ボスと手下ちゃん(ジョニボス)ボスと手下ちゃん(ジョニボス)
「お前は、私の眷属に何をした?」
最初に出会った時、その姿に憧れた。
「答えろ、お前は私の眷属に何をした」
次に出会った時は、俺達がボスの眷属になってから。
最初はその姿に、次はその声に。
その堂々たる振る舞いに、存在に、その全てに憧れた。
そんなボス······ジョニーボスが普段の冷静さは変わらずに、目の前の吸血鬼の首元を掴み上げて目を細めた。
「ボ······ス······俺は、大丈夫です······」
けほっ、と口元から流れた血を拭って立ち上がる。
事の発端は、今ボスに掴まれているあの吸血鬼がボスのことを悪く言ったから。
“ 元人間を眷属にするとは、あの吸血鬼も始祖とは言え落ちぶれたものだな ”
そう言って笑う男に腹が立ち、実力も敵わないクセに立ち向かって、ボスに謝れと叫んだ。
······でも結局負けて、地面に這いつくばって······こうしてボスに助けられてる。
あぁ本当に、情けない······。
せめて惨めな思いだけはしたく無いと立ち上がってみたけど、予想以上に殴られた傷が痛い。
これは治るまで少し時間が掛かるかなと思っていたら、ボスが先程以上に眉を寄せ、男を掴む手の力を強める。
「っ!!ぐっ!!!お、俺はっ······何もっ······!!」
「していない、とはまさか言わんだろう?私の眷属が傷を負った、その事実だけで充分だ」
消え失せろ、とボスが男に囁いて壁に叩き付ける。
コンクリートの壁に穴が空き、何処かの骨が折れるような鈍い音を響かせて、吸血鬼の男は気を失う。
ボスに殴られたなら恐らく一晩は回復しないだろうと、何処か他人事のように感じていれば、ボスがゆっくりと此方に近付いて来た。
「大丈夫かい?私のKitty(子猫)」
「ジョニー様······俺、いや私は大丈夫です······すみません、ジョニー様のお手を煩わせて······!」
言葉の最後はボスが俺の唇に人差し指を添えたことで途切れた。
「ジョニー様、では無く何時も通りで構わないと言っているだろう?私のKittyは何時もそうやって距離を取ろうとする」
「それは······やっぱり貴方と私じゃ立場が違いますから······」
「けれど、さっきは私をボスと呼んだだろう?」
「そ、それはその······申し訳ございませんでした」
「いや、謝って欲しいわけでは無いよ。だがそうだな······Kittyがそれで申し訳ないと思うなら······命令だ」
「!!はい、ご主人様」
す·····とボスの目が細められ、赤い瞳が怪しく光る。
眷属を従わせる力を使ったのだと理解した瞬間から身体の自由は奪われ、ボスの命令を待つ。
元より俺達はボスに逆らえないと言うのに、何故ボスは命じるのだろう?
そう考えたけど、結論は一つしか無い。
ボスは俺達のような眷属に普段は力を使わない。
使うとしたらそれは······本当に聞いて欲しい願いがある時だけだ。
命令なんて無くても俺達はボスの願いなら何でも聞くと言うのに。
「私をジョニーボスと呼べ。様付けすることは許さん」
「っ!!······はい、分かりました······ジョニーボス」
どんな難しい命令かと少し身構えていた俺は拍子抜けたように肩の力を抜く。
そんな俺を見てジョニーボスは口の端を緩め、俺の頬をするりと撫でた。
「そう、それで良い。私をボスと呼ぶのは私の可愛い可愛いKitty達だけで良い」
分かったね?と有無を言わさぬ視線と圧力を感じ、ごくりと喉が鳴る。
暑くも無いのに冷汗が頬を伝い、ぽたりとボスの手に落ちる。
しかしそれすらもボスは楽しいのか、汗が落ちた手に唇を寄せてぺろりと舐めた。
「っ!!?」
「あぁ、やっぱりしょっぱいな」
顔を真赤にさせた俺を揶揄うように、ジョニーボスはただくつくつと喉を鳴らして笑うのだった······。