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    wr_erimark

    自創作の二次創作(腐)置き場
    取先のR18多め

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    wr_erimark

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    なぜかどうしようもなく気に入らなくて本編に入れなかったおまけ。
    何かがない限り入れる予定はありません。

    小咄②のおまけ 暗くなる部屋の中、部屋の明かりでは眩しさで先生が起きてしまうのではないかと危惧した結果、文机に置いてあった石油ランプを点けることにした。片手は先生に握られているため、片手でホヤを外す。先にねじで芯を出来る限り短くして炎の明るさを小さくしてから、文机下にあるマッチを拝借し、箱を銜えて何とかマッチに火を点ける。その火をランプの芯に移し、ホヤを被せた。
     ふう、やれやれ。空いている手が利き手で助かった。一仕事を終えた気分で額を手の甲で拭う。
     暖色の光を先生から遠ざけて、先生が起きるまでの間、気を紛らわせるために文机の引き出しに入っている書きかけの文章たちを取り出した。何かをしていないと暗い思考が少しずつ頭に染み込んでいく感じがあったからだ。
     走り書きで簡素にまとめられた単語や話が飛び飛びになっている話たちを読み始めて暫くの後、視界の端で先生が動いた気がした。
     文机から顔を上げ、先生を見下ろして、僕は何も言えなかった。
     先生は、哀しみと諦め以外のすべての感情の糸をぷっつりと切ってしまったような表情をなさっていたのだ。今にも閉じそうなほどに伏せられた瞳から流れ落ちた涙の跡が、ランプの光を受けて酷なほどに輝いている。何に悲しんでいるのか、何を諦めようとしているのか、先生は何も話してくれない。また何か良くない思いに責め立てられているのだろうか。
     傍らの僕など気付いていない様子で泣き続けるどうしようもなくかわいそうな人に「せんせい、」と小さく呼びかけ、身を乗り出して空いていたもう片方の手のひらで先生の両の目を覆う。手のひらが濡れる。先生はようやく僕が、自分が起きていることに気づいていたと気付いて、大袈裟に身体を震わせた。身を固くして怯えの気配を醸す姿に心臓が深い傷を負ったみたいな痛み方をした。
     握り返されない手のひらを握り込み、震えてしまいそうな舌を一度噛んで何にも気付いていないのではないか、と感じさせるくらい明るく繕って僕は口を開いた。
    「まだ眠たいでしょう。いいですよ、寝てくださって。でも、次起きた時はお粥を食べて、薬を飲みましょうね。薬が効いてきたらお風呂に入りましょう。身体を清潔にすると気分もすっきりしますよ。あァ、髭も剃らないといけませんね。その間に滋養のある食べ物を買ってきますから、食べたいものがあれば仰ってくださいね。食べたいものを食べられるだけ食べて、またゆっくり眠ってください。大丈夫、何にも心配はいりません。先生が眠るまで、目が覚めても、僕がずっと、お傍におりますからね」
     少しずつ強張る身体が緩むまで辛抱強く待つ。そっと手を離した頃には、先生は眠りに落ちていた。目の端々に光る涙を指の背で拭った。
     あァ、貴方は、意識の外でしか涙を拭わせてくれないのですね。




     目が覚めた時、橙色の光が私の目を焼いた。
     反射で閉じた瞼の裏に残る残像を見詰めながら、「かたい」から「少しかたい」へと変わっただけの床の感触と全身に被さる掛け布団の重さに、いつの間にか押入れから布団に移動していたようだと予測を立てる。
     暗闇の中、私は何か平べったい塊を両手で挟むように握っていた。ようやく薄らいだ残像から逃れ、焦点を合わせてその塊を見る。
     突き立ての餅の表面のような肌触りのそれには爪が生えている。手だ。……だれの。疑問のまま、手の先へ視線だけを向けた。
     文机の足を背景に、私の目を焼いた光を受けて柔らかな橙色に染まった白いシャツを登る。腕、肘、二の腕までゆくと、夕日色のランプの光に照らされた取り立て屋の男の横顔があった。
     なぜ居るのだろうかと考えるも寝起きの思考は、ゆるい泥で団子を作るようなもので、全くまとまらない。
     マ、来たから居るのだ。それに違いはない。
     電気くらい点ければ良いものを彼は、わざわざランプを灯して文机に置かれた何かを頬を弛めて読んでいた。硝子の中の炎がチラチラと揺れる度、彼の瞳もキラキラと輝いて見えた。
     いいな。彼にあんな顔をさせるなんて羨ましい。私もあんな表情をさせる文章を書いてみたい。読んでいる人が楽しいと思わず顔に出てしまうくらいの文章を。
     くらい嫉妬がその羨望ごと胸の内を焼いた。
     高望みだ。私なぞ文字をそれらしく並べているだけ。そんな猿真似小説家には無理だ。湧いてくる怨嗟の自戒にまた涙が出てきた。もう駄目だ。何もかもが苦しい。こんな思いを何度もするくらいなら、筆を取らなければ、
    「先生、」
     柔らかな絹のような声と共にひやりと冷たい何かで視界を遮られた。その冷たさに身を固める。アア、こんな情けない姿を見られてしまった。恥ずかしい、叱られる、見損なったと言われるに違いない。ただでさえ、迷惑ばかりを掛けているのに。
    「まだ眠たいでしょう。いいですよ、寝てくださって。でも、次起きた時はお粥を食べて、薬を飲みましょうね。薬が効いてきたらお風呂に入りましょう。身体を清潔にすると気分もすっきりしますよ。あァ、髭も剃らないといけませんね。その間に滋養のある食べ物を買ってきますから、食べたいものがあれば仰ってくださいね。食べたいものを食べられるだけ食べて、またゆっくり眠ってください。大丈夫、何にも心配はいりません。先生が眠るまで、目が覚めても、僕がずっと、お傍におりますからね」
     私の手を握った彼の手が、言葉が、私に残された一縷の光のように思えた。
     アア、嵐が晴れていく。
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