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    hatimitu_umeko

    @hatimitu_umeko
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    hatimitu_umeko

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    5千文字以内で一作目は終わるつもりでした。先が長い。

    ☕️のガラハイ途中 勤務時のガラは、ポケットにキャンディーを忍ばせて持ち歩いている。有名メーカーの多種多様なフルーツの味がするカラフルな個包装のドロップ。自宅のキッチンテーブルの上にファミリーサイズの袋を常備していて、毎日出勤の前に片手で掴み取ってはポケットに突っ込んでいた。仕事帰りに待ち合わせた際に、時折ポケットをハイドが探れば、余ったキャンディーが残っていることがある。たまに気が向いたら、勝手に貰って食べていた。
     ポケットのキャンディーの殆どはガラの口に入ることなく、病院に訪れる子供達に手渡されている。そもそもキャンディーを持ち歩く理由は、病院で泣く子供を宥めて落ち着かせる為だった。ガラが医療事務員になったばかりの頃、顔の傷が原因で子供に怯えられると悩んでいたから、ハイドが菓子で機嫌を取れと助言したのが、事の始まりだ。以降、ガラの上着の左ポケットはハイドが知る限り、長い間キャンディーで膨らんでいる。
     二十年ぶりに再会した時、ポケットの膨らみと中から出て来たチェリー味のキャンディーに嬉しくなったのは、百年はガラには秘密だ。煮詰めた砂糖と水飴に包まれた赤い着色料と香料、僅かな濃縮果汁。久しぶりに舌の上に転がして味わえば、思い出通りのチープな甘さがして懐かしい。小さくなれば牙で噛み砕き、赤くて甘い唾液を飲み込む。そんな思い出深いドロップは、シアトルに住処を戻して二人の時間が回り出し――ガラと恋人関係になってから、フルーツ味のキャンディーキスをする口実になっている。
     ファーストキスは夜の帰り道。味はストロベリーでもレモンでもなく、互いにそれぞれ飲んだコーヒーと紅茶が混ざったものだった。甘酸っぱさの欠片も無いが、吸血と人狼のカップル、自分とガラにはお似合いだと思う。柔い自分の肌にガラの髭が当たって、少しばかりチクチクしたのを覚えている。


     一週間ぶりのシアトルは、変わらず騒々しい。昨日まで出張でカナダのオタワに居たせいか、何時も以上に耳に響く。ロサンゼルスも似たようなものだったが、シアトルは良くも悪くも大衆的だ。文化の最先端が一斉に集まる場所で無いが、それがハイドにとっては心地良いと感じる。流行を生み出す仕事に就いているからこそ、最近は仕事の忙しさから、プライベードぐらいは離れたい気持ちがあった。
    「すまない、ハイド。待たせたな。外来で受付が立て込んで、残業になってしまった」
     金曜日の午後九時、駅前にあるパブリックスペースにて。メッセージアプリで最後の連絡を確認した後、空いたベンチにハイドは腰掛け、買ったばかりの本を開いた。喫茶店を舞台にした群像劇だ。数頁ほど読み進めた頃、待ち望んだ男に声を掛けられて顔を上げた。大柄で髭面の人狼、ガラが申し訳なさそうにハイドを覗いている。その顔を安心させる為に笑みを浮かべ、ハイドは本を閉じて立ち上がった。
    「気にするな。近隣を探索して、退屈せずに時間を潰せた。裏通りの古ぼけた本屋が、まだ残っていて驚いたぞ。店主が変わらずケチなドワーフの爺さんで、十分以上立ち読みしたらハタキで肩を叩かれた」
    「そうか、退屈しなかったのなら良かった。それとあそこは二十年間、ずっとそんな感じだ。だが入荷する本のセンスが良くて、本好きには人気だな」
    「ふむ、確かに。フレイヤの新刊が宣伝されていた」
    「この前、処女作の続きが出ると言っていた奴か。その本がそうか?」
    「あぁ本屋の経営と友人の印税に協力しようと思ってな。まだほんの数ページだけだが、こちらも変わらず面白い。ただスーパーモデルの人間の女性については、未だ変更点に異議を申し立てたい」
    「別に良いじゃないか、ストレートに出した方が問題だ。有名なのは、お前の方だからな」
    「しかしこのシリーズの本の中の彼女は、物怖じしないのは良いが、我が強くて周囲を振り回す傾向にある」
    「何も問題ないだろう?何処かの誰かさんにそっくりだ。むしろそっちの方が大人しい……っいて」
     恋人を庇わない男の頬を軽く抓る。けれどガラは意に介さず、呑気にも本を買う予定を立てていた。髭を毟ろうかと一瞬考えたが、それもネタとして本の中で痴話喧嘩と執筆されそうで止めた。今夜はコーヒートークで抹茶を飲みたい気分である。ガラの髭が一部無いことにバリスタとフレイヤは直ぐに気付くはずだ。元よりただの軽口だ。髭を撫でて手を離した所で、作中のモデル女性も同じ事をしていたと思い返した。確かにフレイヤは、観察眼は良いかもしれない。
    「さて今夜はシンガポール料理の店で構わないか?同僚に勧められてな、チキンライスが旨いらしい」
    「構わない。食後の一杯はコーヒートークで。サインも欲しいからな」
    「勿論だ」
     本をガラのビジネスバックに放り込み、左側に並んで腕を組む。目的のレストランは、駅から歩いて十五分程のようで、このまま行くことにした。駅から離れて周囲の人通りが少なくなった所で、気まぐれにガラのポケットに手を入れて膨らみの中身を探る。馴染み深い大きさの物を一つ掴んで取り出せば、何時もの物とは違うキャンディーが出て来てハイドは、微かに首を傾げた。薄茶色の地味な個包装。子供が惹かれる光沢感のあるカラフルな見た目から懸け離れている。
     包み紙を開くと淡い黄色のドロップが現れた。無添加らしく、薄いが清涼感のある匂いがする。ちらりと横のガラを見ると視線が合ったが、特に何も言わなかった。何時ものキャンディーが売り切れだったから、別の物を買ったのだろうか。色から察するにレモンだろうかと思い、口に入れて舐める。最初に感じるのは水飴の甘さ、しかし一気に強い辛さが舌を刺激してハイドは目を見開いて咳き込んだ。その不恰好な反応にガラが笑い声を上げる。
    「はは、そいつは俺用の生姜キャンディーだ。生の搾り汁と粉末入りでかなり濃いぞ」
    「っクソ。ガラ、騙したな」
    「騙したなんて人聞きが悪いな。お前が俺の懐からキャンディーを失敬する事は日常茶飯事だし、何味でも構わず食べていたじゃないか。生姜味だって変わらないだろうさ」
    「むっ……」
     正しくガラの言う通りで、ハイドは反論を生姜の味と共に飲み込んだ。それでも恋人に注意を促す優しさは合ってもいいはずである。今日のガラは意地悪だ。そういうのはベッドの上だけで良いと言ったら、何故か今度はハイドの頬が抓られてしまった。抓られたまま解せない気持ちでキャンディーを転がす。最初は刺激に驚いたが、生姜と分かって味わえば、恐らく美味しい方に入る。子供には不評なピリピリとした辛さは、ガラが好む味だ。
     早々に噛み砕こうと思ったが、抓っていたガラの手が肌を摩り、顎を掴んだ辺りでハイドは牙を止めた。建物の横の薄暗い路地に隠れて立ち止まる。パパラッチが居ても見付けられない位置だ。笑うガラの顔が近付き、自分よりも大きな口と牙で唇を塞がれる。二人の絡まる舌の間に小さくなったキャンディーを転がした。溶けて無くなるまで舐め合ってキスを続ける。生姜味のキスは初めてではないが、これはガラハッドの時よりも濃厚だ。僅かな水飴がそれを引き立てる。
     カフェインと生姜には発作を抑える効果があったはずだが、キスの勢いは普段より幾分か強い気がした。長い舌がキャンディーごと、ハイドの舌を舐めて食べようとする。今ここで満月になったなら、きっと狼の喉奥に頭を差しだしているなと考えて細やかに笑う。すると組んでいた手が後頭部に回され、舐める強さが増した。気圧されない為にも背伸びしてガラの腕に縋り付く。舌の痺れがキャンディーのせいか、ガラのせいか曖昧になる。
    「ん、んぅ……確かに悪くない味だった」
     舌の間のキャンディーが薄い板になり、牙でひび割れて唾液に溶ける。そうして味が薄れた所で唇を離した。キスの激しさに対して舌に後味は残らず、互いに唇だけが少し赤くなっている。ハイドの腫れはレストランに到着する迄に治るだろう。けどキスで自分から移ったリップグロスは、ガラの口元から暫く消えなさそうだ。少なくともベッド前のシャワーまでは。コーヒートークで揶揄われるのを想像して愉快になる。
     何事も無かったかのように、再び腕を組んで光ある表通りに出た。生姜入りのキャンディーの事を聞けば、輸入食品店で見付けたらしい。甘さが控えめで生姜が強く、余計なものが入っていないのが気に入っているようだ。元々生姜が好きな男だったが、ガラハッドの影響で近頃は、より拘っている傾向にある。吸血鬼にとって血液以外は嗜好品に過ぎないし、ハイド自身も好みだから止めずに付き合っているが、そろそろ今夜辺りガラに噛み付いたら生姜の味がしそうだった。
    「テイクアウトしてタンブラーで持ち歩くにしても、精々一日だからな。その点、キャンディーなら常温で長持ちする。紅茶や蜂蜜入りなんかもあったが、甘過ぎて駄目だった。今の所はこれが一番良い」
    「効能は?」
    「流石にバリスタが淹れたものと比べたら、かなり落ちる。だが気休め程度にはなるし、無いよりはマシだな。プラシーボ効果な気もするが」
    「それでお前が少しでも安定するなら良いことだ。なら次の土産は、生姜のキャンディーにするか。今回は残念ながら空港で買ったメープルシロップとバターだ」
    「俺は人様の土産にケチ付ける男じゃないぞ。いや、まぁ手錠にだけは文句は言ったが……次は長いのか?」
    「来月、フロリダに行く予定だ。十日間程、滞在する。それが終われば、暫く出張は無いはずだ。急な案件が入らない限りは……それでもシアトルでの撮影が溜まっているから暇になれそうにない」
    「お前は人気モデルだからな。仕方ない。今、病院前の看板は一面ハイドの写真だぞ」
    「看板?ふむ、心当たりの案件が多過ぎて分からんな。ちなみに同僚に自慢はしたか?この看板のモデルは俺の恋人だと」
    「いや、言ってない。お前は高嶺の花だからな。医療事務員とスーパーモデルだ。釣り合いが取れなくて、誰も信じないさ」
     ハイドからすれば、随分と愚かな謙遜をガラは笑って呟いた。あまりにも平然とした態度を取るものだから、反論するタイミングを逃してしまう。ガラが築いてきた信頼と評価を顧みれば、疑う同僚は誰も居ないはずだ。それに今時、釣り合いなんて言葉で関係性を否定する者はフィクションの中の登場人物か、価値観をアップデート出来ない長命種族ぐらいだ。何より十分にガラとハイドは対等な立場の恋人である。
     この状態のガラに考えを改めさせる為には、根気よく説得する必要がある。だがディナーの席まで、盛り下がる話題を引き摺りたくはない。基本的に率直な自分にしては珍しく対応に悩んでいれば、レストランに到着してしまい、否応なく食事と他の話に移り変わった。また気が向いた時にでも掘り返せば良いと諦めて、ハイドはガラに連れられて席に着いた。エスニックな香りに鼻腔をくすぐられ、気分を切り替えて食事に期待を寄せる。乾杯した食前酒は素晴らしく、一つの懸念はアルコールと共に喉元を通り過ぎた。
     その後のディナーは程々に楽しく終わりを迎えた。ガラの同僚が勧めたシンガポールの店は本格派で、どれも香辛料を活かしていて本場に負けず美味しい。メインのチキンライスは軽食だが、他とは違ってさっぱりとした味わいで、生姜入りの出汁スープがよく合っていた。同僚はガラの好みを熟知している。聞けば同僚は人虎で、十五年の付き合いらしい。ハイドが会わなかったガラの時間を知っている。会わない選択をしたのは自分なのに、羨ましく感じた。
    「――コーヒートークに行こう」
     給仕が勧めるアジアの甘い紅茶に惹かれつつも断り、渇いた舌を抱えてタクシーを拾う。最後のポケットに残ったチェリー味は、一人分にしては甘過ぎたが運転手が居る手前、二回目のキャンディーキスはしなかった。代わりに指先をひっそりと絡ませる。二十年ぶりの反動か、時折互いにティーンのような触れ合いをしてしまう。古い歴史の中に置き去りにしたはずのうら若き衝動。それをカウンターで語れば、同席したニールはそれを人類の蜜月と語った。
     別れの時を振り返る。過去の蜜月は短かっただけに、今回は終焉が来ないことを願う。記憶が現代に戻り、チェリー味の余韻が消えた頃に光るコーヒートークの看板が見えた。十一時を過ぎていたから、店じまいしていないかと危惧していただけに安堵する。指先を離してタクシーを降り、店の扉を開く。一週間ぶりの心地良い穏やかな空間に笑みを浮かべてハイドは、バリスタに挨拶しながら席に着き、熱い夜を過ごす為の飲み物を頼んだ。
     苦みが強くさっぱりとした抹茶を一杯。
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