鬼ふたり あいらしい鬼が泣いている。己の名を呼びながら、けれども別の男を思って泣いている。抱き着く茨木の頭を撫でながらそっと瞼を閉じた。ああ、なんてつまらない。すべてはあの男が来てからだ。いつかそんな相手ができるだろうとは思っていたが、いざその姿を見るとどうしようもなく苛立たしい。彼女のすべてを向けられるあの男がずるい。
ふと、胸に押し付けられていた茨木の顔が見たくなり、彼女の顎へと指を添えた。
「しゅてん…?」
びいだまのような瞳がぼんやりとこちらを見遣る。泣き顔も可愛いけれど――そんなことを思いかけて、漸く己の心を思い知った。眉間に軽い口付けを施せば、少しの間ののち、ぽ、ぽ、ぽと彼女の頬に朱が走る。
「可愛らしいなあ」
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