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    お箸で摘む程度

    @opw084

    キャプション頭に登場人物/CPを表記しています。
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    お箸で摘む程度

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    25.1.12発行のビームス兄弟本「機械人間B」に収録する、あとがきと解説の全文公開です。
    本編:https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=23708927

    機械人間B あとがき・解説【初版あとがき】

     この度は、『機械人間B』をお手に取ってくださり、誠にありがとうございます。
     ビームス兄弟に惹かれてエリオスを始めた人間なので、念願の兄弟本を出すことができて嬉しいです。まだ二次創作が満足にできるほど公式での深掘りがされていないのが現状ですが、それを逆手に取り、今しか書けない兄弟像を目指しました。

     「ブラッドが何かを隠しているが、それが何なのかは分からない」という現状を活かしたく、ブラッド本人の居ない場所でフェイスが兄について深く思考する話にしようと思い、まさかのアンドロイドSFとなってしまいました。公式の近未来的な世界観やインフレ科学技術を取り入れられた気がするので満足です。ただエリオス研究部をも凌ぐ科学を描くには、私の頭が追い付かず……いろいろと矛盾点もあるかと思いますがお許しください。

     今後も原作の展開に合わせて兄弟を書いていけたらなと思います。また機会がありましたらお手に取っていただけますと幸いです。

    二〇二二年五月四日
    お箸で摘む程度 志田晃



    【解説 ——文庫版あとがき】

     『機械人間B』を発行してから、二年と八ヶ月が経つ。このときには、こんなにも長い間エリオスライジングヒーローズの世界に夢中になっているとは思わなかった。それだけ面白く、奥が深いコンテンツと出会えたことに、未だ感謝の念は尽きない。
     エリオスに出会う以前、私は主に実在する人間のファンをしており、二次元コンテンツで同人活動をすること自体が初めての経験だった。ビームス兄弟に惹かれ、彼らについて考えていくと、彼らが実在する人間ではないことに戸惑いを覚えた。
     ブラッドとフェイスは、どうして兄弟なのだろう。何が彼らを兄弟たらしめるのだろう。
     我々にとって、彼らは画面の中の存在であり、架空の人物である。彼らは肉体を持たず、身も蓋もない言い方をすれば、設定によってのみそのパーソナリティを保っている〝人格〟として存在している。

     この世には無尽蔵のフィクション作品があり、架空の人物の数も知れない。それらの創作に於いて重要視されるのは、そのキャラクターがいかに破綻なく一人の人間であるか、キャラクター同士がいかに破綻なく関係性を築いているか、という、人間としてのリアルではないかと思う。
     エリオスは、この点について、非常にクオリティの高いキャラクター造形を成功させていると言えるだろう。ストーリーに於けるキャラクターの描写が確かで、一人ひとりをとっても人間関係をとっても破綻なく、さらにはその変化や成長まで、人間としてごく自然に作り上げられていることにいつも感心させられる。

     ところが、その描写——エリオスではキャラクターの台詞や表情等であるが、それが何に起因するのかという点が、どこか不明瞭だ。何によって、彼らは感情を動かされたり、行動を起こしたりしているのか。実在する人間の場合、そこには感覚が密接に関わってくる。感覚器官の情報から中枢が判断を下し、筋を動かすという肉体のフローがある。ところが、二次元コンテンツでは、中枢ないし運動神経は行動として描写され非常に綿密である一方、その手前の感覚神経の段階が曖昧であると、私は人間の描写に対して感じている。つまるところ、フィクションに於ける人間は、精神やその人間性=人格が重要視される反面、それらを人間として捉えるには、肉体の追求が不足しているのではないかと私は考える。
     同時に、兄弟を兄弟たらしめるものとは何かという問いについて考える。その答えは、結局のところ、血の繋がりにあるのではないか。つまりは、同じ父母から生まれていること、それによるDNA配列の共通といった客観的事実と、その上で、同じ家庭に育ったことによる生活習慣、栄養状態など出生後成長過程の環境による共通、要するに肉体の共通こそが、兄弟の本質であると考える。

     これらフィクションに於ける肉体の問題は、実際には、キャラクターの設定に内在化されている。「ブラッドとフェイスは兄弟である」という設定によって、「二人は似ている」「同じ家庭で生まれ育った」という演繹的な前提を表象しているのである。修辞法の観点から言えば、感覚器官から得た情報をすべて言語化することは好ましくなく、また人間的にも不自然であり、特にエリオスのようなモノローグの無いストーリーでは描写することが難しい。おそらく、ライター側は各キャラクターの肉体をシミュレートして行動や台詞を決定しているだろうが、読む側もまた、キャラクターの感覚、肉体を想起して読むことにより、キャラクターをより一層人間として捉えることができるだろう。


     「機械人間B」には、クロックという存在が登場する。これは、対象となる人間の脳をスキャニングし、肉体は現在の質量をベースに作られたヒューマノイドロボットだ。クロックは、ここまで取り上げてきたフィクション上の人間、人格のみが重要視された存在として創作した。
     フェイスがこのクロックのブラッドを否定し、眠り続ける本物のブラッドだけをブラッドとして認めることで、この作品は、キャラクターたちが、人格と肉体が一体になった存在=人間であることを裏付けようと試みている。
     クロックは現在のブラッドの肉体を模倣してはいるが、その物質的存在はビームス家の父母から生まれたものではなく、フェイスと時を共にしたものでもなく、その他ブラッド本人の経験を何一つ経ていない。本作は、クロックという(便宜上)人間の人格がブラッドそのものであろうとも、それらが肉体の経験に起因したものでないのであれば、同一の人間であると言うことはできないという考え方を提示している。この論によって、逆説的に、フェイスやブラッド、ひいてはこの物語の中のキャラクターたちは、肉体を持った唯物論的な人間であることが証明される。
     ちなみに、フェイスがクロックの内部機構を美しいと感じることで、クロックの物質的存在にもまたそれそのものの価値があるということも示した。


     初版の発行から三年弱の間に、世界の人工知能の情勢は大きく変動している。とりわけ、二〇二二年に登場したチャットGPTとその進化は、各界に並々ならぬ衝撃を与えた。対話や即興的応対の機能を備え、「まるで人間のよう」な文章を生成してくる言語モデルである。
     しかし、私はチャットGPTに、生理的とも言える強い嫌悪感を覚える。その理由は、人工知能の人間めいた言葉が、肉体の感覚に起因しないためだ。人間を模すからには、ひとつながりの肉体を持ち、感覚に由来して言葉を紡ぐべきだと考えるからである。

     私の小さな反抗の一方、世界はバーチャル・リアリティに傾倒していく。エリオスの世界でも、ホログラム通信やマヴロシステムがごく普通に登場する。この傾向からすると、最早、肉体の在処を問わない可動的人格こそが、人間の本質になりつつあるのかもしれない。


     「エリオスライジングヒーローズ」は、ソーシャルゲームである。物語はフィクションで、キャラクターは実在しない。プログラムによって形づくられた彼らが、私の端末にも、あなたの端末にも、彼らとして正しく存在している。
     彼らは、クロックだ。精巧な人格のみによる人間。彼らの物語はリアリティに富んで我々を魅了し、一人ひとりをとっても人間関係をとっても破綻なく、さらにはその変化や成長まで、人間としてごく自然に作り上げられている。
     その上で、生きた人間である私たちは、そんな彼らの肉体を、唯一無二の物質的存在、我々と共通する肉体を、想起してみてはどうだろう。そうすれば、画面の中の姿は虚像となり、彼らはどこかに、人間として在ることができるはずだ。


    二〇二五年一月一二日
    お箸で摘む程度 志田晃

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    お箸で摘む程度

    TRAINING研究部
    感覚からヴィクターを想起してみるノヴァのお話。
    move movement poetry 自動じゃないドアを開ける力すら、もうおれには残っていないかもなぁ、なんて思ったけれど、身体ごと押すドアの冷たさが白衣を伝わってくるころ、ガコン、と鉄製の板は動いた。密閉式のそれも空気が通り抜けてしまいさえすれば、空間をつなげて、屋上は午後の陽のなかに明るい。ちょっと気後れするような風景の中に、おれは入ってゆく。出てゆく、の方が正しいのかもしれない。太陽を一体、いつぶりに見ただろう。外の空気を、風を、いつぶりに感じただろう。
     屋上は地平よりもはるか高く、どんなに鋭い音も秒速三四〇メートルを駆ける間に広がり散っていってしまう。地上の喧噪がうそみたいに、のどかだった。夏の盛りをすぎて、きっとそのときよりも生きやすくなっただろう花が、やさしい風に揺れている。いろんな色だなぁ。そんな感想しか持てない自分に苦笑いが漏れた。まあ、分かるよ、維管束で根から吸い上げた水を葉に運んでは光合成をおこなう様子だとか、クロロフィルやカロテノイド、ベタレインが可視光を反射する様子だとか、そういうのをレントゲン写真みたく目の前の現実に重ね合わせて。でも、そういうことじゃなくて、こんなにも忙しいときに、おれがこんなところに来たのは、今はいないいつかのヴィクの姿を、不意に思い出したからだった。
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    MOURNINGあのフレーム観て情緒爆発して寝て起きたら浮かんだので形にしたもの。
    フェイディノというかフェ+ディ。
    クラブの朝仕舞いの邪魔をしないよう、すれ違うスタッフと挨拶を交わしながら出口へ向かう。
    その途中で、最近、よく言われるようになった言葉がある。
    「フェイス、忘れもの!」
    また?
    肩をすくめて返事のかわりにする。
    フロアの隅も隅の方で、身体を丸めて膝の間に鼻先を埋めるようにして眠っている人がいた。
    最近メンターになった先輩ヒーロー。その能力と体勢のせいで、ふさふさの尻尾と耳が見えるようだ。
    現場に復帰してしばらくすると、時折クラブの片隅で、こうしてこっそり丸くなっている姿を見かけるようになった。
    普段陽気な人が、喧騒の中騒ぎもせずに、死角で何をしてるのかと思えば、どうやら寝てるらしい。爆睡だ。
    ブラッドの友達と知って、ああこいつもお節介な様子伺い目的なのかと思っていたが、違った。
    音が無いと眠れないんだよねぇ、といつもの明るい声で、ほんの少し疲れた目をして笑うから。

    「ディノ。ディノ、起きて。置いてくよ」
    「それはヤだ!」

    背中を軽く叩くと、パッと空色の目がフェイスを見上げた。

    「おはよ。昨日はちゃんと聴いた?」
    「昨日だけじゃなくて、いつもちゃんと聴いてるってば」

    大きく伸びを 591