うさぎのおくりもの今日は音楽の権威ある賞の授賞式があって、受賞したおれはそれに参加して帰ってきた。
「レオさん、改めて受賞おめで……。」
今まさにお祝いの言葉を言おうとしたスオ〜の頭にポンっとうさ耳が出てきた。口をぱくぱくさせてるから、どうやらシーズンに入ったみたいだ。
『大切な授賞式の後ですのに、ごめんなさい。』
ピコンとスマホの画面にメッセージが映し出される。
メッセージの送り主、スオ〜は目の前でベッドに沈んでおれを申し訳なさそうな顔で見ていた。
フラッフィであるスオ〜は3ヶ月に1回シーズンが訪れる。今回はあと2週間で来る予定だったのが早まっちゃって、慌ててオバちゃんに連絡してお休みをずらしてもらった。ドロップ型でより寂しがりになるスオ〜のお世話をするのは当然番のおれ。シーズン中は声を出せないからスマホで会話。感覚も鋭くなってるから服は上だけ着て、今はこうやってふとんにくるまって大人しくしてる。
「気にしなくていいよ。こうやってスオ〜と1週間一緒にいられるんだからさ。」
うさ耳に触れないように頭をなでるとぶわっと泣き出した。
「あー、泣かないで。ほら、朝ごはん食べよ。」
タオルでそっと涙を拭って、上半身を起こしてやる。にんじんを混ぜたとろとろのおかゆをふーふーしてからスプーンでスオ〜の口に運ぶ。
「おいしい?」
こくこくと頷いて、飲み込む。
何度か運んで完食したスオ〜は、なにか考え込んでから、スマホに何か打ち込み始めた。おかわりでも欲しいのかな?って送られていたメッセージを確認する。
「えっ。」
そこに表示されていたのは『スイッチをいれてもいいですか。』という文面。思考が停止しかけたのをなんとか動かしてその言葉の意味を理解した。
「スイッチ入れるってことは、赤ちゃんできちゃうってことだぞ?いいのか?」
動揺で器を落としそうになりながら聞くと、スオ~は恥ずかしそうに頷いた。スオ〜と番になってからいつかは子ども欲しいなって何度か思ったことあったし、最近は親になる同世代のクライアントも増えてきて現実的に考えるようにもなってきていた。
スオ〜と子作り。うん、なんだかとっても興奮する響きだ。サイドテーブルに器を置いてベッドに身体を乗り上げる。敏感になってるスオ〜の身体は少し触れただけでビクビクと跳ねていた。うさ耳の付け根をくすぐるように触れながら唇にちゅーをする。熱いお口の中を味わい尽くすように貪ればすっかり蕩けきった顔になっていた。シーズンじゃなかったら可愛い声が聴けると思うとそこは残念だけど、吐息で感じてくれてるのはわかるし、いつもより積極的になってくれるから問題ない。強いて言うなら加減忘れちゃうから気絶させちゃって後で怒られるってところかな。
「赤ちゃんできるように沢山愛してあげる。」
掛け布団を取り払ってスオ〜の発情した身体を押し倒した。
ぼんやりとした視界の中にあなたにそっくりな橙色の髪と顔に私と同じ紫の瞳の女の子が映る。
「――。おいで。」
いつの間にか隣に居たレオさんがその子を呼ぶ。なんて呼んだかは聞こえなかったけれど、その表情は優しさに満ちていた。愛おしさいっぱいにレオさんと駆け寄ってきた女の子を抱きしめて目を閉じる。
再び目を覚ますとそこはベッドの上だった。全身が重くて、動かすのも億劫だ。お腹に手を当ててさっき見た光景を思い出す。多分、おそらくあれはきっと。
「スオ〜、おはよう。」
お盆を手に持ったレオさんが寝室に入ってきた。声を出せないのをいいことに、予行演習をしてみる。
"おはようございます、パパさん。"
「ん?おはようの後なんて言ったの?」
『内緒です』とメッセージを送ってふふっと笑う。
「なんで笑ってるの気になるんだけど」
頭にクエスチョンマークを浮かべるレオさんに今度は『はやく食べさせてください。』とメッセージして、お腹に向かって心の中で話しかける。
とっても素敵なお父さんが貴女を迎えてくれますから、安心して来てくださいね。
じんわりと暖かくなるお腹にあの光景がそう遠くない未来やってくるという確信めいたものを感じながら、私の上半身を起こそうと腕を伸ばすレオさんに身を委ねた。