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    tanny_unt

    @tanny_unt
    劣情なげすて処

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    tanny_unt

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    クリテメ

    ※4章クリア後推奨
    ※転生ネタ
    ※直接表現なし事後

    #クリテメ
    critémé

    生まれ変わった君と『……ッ クリック君……?』
    『……どちら様でしょうか?』


    一一一一一彼が失われて17年の月日が経ったある日の事だった。

    あれから傷心旅行だの散歩だのと、赴任先の教会に言い訳をしながら彼の居た痕跡を辿っていた。彼の故郷に訪れると偶然が必然か、親族への面会が叶い遺品の一部をわけて貰うことに成功した。後生大事にする心算で、鎧の一部を首飾りに加工し肌身離さず持ち歩いていたのだが……まさか、その張本人に瓜二つの人間に遭遇するとは。神は何を考えているのやらと深い溜息が手前勝手に漏れ出ていく。それほどにあの旅の先々での想い出は、今も褪せずに心へ深く根を伸ばしていた。

    別人と理解しながらも身体の奥底に熱が灯る。本当に気紛れに…けれど離れがたくて、関係を持ってしまったあの夜。寒さのせいだったのかもしれない。宿の外ではしんしんと積もる雪が窓を凍てつかせ、吐く息をも白くしていたのに。不思議と寒さは消え、噎せ返るほどの引かぬ熱さと彼の放つ激情に揺さぶられた記憶が一息に蘇った。

    『…あぁ、知り合いにとてもよく似ていて驚きました』

    ……取り繕えているだろうか。見知らぬ人間に劣情を催すような人柄だと誤解を受けたくはない。すると彼によく似た面立ちの人はパッと華やかな笑顔を浮かべた。

    『そうだったんですね!僕はレリックです。』
    『(……名前までそっくりなんですね。)しかも"聖遺物"だなんて仰々しい。』
    『何か言いましたか?』
    『いえ、なんでもありませんよ。』
    『(絶対に何か言ってた…)』
    『私は聖火教会所属の審問官です。ここで会ったのも何かの縁。導いてあげましょう、迷える子羊くん。』

    ぱちぱち、と双眸が見開かれている。光を煽って宝石のようになんのてらいもなくかがやく瞳が、刹那の疑心に陰る。

    『……こ、こひつじ…!?聖職者がそんな冗談…!それに、ちょっと軟派では…』

    出逢ったばかりの彼を思い返すような態度に思わず笑みが毀れる。久方振りの、心からの喜びだった。

    『フフ、そんなふうに邪険にされると本当に口説いてしまいますよ。』
    『やめてください。ほんと、しょうがない人だな…。』

    呆れながらも浮かべられた苦い笑みに、今度はこちらが目を剥く番。彼に似た、彼の素を見た。悪い事をしている自覚とともに意図しない快が背筋を這い昇る。

    『おや、猫被り君でしたか。』

    違う人間、違う人間なんだと言い聞かせる。彼ではないのだと…想いを巡らせる。

    『……。』




    『……はぁ、貴方を騙すには僕はまだまだ経験値が足りないみたいです。』

    子羊は何かを呟いたようだが、届くことはなかった。

    思案の際、一部の感覚を失うらしい己の癖。一度始まれば解を得るまで途切れることは基本的に、ない。そんな時、彼は呆れながらもいつまでも待っていた。思考の果てで感覚を開けば彼の姿が迎えてくれる。……ひどく懐かしい気持ちが胸の内を満たしていく。

    『……あ、戻ってきた。』
    『……!』

    気づけば往来で縋りついていた。既視感の強すぎる光景に、誰にも開いたことのない心の扉が独りでに開かれていく。

    きっと驚いたことだろう。ひと回りも年上の男に突然抱きつかれたら。じんわりと眦を濡らす感覚を覚えて身を竦めた。もういないと割り切っていたつもりなのに、後から後から溢れて殺しきれなかった嗚咽が使い込まれた彼の鎧に吸い込まれていく。

    ふと、何かに覆われる気配がしてどきりとする。


    『大丈夫、僕はここにいますよ。テメノスさん。』

    以前より大きな体躯に背負った聖堂騎士の外套に包まれて、人目を避けるように宿屋へと連れていかれた。涙で冷えた頬が急速に熱を帯びる。

    『名前、教えてないですよ。』
    『わかってる癖に……意地が悪いところも変わってないですね。』
    『意地の悪さなら貴方も負けてないでしょう、黙っていた罪は重いですよ。』

    鎮まりつつあった感情が再び揺さぶられ、はらはらととめどなくこぼれ落ちていく。瞳から筋をつくって流れる滴を骨張った指が掬いとる。

    『ああもう、僕が悪かったです。だからどうか、泣きやんでください。心臓がおかしくなりそうだ……』

    そう言った相手は熟れた林檎みたいに真っ赤に頬を染めていた。眉根を寄せ苦しそうに、けれど真剣な眼差しがこちらを深く貫いてくる。腰掛けた寝台がぎし、と鳴って彼によって掛けられた体重分が僅かに沈みこんだ。抱きしめられたことを自覚したのは腕の中の檻に閉じ込められた後で。

    『フフ、おかしくなっていいんですよ。』

    逃がさないとでも言うような力強い抱擁。彼の生命を間近に感じてしまえば疑いようがなく、観念して背中に腕を回す。

    『そのままで聞いてください。……私ね、あなたにもう一度逢えたら…二度と離さないと決めていたんです。』

    一世一代、二度と言うこともないだろうおべんちゃらな台詞も、吐いてみれば存外しっくりと耳に馴染む。堅牢な腕の檻が解かれ、顔を見合せてくる彼の挙動ひとつひとつが愛おしくて口付けたくなる。

    『え、それって……』
    『そういう事です。……いいでしょう?』



    『……はい!』

    聖火神よ……願わくば君という光を、守り給え。
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