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    hatimitu_umeko

    @hatimitu_umeko
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    原稿で忙しくなるので、自分が忘れない為にも。いつか完成させます。

    狐晴と狐道 道満は播磨の山に住む狐である。白と黒の艶やかで豊かな体毛を靡かせ、夜には輝く黒い瞳に長い手足、そして二本の尻尾を生やしていた。体は他の狐よりも遥かに逞しく立派で、本気を出せば山に咲く桜の木よりも大きくなれる。自然を操る呪力を持ち、地元の寺に忍び込んで法力すらも会得した。気まぐれに美しい法師の姿に化けて表に出れば、周囲の人間を誑かして陥れ、落ちぶれる様子を嘲笑う。時には死肉を漁って食らう事もあった。
     麓で暮らす人々は、道満のような存在を妖狐や野狐と呼ぶ。恐ろしい物の怪の一種。顔見知りの鬼や大蛇も道満の事を化け狐だと言う。優れた耳で拾った知識によれば、この世には他にも様々な狐が居るらしい。物の怪だけで無く、神の使いや星の化身。加えて天に住まう神、其の物として崇められる狐の存在を知った時は、尻尾が荒ぶる事を止められなかった。是非とも己もその高みまで登りたい。
     産まれた時から道満は妖狐だった訳ではない。自我が芽生えた頃は、まだ普通の子狐に過ぎなかった。幼い体で母の乳を吸い、只管に腹が空いたと鳴くだけの存在で、個体を認識する為の名前も無かった。唯一他の兄弟と違った点、それは最初から呪力を持っていた事だ。天賦の才と言うべきか。その上で漲る呪力を鍛える術を野生の感で把握し、血が滲むような努力を惜しまない精神を備えていた。母から巣立ち、山の中で修業を続け、ふと気付いた時には妖狐だった。
     白と黒に分かれた二つの尻尾は、修行に励んだ道満の力の証だ。陰陽を理解して尾が裂けて一つから二つに増えた時、道満は妖狐としての格が上がった事を悟り、誇らしく思った。だが残念な事に、そこからどれだけ力を尽くしても道満の尻尾は裂けて増えなかった。変わった所と言えば、尻尾の毛並みが良くなって、黒い方がくるくると巻いて、多少大きく膨らんだ事ぐらいだった。力だけでなく、天と地を学んで知恵を身に付けても何も得ない。
     妖狐として強くなり、賢くなったのは確かである故に道満は苦悩した。物の怪に属する獣という存在は、尻尾の数で力を図る所がある。どれだけ力を示しても尻尾が少なければ、周囲から侮られてしまう。力比べで挑んだ相手を負かしても、裏では所詮二本しか無いと揶揄される。己を侮辱する弱者を耳する度に、道満は全力で探し出して叩き潰したが、蔑視の目は途絶えない。誰も彼も、尻尾を持つ者は道満を認めない。
     二本尾の未熟者。
     播磨で一番強くなり、周辺の山の主を倒し、目に届く土地を全て掌握して縄張りにした。そこまでしても尻尾は増えず、やっかみは酷くなるばかり。悔しさで我を忘れ、尻尾を濡らして咥えた夜は数知れず。悩んだ末に道満は、播磨から出ていく事にした。この世は広い、違う場所でなら尻尾を増やせる術が見付かるかもしれないし、道満の力を正当に認めてくれる者もきっと居るだろう。最後に今まで馬鹿にして来た者達の尾が腐る呪いを掛けて、道満は播磨を飛び出した。あちこちから聞こえる阿鼻叫喚に胸がすいた。

     長年の住処を捨てて、外の世界に出た道満は人の流れを目印に土地を巡った。人が多い所は必ず物の怪も近くに居り、知見を広げるには適している。幾つか活気ある村に訪れ、豊かな山に入って、色々な物の怪から話を伺った。ある日、偶然出会った一匹の天狗から、山城という国にある都が、この世でもっとも人が多い場所であり、数多の物の怪が蔓延っていると聞き、そこに暫く身を置こうと道満は決めた。
     天狗の言葉が本当ならば、そこにはこの世で一番賢く強い狐が住んでいて、物の怪だけでなく人からも崇められているらしい。実に興味を惹かれる話だ。そんな狐が居るなら、必ずや尾を増やせる全てを知っている。或いは倒して喰らうことが出来たならば、格が上がって尾を取り込めるかもしれない。戦えば自身が勝つことを決して疑わず、道満は久しぶりに気分を高揚させ二つの尻尾を揺らしながら、都へと駆けた。
     そうして辿り着いた都は、道満の想像以上に賑わう場所であった。天狗の言う通り、人や物の怪を含んだ全てが溢れ返っていて、道満が初めて知るものも多かった。しかし残念ながら、都の獣も所詮は播磨と同じだった。他者を侮るしか出来ない弱者。道満の尾だけで力を把握した気になって、田舎者の低俗な狐だと嘲笑う。噛み付き引っ掻いて呪いを飛ばし、心と体を折って平伏させる。そんな事を繰り返せば、目当ての狐を見付ける前に、道満はあっと言う間に恐れられる存在になった。

    「――つまらないですねぇ」
     こんな体たらくでは、一番賢く強い狐という存在など期待出来ない。何処に出向いても自身と相手の力量の差を知ろうともしない愚かな狐ばかりだ。都に来て数日で失望して溜め息を付きつつも、お天道様の下で道満が都を捜索していれば、生い茂る裏道で一匹の白狐が歩いていた。離れていても僅かな呪力を感じる。神使の類だろうか、道の先には古びた神社があったはずだ。話し掛けようとして、道満は狐の異質に気付き、黒い足を止めた。
     尻尾が無い。
     驚くことに目の前の白狐には尻尾が一本所か、何も生えておらず、体毛に覆われた尻があるだけだった。誰かに千切られたのなら、傷跡や出っ張りがあるはずなのだが、それも見当たらなく、まるで初めから尾など存在していなかったような姿だ。声を掛けられずに凝視していれば、向こうが振り向いて目が合った。一応、姿隠しの術を使っていたのだが、まさか見破られるとは。尻尾が無い割には、察しが良い。
    「何か御用ですか?私の尻ばかり見ても面白くないですよ」
    「……あ、すみませぬ。最近ここに来たばかりで、話し掛けて良いのかどうか、迷っておりました。拙僧は播磨から来た道満と言いまする。実はとある狐を探してまして、貴殿が知っていれば是非とも教えて欲しいのです」
    「播磨から狐探しで?珍しいですねぇ」
     謝罪と共に尋ねれば、白い狐は少し笑ったかと思うと道満の前に歩み寄った。近くで見れば、何とも整った顔をしている。毛並みは日の下で輝いており、体から足の形もすらりと綺麗で、今まで会った狐の中で一番美しいと言っても過言ではない、だからこそ尻尾が無い所が目立ち、狐としては異質だった。感じ取れる呪力は少なく、道満の嗅覚は弱い存在だと告げているのに、細かい所が他の弱者と一致しない。
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