花盗人は愛を詠う 4.5話 運命なんてレオと司をレオの部屋に押し込んだ凛月は、後宮の入り口に来ていた。
「おぉ、凛月や。久しぶりじゃのう。」
「兄者、朝になったらはーくんにスーちゃんは王さまの部屋にいるって言っといて。それだけだからよろしく。」
「待っておくれ。挨拶もなしに要件だけかえ?」
「……はぁ。特に話すこともないし。」
凛月が溜息をつきながら話しているのは、後宮の夜警を担当する第3騎士団の隊長を務めている兄の朔間零。あることがきっかけで凛月は零とあまり話さなくなったが、零からは積極的に話しかけるため凛月はいつも鬱陶しそうに対応していた。
「最近衣更くんとはどうじゃ?仲良くしておるか?」
「ま〜くんが最近忙しくしてるの知ってるくせになんでそんなこと聞くの。」
「弟たちの心配をするのは当然のことじゃろう?そうか、会えておらぬのか。『Trickstar』は今や引っ張りだこの有名クランじゃからのう。」
「……人の心配してる暇あるんだったら、自分の奥さんと子供に構ってあげたら?」
「そうじゃな。冬哉が生まれてからは皆気を使ってなるべく当番を減らしてくれておるが、それでも2人との時間は少ないからの。晃牙の代わりに仁兎くんの所の天満くんを借りておるがそれでも人員は足りておらぬ状況じゃ。」
「それが分かった上でコーギーと子供作ったんでしょ。自業自得。」
「相変わらず痛いところを突くのが得意じゃの。」
零は半年前に同じ第3騎士団のメンバーである晃牙との間に第1子となる男の子が産まれていた。晃牙と同じ狼の獣人である冬哉に対して、目に入れても痛くないくらいの可愛がりようで、つい先日おすわりできるようになったのだと嬉しそうに話していた。
凛月が零に対して冷たくなったのは零と晃牙が交際するようになってからだ。晃牙が現れる前に零は既に運命の番である羽風薫と出会っていた。朔間家も羽風家も貴族であり。薫は次男坊であったため、明確な書面を交わした訳では無いが、将来2人が番になることは両家の共通の認識だった。零自身も漠然と薫と自分は番になるのだろうなと考えていた。しかしそれが変わったのが零に憧れて晃牙が騎士の養成所に入ってきてからだった。真っ直ぐに零に対して尊敬の眼差しを向け、慕ってくる晃牙に対して最初は困惑していたが、次第に可愛がるようになり、それが恋愛対象としての愛に変わっていった。晃牙もいつの間にか零に対して恋慕の情を抱くようになり、2人は想いを通じ合わせて交際を始めた。勿論薫の存在がある手前、表立って逢い引きすることは難しかったが少しずつ愛を深めていった。そして零と薫が正式な騎士になると言う時、正式に婚約をとなったのだがそこで零は晃牙を娶ると宣言したのだ。当然大反対されたが、零の必死な説得と薫自身が2人を応援すると言った事で収まり、晃牙の成人と共に番になり結婚した。
運命など関係ないと言わんばかりに強く惹かれ合い、愛し合う零と晃牙を見ていると運命の番でなんの疑いもなく成人前に番った自分と真緒の"運命"を否定されたような気分になるのが凛月にとって苦しかった。これが身内以外であれば凄いで済んだのかもしれないが、血の繋がった兄弟が運命を塗り替えてしまったことは衝撃的なことだった。未だに薫には相手はおらず、とある人に失恋したようであったから、余計に零に対して怒りの気持ちが湧いてしまうのだ。
「せいぜいご家族と仲良くしてなよ第3騎士団長サマ。」
凛月はそう言い捨てて足早に暗闇へと消えていく。返事なんて聞く気など更々ない。所詮、零と晃牙、そして薫の間に起こったことは当人たちの問題で、凛月に直接は関係ないことであり怒ったとて仕方の無いことなのだということは分かっている。甥である冬哉は凛月にとっても可愛いと思える存在であるし、冬哉がきっかけで晃牙とも交流をするようになり以前よりは晃牙に対する凛月の態度も軟化していた。
凛月は運命とは一体なんなのだろうかと考えることがある。確かに自分と真緒の間には絆があり、零と晃牙の間にもある。レオと司はまだ結んでいる途中ではあるがいつしか固く外れないひとつの太い絆になるという自信があったからこそ今回司を連れ出してレオと2人きりにさせた。
「お膳立てしてあげたんだから、ちゃんと進展してよねぇ。」
凛月はふっと笑って夜空の月を眺める。
満月の光が部屋で睦み合うレオと司を照らした。