡し、静かに立ち上がる。
「チャイルドラビットにビスクドールまで······あァ······リトルラムも居んなァ······」
バンビーノ、チャイルドラビット、ビスクドール、リトルラム······それは名前すら無かった俺達に、ボスがくれた最高の贈り物。
何故かボスは俺達のことを子鹿、子兎、少女人形、子羊と呼ぶけど、ボスにそう呼ばれるのは嫌いじゃ無い。
ちゃんと愛されていると、分かるから。
「じ、ジェームス様······俺達はその······」
「上流階級に対しての付き合い方をっ······!」
「そ、そうですよジェームス様!大体人間上がりのそいつ等がジェームス様の眷属なんてっ······」
「黙れ」
「「「っ!!」」」
突然、ボスの雰囲気ががらりと変わる。
身体を刺すような、全身が震え上がるような、冷たくて恐ろしい空気がその場を支配する。
その空気······殺気を前に、俺達を痛め付けていた上流階級の吸血鬼達は揃って口を閉じた。
当然だろう、だってボスは······。
「誰が勝手に話して良いと言った?誰が勝手に俺の名前を喋って良いと言った?」
「「「!!!」」」
「勝手に口を開くのも、俺の名前を勝手に呼ぶのも、俺を“ジェームス”と呼んで良いのも、てめぇ等みてぇなヴァンピールには許してねぇんだよ。そりゃ全部、俺の可愛い可愛いバンビーノ達のもんだ」
ボスの赤い瞳が妖しく光り、ニタァとボスの口が歪められる。
その口からは二本の立派な牙が見えるが、目の前の吸血鬼達はガタガタと身体を震わせる。
けれど、今更怖がった所で“ボスの眷属”に手を出した罪は消えやしない。
だって······今も、ほら······。
「Ha!······殺してやるよ、クソ野郎共!」
吸血鬼達の長であり、誰よりも気高いジェームスボス。
俺達は到底ボスには敵わないけど、ボスに頼らなきゃこんな状況すら抜け出せない程に不甲斐ないけど······。
でも、それでもボスは俺達を見捨てないから。
なら、俺達は············。
「やっぱりボスは······最高だなぁ······」
ずっとボスの眷属で居るよ。
薄れて行く意識の中で、俺は血溜まりに笑うボスが誰よりも······綺麗に見えていた······。