ボスと手下ちゃん(21ジョニボス)ボスと手下ちゃん(ジョニボス21ver.)
一人の女が息を切らしながら路地裏を駆ける。
赤い満月を背中に向け、女は迫り来る影に怯えていた。
「っ······はぁ、はぁ······いやっ、来ないで!!!」
「今度は鬼ごっこか?子供騙しな遊びだな」
その逃げる女の背中を追いながら、一人の男が笑みを浮かべる。
始まりはボスが今日、お腹が空いたと言ったから。
ただ、それだけ。
適当に声を掛けて来た女をボスに会わせてやった。
唯の人間がボスに喰われると言うならこの人間だって本望だろうに、この女はあろうことか、ボスが吸血鬼だと知った瞬間から逃げ出した。
「······ボス、俺が行きましょうか?」
「ははっ!これぐらい構わんよKitty。お前の手を煩わせる程じゃない」
それに······とボス、ジョニーボスは指で唇をなぞった後、舌なめずりをしニタァ······と笑ってその目に狂気を孕む。
「逃げる獲物程、追い掛けたくなるだろう?」
「!!」
赤い月夜に浮かぶボスの剣呑な瞳。
ボスの周りの空気が震え、ビリビリとした殺気が俺達にまで伝わって来て、思わず息を飲む。
ボスが両手を広げ、逃げる女に向けて叫ぶ。
「さぁ!逃げてみるが良い人間の女!私から無事に逃げられたならそのまま生かしておいてやる!」
それはボスが、狩りを始める時の合図。
必死に逃げ続ける女を、まるで幼子を追い掛けるような足で後を追う。
「いやっ!!!!止めてっ!!!!どうして私がっ······いやっ!!死にたくない!!!!」
「何故嫌がる?お前は私の餌になれるんだ、光栄に思うこそすれ嫌がるなど······有り得ないとは思わないか?なぁ······Kitty?」
吸血衝動が起こった時のジョニーボスは、俺達でさえ迂闊な発言は許されない。
普段何も無い時のボスは、俺達眷属をそれはそれは大切に扱ってくれる。
俺達をKittyと呼び、ボスの家族以外で何よりも大切な存在なのだと、多少スキンシップは多いが、それだけ愛されていると知っている。
そんなボスが唯一、自分を抑えられなくて吸血鬼の本能を剥き出しにする瞬間がある。
それは、今みたいな吸血衝動が起こった時と、飢えを満たした前後。
衝動を満たした後のボスは気性が荒くなり、俺達でも下手をすれば殺される恐れがある。
とは言え、俺達はボスの為なら殺されても構わないのだが······。
「はい!ボスの糧になれるのなら俺達はそれ以上に勝る光栄は御座いません」
「あぁ、そうだろう!だと言うのに······」
何故あの人間は逃げるのだろうな?と冷たい笑みを浮かべてボスは逃げる女の背中を追い始める。
ゆっくりと、だが確実に。
どんどん、どんどんと女に近付いて行く距離が縮まって行く。
「······さぁ、追い付いたぞ」
私の糧になれることを喜べ、人間の女。
赤い月夜に、赤い瞳が不気味に光る。
その月夜に一人、世にも残酷な笑みを浮かべてジョニーボスは笑っていたーー······。