理解不能の、その先に(サイバー一号)理解不能の、その先に(サイバー一号)
私の名前は、サイバー一号。
X様や始祖様に仕える為に作り出された、元は人間だった存在だ。
人間だった時の記憶は、他の仲間達と同じく私にも備わっていない。
ただ私をお作りになった方が、お前達が人間だった時の記憶は消したと、そう言っていたからインプットされた。
“ 此方一号、様子はどうだ ”
“ 三号、異常は無しです ”
“ 四号、同じく異常は無い ”
仲間達との定時連絡を終えて、私はその結果を報告する為に踵を返す。
と、不意にぽつりと私の頬に冷たい水が落ちて来た。
空を見上げてみれば、朝から曇天だった空が暗い。
それが雨だと気付いた時には、私は既に所々崩れた建物の中に居た。
外は既に、建物を打ち付ける程に酷い雨が降り続いていた。
“ 此方一号、雨が降って来た為建物内に避難。お前達は先に戻れ ”
“ 此方四号、了解した。我々は先に戻る ”
“ 此方三号、了解しました。直ぐに帰還致します ”
雨は、私達の天敵でもある。
多少の量なら問題は無いが、今みたいに大量の雨は、私達のような機械仕掛けの身体を、意図も容易く蝕んで行く。
“ この雨は、まだ止みそうに無い ”
これでは始祖様達の命令を遂行出来ないが、雨の時は建物の中に居ること、と以前私達の始祖様······タクミ様は私達に命じた。
始祖様達の命令は、絶対である。
“ 雨が止み次第、任務を遂行する ”
それ以外の方法が無いのだから、仕方がない。
そう結論付けて、私は近くにあった瓦礫に腰掛けた。
ザーザーと降りしきる雨に、私はふとあの日のことを思い出す。
私達を作り上げた方に、私は一度だけ問うたことがあった。
『何故私達に、二号が居ないのか』
を。
私達を作り上げた方は、二号が居ない理由を“ 失敗作だから ”だと仰った。
雨に濡れた機械仕掛けの身体。
私達に良く似たその姿は、雨の中地面に横たわっていた。
私達の信号に答えず、ショートして動かない身体。
『廃棄処分』とされた二号は、私達の信号に応答しなかった。
“ 何故二号は、失敗作だったのだろう ”
理由を聞くことすら、私達を作り上げた方は許さない。
それは私達にとって“ 不要 ”なのだと仰ったから。
不要ならば、聞く必要は無い。
私達はそう結論付けてあの日の通信を終えた。
次の日二号は、他の機械と共に焼却炉に入れられた。
“ 雨の日は、何故あの日を思い出すのだろうか ”
他の仲間達に聞いてみても、明確な答えは得られない。
始祖様達ならば知っているのだろうか?
だが、それを問うても始祖様達は何時も決まって何も答えては下さらない。
私の頭に手を置き、ただ一言、
「もう次はそんなことはさせん」
そう仰られるだけだ。
そう仰って時々私達と共に花を持ち、屋敷の裏にひっそりと佇む大きな石······墓石にソレを添える。
サイバー二号、とだけ記された墓石を見詰め、始祖様······タクミ様はただ一言、すまなかったと何時も決まった言葉を呟く。
私は、サイバー一号。
他の仲間達よりも一番先に作られた“ 成功作 ”だ。
だが始祖様が仰られた言葉の意味も理解不能で、始祖様に問い掛けても応答は返って来ない。
“ 何時か、理解出来る時は来るのか? ”
二号が何故失敗作だと言われたのか、何故二号が廃棄処分となったのか······。
外の雨は、まだ止みそうに無いーー······。